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21. 事情聴取




 司令官室に入ると、そこには案の定クラードも待ち構えていた。

 隣接する応接室に通され、ソファに座るよう促される。


 

「エディウス・ニールセン殿。早朝からご足労いただき痛み入ります」


 司令官の型通りの挨拶を受け、「私も話を伺いたいと思っていました」と返す。


「すでに説明されたかと思いますが、宮廷会計院にて不正横領の事実が認められました。それによりサリアン伯爵が罪に問われ、現在は一家をこちらで預かっております」

「…………」

「貴公はサリアン伯爵の後継者として、同じ会計院で実務に携わっておられる。サリアン伯爵の横領について、心当たりはありませんか?」


 一拍おいて、エディウスが答える。


「いいえ、一切把握していません」

「そうですか。実はですね、接収した書類から幾つもの不正の痕跡が認められたのですよ。サインは伯爵のものですが、実務を動かすには現場の協力者が不可欠です。つまり……」

「回りくどい言い方は結構です。サリアン家と縁の深い私を疑っている、ということですね」

「……正直に申し上げれば、そういうことです」


 司令官は探るような目で、エディウスの様子を窺っている。それを受けて、彼は真っ向から反論する。


「私を実行犯と疑っているようですが、それははっきりと否定します。そして私自身が疑われたからには、本当に横領があったとは到底信じられません。仮に不正の記録が残されていたとして、それが伯爵の指示だという証拠はあるのですか?」

「……今は明かせませんが、告発者がおります」


 そう言って、司令官は傍らに控えていたクラードに視線を向けた。お伺いを立てるようなその目付きで確信する。やはり彼が裏で糸を引き、近衛府を利用しているのは間違いない。


「司令官はその告発者が誰かご存じですか?」

「……こちらの機密上、お教えすることは出来ませんな」

「そうですか。しかし内部事情に精通した告発者ならば、それは会計院の者以外にあり得ないはず。ですが私は、そのような者は存在しないと断言出来ます」

「……そこまで言い切れる理由は?」


 司令官が訝し気にそう尋ねると、エディウスは驚くことを語りだした。


 

「――実は、こちらの方にこそ情報提供者がおりました。会計院内に外部の者が入り込み、不正を捏造したと。私たちにありもしない罪を着せようとする者がいると報告を受けていたのです。そのため私は、昨晩のうちに会計院に事情を話し協力を取り付けました」


 まさか私のことを暴露すると思わなかったから、つい〈えっ〉と声に出してしまった。それが聞こえたのか、エディウスは一瞬だけ口を閉ざす。

 

「ほう、ではお聞かせ願いますか。貴方のその発言の見方を変えれば、証拠隠滅を図る機会があったとも受け取れますが」

「それはあまりにも愚問ではないですか。我々が証拠を消したなら、ここに呼ぶ理由すら失っていたはずです。そうではないから、こうして事情を聴いているのですよね」

「………………」


 

 横で彼らのやりとりを見ていると、司令官の方は半信半疑といった様子で眉間に皺を寄せている。問い詰める形にはなっているけれど、クラードとは違い『真実』を探ろうとする意思を感じた。


 完全にクラードの言いなりになっているわけではなく、冤罪計画に加担していないことは先の話し合いで分かっている。

 だから、この場の本当の敵はクラードのみ。

 この司令官の追及を、エディウスの話術と説得力で跳ね返すことができるのか大事な場面だ。


 

「なぜ内部告発者がいないと私が言い切れるのか。そのような人物が存在するなら、昨晩の動きを即座にあなた方に報告したはずです。……ですが今の反応をみる限り、初耳だったようですね」

「しかし……」


 司令官が言葉を詰まらせると、それまで後ろで沈黙していたクラードが割って入った。


  

「エディウス・ニールセン、言い逃れは見苦しいだけだ。君が何を主張したところで、確たる証拠がこちらにはある」


 互いの視線がぶつかり、一瞬の緊張が走る。

 

「君に情報提供したという人物、それが誰なのか言えるのか。口先だけでは何とでも言える。捏造の証拠を見つけたのなら、何故その場に残した? それは苦し紛れの作り話だからだろう」


 畳み掛けるように問い詰めるクラードの姿は、どこか焦りのようなものが窺える。

 そして司令官もその言葉に眉を顰めるのを見て、状況は覆せると手応えを感じた。


 エディウスが黙って彼を見据える。その視線に耐えかねたのか、クラードはわずかに顔を歪ませ言葉を重ねる。


「都合が悪くなるとダンマリか。先程までの饒舌さがなくなってしまったようだ。いずれにせよ司法院に証拠を提出する際には、君を――」


 

 その時、強いノック音が部屋に響いた。

 言いかけた言葉は途切れ、一人の騎士が司令官の前まで足早に歩いてくる。


「司令官閣下。直ちに本府の長官政務室にお越しください。先程モーリア侯爵が来訪され、会計院の件で至急お話があるとのことです」

「モーリア侯爵が? まだ報告すべきものは何も纏まっていないのだが」

「いえ、全てを後回しにしてすぐに来られるようにとの厳命です。非常に重大なようで……」


 騎士はチラリとエディウスに視線を送り、言い淀むように話す。


「実は、接収された証拠の中に、不自然な書き換えの痕跡があるようだと……それがモーリア侯爵が把握していた公文書の書式と矛盾し、監察局による再精査が決定されました」



 騎士がそこまで話したところで、後ろに控えていたクラードが歩き出した。


 

「……失礼。申し訳ないが、少し席を外さてもらう」


 止める間もなく、彼は足早に部屋を後にしようとした。

 あまりに急だったから、全員が呆気にとられて止められなかった。


「ロイズ副司令官、どちらへ……」


 司令官の呼び掛けも虚しく、彼は振り返りもせず去っていく。

 まさか逃げた?と驚く間もなく、今度はエディウスまで追いかけるように部屋を出て行こうとした。


〈エディウス⁉〉


 思いがけない展開に、思わず彼を呼び止める。


「ロイズ公爵と直接お話したいことがあります。すぐに戻りますので、この場を一時離れることをお許しください。それから女神様、もし私を追ってくる者がいたら貴女のお力で阻止してください!」


〈えええっ⁉〉


 突然無茶振りをされて、彼もまた風のように去っていった。

 

「女神? 今、彼は誰に言ったのだ?」

「司令官閣下、詳しくご報告します。サリアン伯爵らの不正は、第三者による捏造の可能性が高いと判断されました。間もなく釈放の指示が出るはずです。今後はご対応に失礼がないようお願いします」

「わ、分かった。だが今出て行った彼らを放っておくわけにはいくまい。まずは公爵の身の安全を確保しなければならん」

「それならば私が追いましょう。今回の横領事件の指揮をとられた副司令官も召集されていますので」



 ちょっと待った! 

 私は急いで廊下側へ通り抜け、反対側から扉を押さえた。それは理屈じゃなく、エディウスの頼みを叶えようとする咄嗟の行動だ。

 実体がないのにどうやって――と我に返ると同時に、ドアをがっちり掴んだ自分に驚く。

 ……なんで、ドアノブを掴めるの!?


 

「……施錠を外したのに扉が開かない?」


 反対側からガタガタと揺らす音はするけれど、ドアは一向に開かなかった。でも私の手には、さっぱり力はかかっていない。

 まさか、と思ってそろりと手を離してみた。やはりドアは開かない。


 まさか、これって私の力?


 今頃になってとんでもない新発見をしたけれど、驚いている暇はない。


 とにかく、これでエディウスのもとへ行ける。

 そうして私は、姿の見えなくなった彼の後を追っていった。






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