第30話 ヴェルゴー到着3
ロディの昏睡中に、アリシアと一家の精鋭達が立てた計画では、銀灰があるとしたらテッド商会だろうと想定していた。
その作戦会議では、怪物がいる場所での奪還が危険なら、姿を消した精霊が潜入して銀灰を奪還すれば良いのでは? という意見も出たが、アリシアに反対されたようだ。
その理由としては、悪事を嫌悪する精霊に盗みなんてさせた事が無い為、上手く行くかどうか分からない。
多分、かなり分の悪い賭けになる。
それに、テッド商会は奪還隊に侵入されて、警戒を強めているかもしれない。
もし、精霊が慣れない事でドジを踏めば、奪還に失敗した挙げ句、敵が予想外の動きに出て、状況が一層困難になる最悪の事態も有り得る。
なので精霊には、自分達が一家のアジトを突き止めた時と同じく偵察を頼み、奪還は自分達でやった方が遙かに良いと言ったそうだ。
アリシアの指摘した、危険な場所での失敗の許されない仕事を、ド素人に頼む危険性を皆が納得し、精霊を使った奪還は無しになったらしい。
そこで、自分達が奪還に向かう時の事を考え、何とか掻き集めた銀砂――彼等がよく一家に盗みを頼む、銀灰の二級品――を持ってテッド商会へ商談に行き、自分達も可能な限り現地の下見をする予定だった。
そして、滞在中は怪しまれない様に露店を開き、機会を見て深夜に奪還に向かう計画だったが、シルフの偵察でテッド商会に銀灰が無く、町自体が怪物の巣窟と判明して想定が大きく崩れた以上、彼の言う通り計画をどうするかは悩ましい。
「……うーん……何より疑われない様に行動しないとダメですから、まずは旅商人として計画通り進めた方が良い様な気が……皆さんは、どう思います?」
ロディの、その言葉に皆が真剣な顔で考え込む。
しばし時間が流れた後、アリシアが口を開いた。
「……そうね……私も、まずは計画通りにする方に賛成ね。それに、盗みの依頼はテッド商会から来てるんだから、銀灰の在処を調べる為に、一度はテッド商会へ潜入しないといけないかも知れない。その時に備えた下見は、しておくべきだと思うわ」
「……なるほど。それは言えるな……」
納得した様なルパートの言葉に、彼の部下達が頷く。
「ええ。それに人に化けたり、滅多に見ない精霊使いなんかを警戒して、結界付きの建物を作ってる辺り、敵は相当警戒心が強いと思う。奴等が、ここで何をしてるのか知らないけど、絶対に疑われない様に注意した方が良いわ……」
そこまで言って、アリシアが皆を見回す。
異論が出なさそうなのを確認したのか、少しして彼女が話を続けた。
「……正体の分からない存在が、テッドと領主リッチモンド……多分、どちらかが敵の親玉だと思うけど、領主も怪しいなら町の全てが敵の支配下でしょうね……銀灰の在処は、もう私達が直接調べるしか無いんだし、万一にも怪しまれない様に当初の計画通りにして、後は現地を見てから考えた方が良いと思う」
「……なるほど、そうですね……やはり、まず計画通り行きませんか?」
「……確かにな。その方が良い」
ロディを見て同意したルパートの言葉に、皆が頷いている。
全員を見回したが、これ以上意見は出そうにない。
「どうでしょう? あと何か考えておく事は無いですかね? もう他に無ければ、そろそろ休憩を終わりにしましょうか?」
「……そうね……今、考えておく事は、もう無いと思うわ」
アリシアが、何か考えながら呟く。
「では……出発しましょうか」
「そうだな。じゃあ、ここからオレ達一家は作戦通り偽名を使う。奴等はオレ達の事を知らねぇ筈だが、もし名前を知ってて怪しまれたら困るからな」
「その偽名だけど……あたし達は、本当に偽名を使わなくて良いの?」
「ああ。セオさんを襲う前にテッド商会の集めた情報が来たんだが、セオさんの護衛は、オーリンって魔術師が率いる三人になってた……それがマーシアさん達に変わった理由は知らねぇが、奴等はマーシアさん達の事を何も知らねぇ筈だ」
「……確かにセオさんの護衛は、オーリン大尉達の予定だったわ。色々あって私達に変わったのは任務開始直前だったし……ルパートさんの話を聞くと、奴等が掴んでいる情報は少し古いわね。私達やロディ君の偽名は必要ないし、ロディ君の警備局腕章も外さなくて良いと思う。商人が警備局に護衛を頼むのは普通の事だから」
「分かったわ……じゃあ確認だけど、あたし達とロディ君は本名のままで、ルパートさんがジョニー、ターナーさんがノア、トニーさんがマーティン、ネリーさんがソーニャでクレアさんがマーサね? 間違いない?」
「ああ、間違いねぇ。じゃあ今からヴェルゴーを脱出するまで、オレ達の事は、旅先で出会った旅商人のノア一行で頼むぜ」
「了解です。じゃあ行きましょう」
ロディの声で、皆は昼食用に広げた荷物を、手早く片付けていく。
片付けを終えた皆が馬車や馬に戻ると、再び町を目指して進み始めた。
「……あれがヴェルゴー……あのラングドン一家の精鋭達が、帰って来れなかった町か……」
馬上で町を見下ろすロディから、小さな独り言が漏れた。
あの町に、何があるのだろう? 大量の怪物の巣窟らしき町に近づくにつれ、否が応でも緊張感がこみ上げてくる。
ロディは、休憩中に遠眼鏡で町を観察して、地形や注意点を書き込んだ地図に目を落とし、不測の事態に備えて、再び内容を頭に叩き込み始めた。
銀灰の納期まで、今日を含めてあと四日。
帰りも半日掛かるので、遅くとも明後日の夜には奪還を終え、ヴェルゴーを後にしなければならない。
垂れ込める雲が徐々に濃くなっていく中、馬車は一時間少々で町に着いた。




