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銀狼討魔録 ~傭兵の母娘と謎の盗賊団~  作者: 松木 一
第二章 謎の町ヴェルゴー

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第38話 敵包囲網突破

 アリシアの言葉の後、大きな炎の蜥蜴の姿をとり、二本脚で立つサラマンダーとやらは、様子を探るようにじっとしていたが、程なく、ゆっくりと低い女性の声を発した。


「……確かに、何かで力を抑えられていますが、この程度なら、まだ大丈夫です。化けると術を求められても遅れますが、よろしいですね?」


「良いわ。夜は、貴女(あなた)の姿と術は目立ちすぎる。今は見つからない様にしたいから大丈夫」


「承知しました」



 蜥蜴の様な炎が、一瞬大きく燃え上がったかと思うと、人で言えば二十代半ばの肉感的なエルフ女性に姿を変えた。

 褐色の肌と長い黒髪を持ち、胸当て鎧とヘッドギアを身につけている。


 次の瞬間、彼女の右の掌に細長い炎が走ったかと思うと、その炎が湾曲した剣、新月刀(シミター)に姿を変え、次いで左手で燃え上がった炎が、丸盾に姿を変えた。



「……アリシアさん。精霊さんって化ける事が出来るのかい……?」


「ええ。力のある精霊はね。怪物も化けてるでしょ?」


 褐色肌エルフに化けた精霊を、呆然と見つめるルパートに、アリシアが事も無げに言う。



 エルフに化けて武装したサラマンダーとやらは、あの強いアリシアが頼るぐらいだから、剣士として頼れる存在なのだと思う。


 ふとロディは、自分達が銀灰奪還の為にラングドン一家に先行した時、なぜ彼女を寄こさなかったのか不思議に思ったが、先のアリシアの言葉を聞くに、多分、炎の精霊の彼女は人の姿でも雨や水が苦手なのだろう。

 あの時は雨が降りそうだったので、彼女を寄こせなかったのだと思う。



 エルフの剣士に化けたサラマンダーの横に、アネモスが姿を現した。

 マーシアに喚び出された様だ。

 居並ぶ精霊達を呼び集めたマーシアは、地図を見せながら行き先を教えている。


 その時、サラマンダーを見ていたロディに、一つ考えが浮かんだ。


「アリシアさん。今、喚んだ方は炎の精霊さんですよね? もしそうでしたら、その方の力で、この火を消せませんか?」


「残念だけどダメなのよ。火を強めるのは得意なんだけど……水の精霊が出来ないんだから、精霊でこの火は消せないわ」


 ロディの問いに、アリシアがすまなさそうな顔で答えた。


「そうですか……すみません。変な事を聞いて」



「良いわ。気にしないで」


 そう言ったアリシアが、表情を改めてサラマンダーを見た。


「じゃあ、貴女(あなた)にも銀灰(ぎんかい)をあげるわ。よろしく頼むわね」


 肉感的な褐色肌エルフに化けたサラマンダーに、銀灰(ぎんかい)を与えたアリシアがロディに視線を戻した。


「ロディ君、行きましょう。みんな、もう準備は良いわね?」



「ああ、オレ達は、いつでも行けるぜ」


 頷いたルパート達とマーシアを見たロディは、皆を率いて急いで宿の入り口に向かった。


「ウンディーネ。辺りを底なし沼に!」


 アリシアの鋭い呟きの後、外の怪物共から驚愕するような悲鳴が上がる。


「じゃあ行きます! 援護を頼みます!」




 激しく狼狽えるような怪物共の声を聞いたロディは、剣を抜いて、店の扉から慎重に外の様子を覗った。


 見ると、宿の燃える明かりの中、表の通りに陣取っていた黒い怪物共が、腹の辺りまで泥に嵌まり、助けを求めるような声を上げながら必死に藻掻いている。

 沈みゆく奴等は、底なし沼から出ようと懸命だが、今のところ、その努力は中々実を結ばないようだ。


 ロディは藻掻く怪物共を見て一瞬躊躇したが、思い切って宿を駆け出し、足を底なし沼に踏み入れた。



 不思議な事に、足から固い地面を踏みしめる感覚が伝わる。



 自分達は何とも無いのに、怪物共は走れない。

 これなら、包囲を破れる!


 不安が晴れたロディは駆け出して、底なし沼から逃げようと藻掻く、怪物の首筋を剣で斬り付けた。

 その横で、ロディと並んで駆け出したマーシアと、一瞬、底なし沼の水を恐れたのか、駆け出すのが遅れたサラマンダーが、泥から出た怪物の首を斬る。

 怪物共が敷いた、突破不可能と思われた包囲に穴が空いた。


 次の瞬間、アリシアがルパート達を率いて、夜霧の中、全員で集合地点へ向けて懸命に走り出した。

 もう一匹、藻掻く怪物を斬ったロディが皆の後ろを走り、後方を警戒する。



「シルフ! 怪物に見つからない様に道案内を。ウンディーネは周辺警戒を!」


「承知しました」



 アリシアの声に二人の精霊が頷くと、即座に先導するシルフの光が弱まり、その姿が見えにくくなった。

 アネモスも、同じ様に光を抑えている。


 シルフ達は、近くのロディ達に自分の位置が分かる最低限の光を残しているが、この濃霧で、この程度の光では、離れた怪物共に彼女達は見えないだろう。


 アリシアが、風精霊に案内をさせると言った時は、正直なところ少し不安を覚えたが、彼女の考えは正しかった様だ。



 ロディの心に、間一髪で死地を脱した安堵感が満ちてきたが、気を抜くのはまだ早い。


 ここにいる怪物が、敵の戦力全てかどうかは分からない。

 それに、底なし沼がどれ位の深さか分からないが、その内、奴等は出てきて追いかけてくるかもしれない。



 生き残りを賭けた正念場は、ここからだ。



 この窮地を何とか切り抜けて、銀灰(ぎんかい)奪還の策を練り直さなねばならない。

 ロディは、緩みかけた心を払うように頭を振り、怒り狂う怪物共の声を背に、皆の後を追って夜霧の向こうへ走って行った。

ここまで読んで下さり、誠に有り難うございます。

読んで下さる方がいて、大変、感謝しております。


もしよろしければ、小説家になろう上でブックマークや評価を頂けますと

凄く励みになりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。

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