第29話 ヴェルゴー到着2
ヴェルゴーの住民の大半が怪物とわかり、皆が困惑の表情で考え込む。
しばし沈黙の時が流れた後、マーシアが意を決したように声を上げた。
「……ねぇ、マズくない? テッド商会には、それなりの怪物がいると思ってたけど、町自体が怪物の巣なんて想像もしてなかったわ! 銀灰も、もう無いかも知れないし危なすぎるから、レンストンへ戻って手を考え直した方が良くない?」
不安そうな声を上げたマーシアを見て、アリシアが悩むように口を開く。
「止めた方が良いわ……銀灰を納期までに入手するには、もう奪還しか無いもの。それ以外の手は尽きたのを知ってるでしょう? 銀灰が無いと決まった訳じゃ無いし、仮にそうだとしても何処に行ったのか調べて、最後まで奪い返す努力をしないと……このまま作戦を続行した方が、良いと思う」
「……でも続行するんだったら、戦える仲間を、もっと連れてこないと無茶よ。敵が多すぎるわ! このまま続けるにしても、やっぱり一旦戻って、一家の機密保持を約束してくれる、傭兵仲間を探した方が良くない?」
「……それは……悩むけど……今から戻ったら、納期に間に合わないかも……それに傭兵団も忙しいから、ほとんどの人は任務で出てる筈だし……やっぱり戻るのは止めた方が良いと思う……」
「……僕も……戻るのは、止めた方が良いと思います……」
考えながら、ゆっくり声を発したロディに、皆の視線が集まる。
「奴等は、僕達を知らない筈だし、自分達の正体がバレてる事も気付いてないと思う。だから、僕達の目的がバレないよう、慎重に行動すれば大丈夫かと……それに零細旅商人が、これ以上護衛を連れてたら、かえって怪しまれるかもしれないし、戦力が幾らか増えても、敵が多すぎて状況は変わらない気が……」
「……あっ! ……そっか……それもそうね……」
ロディの意見を認めたのか、マーシアが不安げに頷く。
「ええ。僕達は怪物退治に来たんじゃ無い。今まで一家の人は何事もなく行けたって話だし、人に化けてるって事は、奴等は普段から怪しまれないようにしてると思う……納期を考えると、戻らずにこのまま進めた方が良いかと……皆さん、どうでしょう?」
「……そうね……納期を考えたら……私も、それしか手が無いと思う」
アリシアの言葉に、大半の面々が頷く。
ロディは少し待って、何か意見が出ない事を確認してから話を進めた。
「……じゃあ、このまま進めましょう……それにしても領主も敵の可能性有り……か。相手は、僕達が思ってたより遙かに強大で厄介だな……ルパートさん、今のうちに、もう一度、奴等や町の情報を確認して良いですか?」
「ああ」
ロディの言葉で、ルパートが鞄から地図を出して、馬車の床に広げた。
皆が広げた地図の周囲に集まり、その地図に目を落とす。
ルパートは、アガレア王国裏社会大手の、ラングドン一家の親分の息子。
ロディは、どうせ彼も、ならず者に多い横柄で威圧的な人物だろうと思っていたが、昨日からアネット姉弟と接していると、二人共どこにでもいる気の良い兄貴や姉貴分と言う感じで、友好的で、ざっくばらんな彼等に威圧的な雰囲気など微塵もない。
勿論、その態度は親近感を感じさせるよう演技している可能性もあるが、こういう態度でいてくれるのは助かる。
それに、アネットや一家の幹部達に悪意や裏切る気が無いのは、一家にいる間、アリシア達が密かに放った精霊の監視で確認しているので、今回の件が終わるまでは彼等を信用して良いだろう。
「出発前にも言ったが、オレ達の誰もヴェルゴーに行った事は無ぇし、奴等と会った事も無え。土地勘のある奴を入れるか迷ったが、そういう奴がいると、変装させても何かでオレ達の正体がバレるかも知れねぇからな。だから情報も、行った事のある奴から聞いた事だけだ。それは良いかい?」
「ええ」
「ヴェルゴーは見ての通りの小さい町で、住民も百数十人って話だ。四十年程前までは近くの鉱山のおかげで賑わってたらしいが、閉山してから寂れる一方だったみてぇでな。今の町の守りは、領主の衛兵達と、十パスル(約三メートル)位の高さの、古い石壁が町を囲ってるだけらしい」
ルパートが、地図中央の大きな建物と少し離れた建物を指さす。
「で、精霊さんが行く時にも見せたが、この一番デカい建物が領主リッチモンドの館で、こっちの館がテッド商会だ」
そこまで言って、ルパートが顔を上げてロディを見た。
「……なぁ、計画では疑われないように、昼は露天商をやって、夜に探索する予定だったがどうする? テッド商会に銀灰は無えみてぇだし、町自体が怪物の巣って分かったんだ。旅商人を装う計画を変更するかい?」




