第19話 アリシア到着
突然、叩き付けるような横殴りの風が吹いたかと思うと、ロディの前でラングドン達が苦痛に満ちた絶叫を上げた。
ロディ達や盗賊共が訝しげに様子を見守る中、彼と妻らしき女は、額に大きな角の生えた大柄な悪魔と思しき怪物に姿を変えていく。
彼の取り巻きも、同じ様に、偶に見る山羊頭の大男の怪物に姿を変えた。
あれが、奴等の正体だったのだろう。
今、気付いたが、正体を現したラングドンの後ろから女性の声が聞こえる。
彼女の姿は、大柄なラングドンの陰になって見えず、声も雷雨で聞き取りにくいが多分アリシアだ。
そのラングドンが何かで膝を突いて程なく、怯えるように左右に分かれてラングドン達と距離を取っていた盗賊共から、檄を飛ばすような怒声が上がった。
親分の仇を取れと叫ぶその声で、我に返った盗賊共が、怒りに満ちた雄叫びを上げながら怪物共に斬り掛かっていく。
右脚に刺さった矢を抜くなら、今だ。
戦いに巻き込まれないよう距離を取るべく、足を引きずりながら歩き始めると、素早くマーシアが肩を支えてくれた。
「ロディ君! 多分、母さんが来たと思うけど、どうする?」
「今のうちに怪我を治したい……何をするにしても、この足じゃ……」
「分かったわ! 少し離れましょ!」
二人で距離を取った所で、ずぶ濡れのロディが脚に刺さる矢の後ろを掴む。
マーシアもそれを掴み、二人で力を合わせて引き抜いた。
「ぐあっ!」
苦痛の余り、呻き声を上げながら崩れ落ちるように膝を突いた。
矢を抜いた傷口が燃えるように熱く、ズキズキと痛む。
その傷口から、足を静かに伝う血が、雨に濡れる地面に流れていく。
「マーシア!」
激烈な痛みを我慢するべく、奥歯をかみしめて、ウェストポーチから傷を治す薬を探そうとした時、雨の中、淡い薄緑色の光を放つ少女が心配そうな声を上げて飛んできた。
確か、アネモスとかいう名前の、風を操る精霊だ。
「怪我は無い? アリシアを呼んできたよ!」
「あたしは大丈夫! でも、ロディ君が……」
その声が終わる前に誰かが走ってきて、降り注ぐ雨粒が急に止まった。
「遅れてごめんなさい! あなた達、よく無事で……ロディ君、すぐに怪我を治すわ!」
気遣うような声に顔を上げると、走ってきたのはアリシアだ。
彼女は心配そうにロディを見つめながら、自分が濡れるのも構わず、ロディが濡れない様に傘を差し出している。
彼女は、傘をマーシアに渡して屈み、ロディの傷に右手を当てて呪文の詠唱を始めた。
驚いた事に、彼女の呪文詠唱は凄まじい早口。
こんな凄い技は、見た事が無い。
ロディは、呆気にとられながら彼女を見た。
「癒やしを」
アリシアのその言葉と共に、流れる血が少なくなり痛みも徐々に薄れていく。
彼女が使ったのは、怪我を即座に治す中級の治療術だ。
この程度の怪我に使うには過剰だが、怪物共を前にして念を入れたのだろう。
術が効果を発揮したのを見ると、驚いた事に、彼女は、あの早口で詠唱を一言も間違わなかったらしい。
「アリシアさん……凄いですね。こんな凄腕の術士って、見たこと無いです」
「そう?」
アリシアが、意に介さず言葉を続ける。
「君達の独断専行は、遅れた私が悪かったわ。ごめんね。ところで銀灰はどうだったの?」
「ダメだったわ! アネモスが目印を残した所に無かったの! 魔法の袋や箱にあるかもって思ったんだけど、それもダメだった! あそこには、もう無いと思う」
ずぶ濡れのマーシアがまくし立てる言葉を聞き、アリシアが何か考え始めた。
ふと、ロディが激闘中の盗賊達を見ると、明らかに盗賊達の旗色が悪い。
「……アリシアさん。やれそうなら、あの怪物共を倒しませんか? あの程度の怪物なら、勝てそうですし……」
その言葉で、アリシア達が盗賊達の戦いに目を向けた。
「あの様子だと、怪物共を倒せば一家に貸しを作れるかと。僕達は怪物の正体を暴いて恨まれてますから、いつ報復に来るか分かりません。それなら、ここで奴等を倒すついでに一家に貸しを作って、銀灰返還を迫った方が良いと思うんです」
「……そうね。それが良いかも」
盗賊達の懸命の戦いを見ながら、アリシアが頷く。
仇討ちに燃える盗賊達の士気は高かったが、普段から怪物と戦う自分達とは異なり、彼等には、あの怪物共の相手は少々荷が重かったらしい。
山羊頭を数匹倒したようだが、既に怪物に斬り掛かる人数は大きく減り、力の差を痛感して士気を挫かれたのか、怯えながら武器を構えるだけの人が多い。
傷ついて横たわり、苦しそうに助けを求める人の数は、それ以上だ。
「確かに、あの位の怪物なら勝てるわね。貸しを作って損は無いし、一家も怪物と組んでないなら見殺しに出来ないし……マーシアも良い?」
「もっちろん! やられた分、たっぷりやり返してやるわ!」
マーシアの表情と声に、元気が戻る。
「じゃあロディ君、具合が良ければ行きましょう。敵が多いから気を付けて」
「はい……大丈夫です」
ロディは、怪我の具合を確認しながら、慎重に立ちあがった。
感覚を確かめるように、怪我を治した右脚に力を入れ、地面を蹴るように数回踏みしめたが、痛みも違和感も全く無い。
これなら普通に戦える。
愛用の剣を抜いた瞬間、稲光を浴びた剣が鋭く煌めいた。
誠に申し訳ございませんが、仕事の都合により
明日10月6日(火)の投稿は、19時頃にさせて頂きます。
恐れ入りますが、何卒よろしくお願いいたします。




