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銀狼討魔録 ~傭兵の母娘と謎の盗賊団~  作者: 松木 一
第二章 謎の町ヴェルゴー

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第28話 ヴェルゴー到着1

 翌朝、野営を終えたロディ達とラングドン一家の精鋭達、合わせて八人は、四頭の馬が曳く馬車と、その護衛係が乗る四頭の馬で、薄曇りの空の下を進んだ。


 一家の精鋭達が扮する旅商人の一行とは、作戦取り昨日の日没前に合流しているが、別々に出発しなければいけなかった理由は、ロディにある。



 ロディは、この件が済めば警備局に報告書を提出せねばならないが、一家の秘密を守る為に一家の事は書けないし、一家の人々と一緒に出発すると、どこで誰に見られるか分からない。


 そこで、報告書に同行した旅商人の事を書く時に備え、彼等とは出先で偶然出会った事にする為、あえて時間をずらせて出発し、人気の無い所で合流したのだ。



一家からの精鋭部隊は、驚いた事に、一家の親分となったアネットの弟、ルパート自らが、選りすぐりの部下を連れて参加している。 

 彼が来るのは、昨日、警備局に行く前にアリシアから聞いていたが、彼女の話では、これには二つの意味があるらしい。



 一つ目は、一家がロディ達の為に最善を尽くし、決して裏切らない証。


 二つ目は、一家は怪物に操られて義賊とは言えぬ行いに手を出した事を恥じたらしく、被害を受けたセオを救済する為、犠牲を厭わずに奪還をやり遂げる決意の表れ。



 アリシアの話では、ルパートが同行する事を決定した席で、今後の一家は、親分の命令といえど金で盗みを請け負う事を禁止し、決して罪無き人を襲わない事を、絶対の掟として定めたようだ。



 そのルパートは、今、馬車の御者を務めている。



 彼の部下は、護衛として馬に跨がる、二十代後半の筋肉質の男がトニー。

 幌付き馬車の中に座る、三十代半ばの痩せた男がターナーといい、二人とも盗賊としての腕前、潜入や解錠、罠探し等の技能は一家で指折りだそうだ。


 馬車の中に座る女性二人は、三十歳位の女性がネリーで、十代後半の女性がクレアという。

 二人とも一家で指折りの魔術師で、盗賊としての腕も一流らしい。


 旅商人の一行としての役割は、商人役を元旅商人のターナーが行い、残りの面々は、その部下や護衛の傭兵役を行う。



 山道を進んでいたロディ達は、昼前にヴェルゴーを見下ろせる開けた場所に到着し、馬や馬車から降りて、町を見ながら相談を繰り広げていた。

 ヴェルゴーは、このまま山道を降りて一時間と少し位の距離だろう。


 曇り空の下、山肌に生える木々の向こうに、標高三から四パスレル(約九百から千二百メートル)位の、岩肌が目立つ山々に囲まれた盆地が見える。


 その盆地の端、山の麓近くに、塀に囲まれた小さな町、ヴェルゴーがあった。

 その反対側には、少し大きな川まで続く、広い畑と草原が広がっている。

 地形は、出発前にアネットから聞いたとおりだ。


 彼女から聞いた話では、ヴェルゴーへの出入りは、街道から橋で川を越え、草原や畑の間を通る道を進んで行くしか無いらしい。


 一見したところ、よくある小さな田舎町や村に見えるが、どうやらここは、ロディ達の予想を遙かに超える厄介な所だったようだ。




「……町に怪物がいる事は、想定してたけど……まさか、住民の大半が怪物かもしれないとは……」


 曇り空の下、忌々しそうに頭を掻くロディに、苦虫を噛み潰したような表情が浮かぶ。


「……私も、信じられないけど……化けた怪物を見抜く精霊が言うんだから、間違いないと思うわ」


 険しい表情で腕を組むアリシアの前には、彼女と契約している風精霊シルフが佇んでいる。



 出発前に、ヴェルゴーのめぼしい情報を得られなかったロディ達は、精霊をヴェルゴーへ出せる距離まで近づくと、マーシアが使うアネモス達より優れた能力を持ち、最も動きが速いシルフを町の偵察に出していた。


 その彼女が、つい先程、早めの昼食を兼ねて休みを取り、町を観察していたロディ達の下に戻ってきたのだ。



「見かけた人々は、何らかの方法で、正体を分かり難くしていました。アネモス達では、彼等の正体を見抜けなかったかもしれません。それと……」


 シルフが、一瞬困惑したように口ごもった後、言葉を続けた。


「テッドと領主リッチモンドは、怪しいのですが怪物とは言い切れません。注視していると、時折、微かな違和感を感じるのですが……どう見ても、怪物が化けている様に見えないのです……」



「貴女(あなた)ほどの力を持つ精霊が、分からなかったの?」


 アリシアの声には、驚きが窺える。


「はい……私も長く生きましたが、あんな存在を見るのは初めてです……」


「……そう……」


 戸惑うような口ぶりの彼女を見て、アリシアが考え込む様に俯く。

 その様子を見たシルフが、言葉を続けた。


「それと、奪われた銀灰(ぎんかい)は町やテッド商会に無く、残念ですが、奪還隊の生き残りも見当たりませんでした。但し、結界で入れなかった建物が幾つかありますので、町に銀灰(ぎんかい)や生き残りがいるなら、そこが怪しいかと。報告は以上です」


「……そう……有難うシルフ、お疲れ様。一旦、戻って休んで」


「承知しました」


 顔を上げたアリシアの言葉を受けて、シルフの姿が掻き消すように消える。

 灰色の曇が空に低く垂れ込める中、深刻な表情で考え込む皆に、重苦しい沈黙が漂った。

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