第24話 銀灰の行方
アリシアが銀灰の話を持ち出した時、ロディを見るマーシアの表情が、微かに暗くなった。
彼女は、既に状況を知っているのだろう。
「ええ。でもアリシアさん……その口ぶりですと、あまり芳しく無さそうですね」
「結論から言うと、そうなるわね」
ロディの問いに、アリシアが深刻な表情で頷く。
「まず彼等は依頼主に、後日埋め合わせをするし、代金は慰謝料を上乗せして返すから、銀灰を返すよう頼んだけど拒否されたそうよ。付き合いの長い客で、困った事があれば助けるとか言ってたのに、冷たくあしらわれたみたいでね。アネットさん達も、散々無茶な頼みも聞いてやったのに、この扱いかって怒ってたわ」
「……そうなんですか……」
「ええ。それで彼等は自分達の店を使って、真っ当な手段で買い集めようとしたんだけど、今、銀灰は品薄で凄く高くなってるでしょう? 色んな業者を当たったけど品物が無くて、納期までに買い集めるのは絶対無理って結論になったわ……私達も、色んな伝手を頼ったんだけどね……」
「……なるほど……ちょっと……手詰まりっぽいですね」
「ええ」
アリシアが、疲れた様に椅子の背もたれに寄りかかり、脚を組む。
「穏当な手の尽きた彼等は、依頼主への怒りもあって、依頼主から銀灰を奪還する部隊を送ったんだけど……今朝早く、彼等の全滅を伝える伝書鳩が着いたわ。一家は依頼主の情報を色々持ってるし、送ったのは選りすぐりの潜入と盗みの達人達だから楽観してたんだけど……深夜の潜入で銀灰を奪還したのに、大勢の怪物に襲われて奪い返された上に、二人しか生き残れなかったみたいで……彼等も重傷で、怪物共が自分達を探してるから、生きて帰れるとは思えないそうよ……」
伝書鳩と聞いて、鳴く生き物を、どうやって運んだのか疑問に思ったが、多分、魔法の鞄にでも入れたのだろう。
それなら声も漏れないし、鞄が押し潰されても水に浸かっても大丈夫だ。
外は晴れて、そよ風と小鳥の囀りが心地よいが、泥棒とは言え大勢の怪物に襲われて亡くなった人々を思うと、心が沈む。
部屋に重苦しい空気が漂う中、アリシアが言葉を続けた。
「一家の親分、ラングドン夫妻の言動が変わっていったのは、その依頼主との関わりが深くなってからみたいでね……だからアネットさん達は、一家に怪物を送り込んだのは依頼主……ヴェルゴーの町のテッド商会かも? って疑ってたんだけど、奪還隊からの手紙で、それを確信したみたい。テッド商会には、まだ銀灰があって手強い怪物もいるって分かったし、次の奪還は私達も行く事になったわ。もう、納期に間に合わせるには、奪還しかないからね」
「……そうですか……」
「その為の作戦会議が終わる所で、君が目覚めたって訳。ここまでが君が気を失っている間に起きた出来事よ。何か質問は、あるかしら?」
「次の奪還作戦で、決まった事があれば教えて頂けませんか?」
「出発は今日の夕方よ。それまでに手紙で分かった事を基に準備を整えるわ。急がないと、テッド商会が銀灰を動かすかもしれないからね。それと、次は、いきなり潜入せずに、町やテッド商会の様子を偵察してから奪還する事になったわ。それで奴等や町の人に怪しまれないよう、私達と一家の精鋭で旅商人を偽装する事になったの。旅商人が、新たな商売先を求めて町を訪れるのは珍しくないし、一家には元旅商人もいるみたいだし」
「なるほど。分かりました。じゃあ、僕も出発準備をします」
「ちょっと待って」
アリシアの目に、ロディの具合を案ずるような色が浮かぶ。
「体調は、もう良いの? 来てくれたら助かるけど無理は禁物よ。私とマーシアで行くから、具合が悪いなら休んでて?」
「もう、大丈夫です。失神したのは魔力切れですし、よく休みましたから」
「そう……でも、くれぐれも無茶は止めてね? 具合が悪いなら遠慮しなくて良いから」
ラングドン一家の倉庫にいた怪物や、親分達に化けていた怪物は、オーク等とは比較にならない強敵だった。
そいつらを手先として送り込んだ、テッド商会に潜む怪物は、それを上回る強さだろう。
目的は銀灰奪還なので、積極的に戦うつもりは無いと思うが、強敵が多数潜んでいるのなら、万一に備えて戦える仲間は多いほど良い。
そんな所へ一家の精鋭と彼女達だけで行く理由は、一家の秘密を守る為に、部外者を仲間に入れられない事と、町に武装した余所者が大勢訪れれば、悪目立ちしてテッド商会や町の人が警戒するかもしれないからだと思う。
もし戦いになれば、自分も少しは役に立てるだろうし、彼女達だけを危険な目に遭わせる訳にはいかない。
それにセオの報酬の事もある。
奪還が無事に成功しても、彼女達が危険を冒して挙げた成果を、何もしない自分が受け取るなんて恥知らずな事は出来ない。
「……ねぇロディ君。あの時、魔力切れになったのはどうしてなの? 出発前に仮眠を取って、魔力はそれなりに回復しただろうし、あたし達と出会ってから他に術なんて使ってないと思うんだけど……? 魔力の計算を間違えたとか?」
静かに話を聞いていたマーシアが、少し不思議そうに尋ねてきた。
「それは……僕も、大丈夫だと思ったんですけど……最近、休み無しで仕事してたからかな……疲れが溜まってて、思ったほど魔力が回復しなかったみたいで……」
「休み無しって……どうして? 警備局って、そんなに過酷なの?」
尋ねるマーシアの表情には、驚きや同情が窺えた。




