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15. 冤罪




 全員がホールに集まり静まったところで、大きなファンファーレが鳴り響いて国王夫妻が姿を現した。


 人々は一斉に静まり、姿勢を正して迎え入れる。

 豪華なローブを纏った恰幅の良いおじさんが現れたけれど、さすが王というだけあって威圧感がある。


 厳かな空気に包まれる中、国王は用意されていた椅子に座った。そして前列にいる貴族たちが入れ替わり立ち替わり挨拶に伺う。


 この様子だと、舞踏会はすぐには始まらないようだ。

 それを見て私はピンときた。もしかしたら、ヤンデレ騎士ことクラード・ロイズもこの場にいるかもしれないと。

 彼は公爵という身分だ。ここに居たっておかしくない。

 


 私はエディウスから離れて、会場の隅から隅まで探し回った。けれど、あの藍色の髪の美青年は見つからない。

 もしかして不参加?


 念のためまだ探してみたけれど、やはりどこにも姿は見えなかった。それなら仕方がない、エディウスのところに戻ろう。そう思った時、あることに気が付いた。


 私、十メートル以上も離れてる。

 これまでリードで繋がれた犬のように、エディウスの周辺にしか居られなかったのに。

 会場はかなり広く、ざっと見積もっても端から端まで数十メートルの幅がある。


 もしや、と思ってそのまま会場の外に出てみたら、思った通りどこまでも行けた。

 ここに来て、まさか行動制限が解けるとは。理由は分からないけれど、これはもしかしたらチャンスかもしれない。


 一度会場に戻って中の様子を確認してみる。

 あれから一通りの挨拶が終わって、今度は音楽に乗せて国王夫妻がダンスを始めていた。 

 招待客はまだ定位置で国王に注目していて、まだ儀礼的な進行が続いている。

 だったら今のうちにと、私は会場を後にした。

 

 目的は、会場には居なかったクラード・ロイズを探すこと。国王の息子ならば、宮殿に住んでいてもおかしくない。


 

 もしかしたらリオレットの噂を流した本人かもしれない人物。それが溺愛する予定のヤンデレ騎士だったと言われたら、気になるのは当然だ。


 とにかくあのワイン事件が起きる前に急ごうと、中を見て回ることにした。

 壁から壁をすり抜け、あらゆる部屋を飛び回った。

 一階から始めて二階、三階と見て回り、もしかしたら宮殿(ここ)には居ないのかもと諦めかけたところで、やっと遭遇した。


 三階にあった大きな部屋。最後の最後でやっと探し当てた。 


 

 私室なのか、ソファで寛いでいるクラード。

 初めて近くに寄って見たけれど、やはりかなりの美形だ。

 そしてやや憂いのある表情、近付きがたい雰囲気を醸し出していて、まさにヤンデレ感もある納得のいくビジュアルだ。


 

「クラード様。そろそろ舞踏会の幕開けも一段落する頃だと思われます。デビューを控えた彼女たちも確認しています」

「そうか。リオレットの様子はどうだ?」

「今日は赤のドレスで身を包み、美しい装いをされていました。対照的に、ミレイナは白いドレスを着用しています。これもいつも通り、敢えての配色でしょう」


 見つけた途端、リオレットの話が始まったので息を呑んだ。


「婚約者のエディウスは?」

「今のところ不仲の様子は……時折り談笑もされており、一時期の険悪さは見られませんでした」

「談笑? エディウスは彼女を嫌っていたのではないか」

「はい。どちらかといえばミレイナやコリーヌの方へ肩入れしていると報告を受けていたのですが」

「何のためにこちらの使用人を送り込んだと思っているんだ。なぜ正確な情報を取って来れない」


 不機嫌そうに眉を顰めた表情は、それさえも美しくてうっかり魅入ってしまいそうになる。でも今、聞き捨てならない言葉を耳にしてしまった。


『こちらの使用人を送り込んだ』

 

 これはつまり、スパイをさせていた……ということだよね。


「申し訳ございません。しかしすでにエディウスとサリアン一家をいつでも捕らえられるよう準備は整えてあります。あとは陛下の許可をいただければ、すぐにでも二人を物理的に引き離せるかと」


 いやいやいや、待って。捕らえられるって何?

 

 まさか、彼女たちがリオレットを虐げていた罪のことを指している?

 でもエディウスは態度は冷たかったとしても、虐待に加担していたわけじゃない。

 とにかく重要な話をしていることは分かったので、聞き漏らさないように真剣に耳を傾けた。


 

「会計院の不正か。……危ない橋を渡った甲斐がある。やっと、彼女を私のものに出来るんだ」


 感慨深げにそう言って、クラードが目を閉じる。

 もう顔が良いとか言ってる場合じゃない。とんでもない告白を聞いてしまった。


 会計院の不正?

 何を言っているのか分からないけれど、真面目に働いているエディウスがそんな事をするわけがない。この二ヶ月間ほぼ彼のそばにいたけれど、そんな怪しい素振りなんて一切無かった。

 サリアン伯爵のことまでは分からないけれど、少なくとも二人で共謀する様子だって見たことがない。


 まさか、彼らを嵌めようとしている?

 リオレットを自分のものにする為に?

 

 もしそうだとしたら、クラードは私が思ってた以上にヤバい人物だ。嘘によってリオレットの周囲の人間を排除しようとしている。


 

 これはすぐにでもエディウスに知らせなければ――そう思っていると、クラードが再び口を開いた。


「なあアレク。ミレイナのドレスは白だと言ったな。無理にとは言わないが、彼女のドレスを汚してそれをリオレットのせいには出来ないか?」


 ……まさかアレさえも、この人が作り出したシーンだというの?

 

「なるほど……。意図は伝わりました。上手くいけば確かに面白い場面が作れそうですね。あの母子なら少しそそのかすだけで思惑通りに動いてくれるでしょう。ただ、あの限られた空間で実行できるかどうか――――」

「そこまで真剣に考えなくていい。ちょっと思いつきで言ってみただけだ」

「いいえ、良案かと思います。上手く演出できれば、クラード様は彼女にとっての唯一の救世主(ヒーロー)となれるはずです」



 とにかく呆気にとられた。まさかヤンデレ騎士がこんなことを暗躍していたとは。

 正統派イケメンのエディウスと比べ、本来のヒーローである彼は独特な美しさを放っている。だけど冤罪を着せて、ライバルを蹴落とそうとする男がヒーローだなんて私は嫌だ。


 どうしてリオレットにここまで入れ込んでいるのか分からない。でも今は、エディウスに急いでこの事を知らせないと危険だ。

 

 アレクと呼ばれた男が再び会場に戻るというので、私も慌てて引き返すことにした。

 




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