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銀狼討魔録 ~傭兵の母娘と謎の盗賊団~  作者: 松木 一
第二章 謎の町ヴェルゴー

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第40話 密偵

 アリシア達を見送って間もなく、黒い怪物が獰猛な咆哮と共に襲いかかってきたが、ロディは焦ること無く、飛びかかってきた怪物を斬り捨てた。


 怪物は二匹来ていたはずだが、一匹しかいない。

 後ろから聞こえる、苦痛に満ちた悲鳴から察するに、もう一匹はカルトロップを踏んで、のたうち回っているのだろう。


「行きましょう!」


 皆で仲間の後を追うと、後ろで、新たに罠に掛かった怪物の悲鳴が上がる。


「一匹来たわ!」


 何かに気付いた様に後ろを見たアネモスが、焦った声を上げる。

 その怪物が、ロディの剣で屍を晒して少し経つと、再びアネモスが声を上げた。


「また来たわ! 今度は四匹! 気をつけて!」




 濃霧の向こうの炎を背に、迫る四匹の怪物と、空を舞う蝙蝠達の影が見える。




(少し敵が多いな……術が効かないって言ってたし、今のうちにカートリッジが役に立つか確認しておくか……これは、大丈夫だと思うんだけどな)



 ロディは、腰のホルダーからカートリッジを一つ取り出し、義手では無い左手の指で、種類と起動方法を確認した。


 暗闇でカートリッジに書かれた文字は見えないが、そんな状況での識別として、カートリッジに刻まれた模様等を触れば、封入された術と起動方法は分かる。


 カートリッジに込められた術は氷の矢で、起動方法は即時起動。

 起動ピンを抜いて五秒後、カートリッジに込められた氷の矢が、投げた方向にある最寄りの最も大きな動く物を、音も無く穿つ。



 ロディは、カートリッジの起動ピンを抜いて、迫る怪物に向かって投げた。

 それを興味深げに見るマーシア達の見る前で、投げたカートリッジが弾け、そこに霜のような小さな塊が出来たが、すぐに霧散していく。


「くそーーっ! カートリッジもダメかっ!」


「今のがカートリッジ? 一瞬、何か出たけどダメだったの?」


 マーシアの表情には、驚きが窺える。


「ああ、消えたよ! カートリッジは術封じを受けても使えるし、ちょっと高かったのにっ!」



 スタンロッドやカートリッジ等の、警備局が局員専用に開発した道具は、全て自腹で買わねばならない。

 警備局発足当時は、必要なだけタダで貰えたが、無駄遣いされたり色々あったらしく、すぐ有料になったようだ。



「君達! もうお喋りは止めて。私が左の二匹をやるから、君達は残りを」


「了解!」「分かったわ!」


 厳しい目で怪物共を睨むサラマンダーの言葉に、ロディとマーシアが頷く。


 それを見た、サラマンダーが駆け出した。

 ロディとマーシアが後に続き、三人はすぐに怪物共を斬って捨てる。


 女戦士の姿を取るサラマンダーは、凄まじい剣の腕前で、鎧袖一触で二匹の怪物を斬って捨てた。

 あの強いアリシアが、頼りにするだけの事はある。


「よし、行こう! 少し離れすぎたかも」


 その時、駆け出したロディを制止するように、サラマンダーが腕を伸ばした。




「待ちなさい」


 冷たい目で、怪物の骸を見下ろすサラマンダーが、鋭く囁く。


「怪しまれない様に後ろを見て。あの蝙蝠共、ずっと私達の側を離れようとしない……怪物の使い魔かもしれん」



 横目で後ろを見る彼女が呟く。

 顔を上げないのは、相手に気付かれない為の欺瞞だろう。



「え?」


 彼女の指摘に少し驚いたが、ロディは黙って慎重に周囲を探るふりをした。

 横目で後ろを見ると、少し離れた所に、濃霧の向こうから差す炎の明かりに照らされ、低空を舞う数匹の蝙蝠の影が見える。


「……あの蝙蝠達……確かに僕達から離れないな……まさか、本当に使い魔?」



 低空を舞う蝙蝠達は、どう見ても虫を捕まえている様には見えない。


 サラマンダーは怪物を斬る時、余裕綽々といった風だった。

 余裕ある彼女だから、燃える宿を見ながら戦った時に、蝙蝠の怪しい飛び方に気がついたのだろう。


 ロディも同じ場所にいたのに、迫る怪物だけに気を取られ、彼女に言われるまで全く気付かなかった。


 それに、宿から離れるほど、宿を燃やす炎も遠くなる。

 もう少し離れれば、炎を背にしても、小さな蝙蝠など分からなかったと思う。



 使い魔は、高位の魔術師や悪魔、吸血鬼等の高い知性を持つ連中が使う手先。

 そんな強い敵など、あまり現れないし、警備局に討伐の依頼があったとしても、その手強さから、担当するのは上位の警備局員だ。


 使い魔の事は知識としては知っていたが、普段オーク等の弱い怪物を相手にしていたロディは、使い魔がいる可能性自体に頭が回らなかった。


 顔を強ばらせてロディを見つめるマーシアを見るに、恐らく彼女も、似たようなものだったのだろう。



「……奴等から、極微かに怪物の気配を感じる。物凄く分かりにくいが間違いなく奴等は使い魔。それも、これ程までに気配を感じさせない見た事のない奴だ。今回は運良く気付けたが、怪しさに気付かないと、私でも普通の蝙蝠と見分けが付かん……恐らく宿にも潜んでいたと思うが、アリシア様や、あの用心深いシルフが気付かなかったのも無理はない……」


 そう言うと、横目で蝙蝠を追っていたサラマンダーが急に顔を上げ、蝙蝠共を睨み付けた。


「消えろっ!」



 彼女が忌々しげに吐き捨てた瞬間、全ての蝙蝠が炎に包まれ地に落ちる。



「そっか……なぜ襲われたのか分かんなかったけど、使い魔に宿での話を聞かれたんだ……」


 地面で燻る蝙蝠共を見ながら、知らぬ間に宿に敵が潜入していた事を悟ったマーシアが、声を震わせて呟く。



 ロディが燻る蝙蝠を見ていると、先程、宿で見張りをしていた時、鎧戸の外に多くの蝙蝠が飛んでいたのを思い出した。


 多分、使い魔共は最初から宿の何処かに隠れていて、今後の事を話している時に聞いた事を、怪物の親玉に伝えたのだろう。

 今は、追っ手の怪物共に、自分達の居場所を教えているに違いない。



「あたし達の正体や目的も……住民が怪物って知ってる事も……情報は全部漏れたのね。やられたわ……」



「もう仕方が無いよ。早くアリシアさんと合流しよう。この事を伝えないと!」



「ええ。ネロ、出てきて」


 その言葉で、硬い表情で頷いたマーシアの横の空間が歪んだ。


「アネモス。ネロ。少しでも怪しい蝙蝠や生き物を見たら、見間違いでも良いからすぐにやっつけて! お願い!」



「分かったわ!」「了解よ!」


 状況の悪さを悟ったのか、ネロ達の声には緊張感が覗えた。


 ロディが後ろを見ると、また二匹の怪物の影が迫ってきている。

 ロディは焦る気持ちを抑えつつ、皆と共に、敵に向かって剣を構えた。

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