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10. サリアン家の晩餐会




 ニールセン侯爵が開いた夜会の翌週、サリアン邸で晩餐会が開かれることを耳にした。

 どうやら私がここに来る以前から決まっていたらしく、エディウスが従者に用事を言いつけたことで初めて知った。



「今から宝石商を呼ばれるのですか?」


 仕事前の朝支度の時間。急遽商人を手配するよう言いつけた彼に、レノが怪訝そうな顔をして尋ねた時のこと。


「来週の晩餐会までに、リオレットへの贈り物を見つけたいんだ」

「もしかして祝いの品ですか? それはすでに手袋を仕立て用意しておりますが」


 レノの話を聞くと、どうやらリオレットの社交界デビューの祝いにプレゼントを準備していたらしい。オーダーメイドで作り、それはすでにレノが大切に保管しているという。

 

「手袋はやめた。今となってはあれを渡す気になれない」


 エディウスがそう言うと、レノは何かを察したように黙った。


「お前に全て任せて作らせた品だ。あの頃の自分が形式的に用意した物など、とてもではないが贈れないだろう」

「しかし今から新たにあつらえるとなると、来週の晩餐会までには間に合わないかと」

「それはわかっている。だから既製品から選ぶことになるが、それでも自分がこの目で選んだ物を贈りたい」


 なるほど。なんとなく彼の複雑な想いが伝わってくる。

 当時のリオレットへの悪感情を否定したい気持ちと、その頃に体裁だけで用意したものをそのまま渡したくないという思い。


 

 そんなやり取りを見ていて、よくここまで変わったものだと感心する。

 それとも、本来のエディウスはこんな感じだったのだろうか。思えばリオレットがほのかな恋心まで抱いた相手なのだ。


 結局はその後すぐにリオレットの母が亡くなり、後妻が現れたことで状況が一変してしまったけれど。

 当時のエディウスがまだ十二歳の少年だったと考えると、コリーヌによる印象操作や洗脳の怖さを思い知る。

 

 

 読者である本来の私は、この手の話で元サヤ展開というはあまり好みではなかった。初めからあまり読む気になれないというか、避けるところがあった。


 だけど今の私は、エディウスだったらそれでもいいなと思ってしまう。

 それは彼に情が移ったという他に、ヤンデレ騎士との結末を知らないことも大きいのかもしれない。

 



 来週の晩餐会で、私がリオレットと会うのは三回目となる。

 気になることは、エディウスが前回コリーヌに釘を刺したことは改善されているのか。

 そして新しく用意したプレゼントは、どんな感じで渡されるのか。


 そんな二人が気になって、密かに楽しみにしていた。

 








 そして、晩餐会の日がやってきた。

 リオレットとミレイナの前祝いがサリアン邸で開かれる。


 婚約者であるエディウス、その両親のニールセン侯爵夫妻を含めた総勢二十人程度の夜会。


 

 夜も更け、ニールセン邸からは二台の馬車が出発した。一台は家族が乗る馬車、もう一台は従者用の馬車だ。

 当然私はエディウスのそばにくっついて、親子の会話を眺めながら移動することになった。


「いよいよ彼女も社交界入りか。噂のこともあって不安もあるが、今日はしっかり淑女としての振る舞いを見せてもらおう」


 あの噂のことが今も引っ掛かっているらしい。息子の婚約者なのだから心配する気持ちはわかる。

 

 やがて屋敷に到着し、エントランスホールでサリアン伯爵夫妻に出迎えられた。


 

 サリアン伯爵は、あの噂を聞いた後も変わらなかった。

 会計院でエディウスがさりげなく探りを入れていたけれど、コリーヌに噂を否定されてそれっきり。悪趣味な噂だと憤慨していたけれど、本当に家庭に目が向かない人なのだと呆れてしまった。


 


 エントランスでは他の招待客とも挨拶を交わし、順にホールへと案内される。


 初めにニールセン侯爵から長いテーブルに着き、次いで続々と招待客が入ってくる。

 そしてやっと集まった面子が明らかになった。


 サリアン伯爵の弟夫婦が二組と従兄弟夫婦、その他には伯爵が個人的に親しくしている友人夫妻など、合わせて二十人程の人数が集まっている。そしてその中には、リオレットの祖父母であるブルネ子爵夫妻も招待されていたことに胸を撫で下ろした。


 

 実は宝石商を呼びつけた翌日、ブルネ夫妻のことをサリアン伯爵に尋ねていた。


「そういえば晩餐会には、リオレットの祖父母であるブルネ子爵はいらっしゃるのですか?」

「いや。招待するか迷ってはいたが、コリーヌがどうしても拒むのでな。それに、ここ数年は交流もほぼ絶たれている。それもあって招待状を送っていないのだ」

「まさか、リオレットの祖父母なのですよ。私としては婚約した当時以来お目にかかっていないので、久しぶりにお会いできるかと期待していました。なぜ招待されなかったのですか? もしかして、前妻のご両親をコリーヌ夫人が嫌がっておられるとか?」


 エディウスはかなり踏み込み、攻めた質問をしていた。


「いや嫌っているわけではない。強いて言えば怖気づいているといったところだろう。彼女は元男爵夫人だったという話は知っているね?」


 そう言って伯爵が事情を話し始めた。

 十九歳という若さで未亡人になったコリーヌを憐れみ、援助を申し出て妾にしたこと。

 リオレットの実母である正妻の死後、後妻に迎えたものの周囲の反発に彼女が心を病んでしまったこと。特に前妻の血縁であるブルネ夫妻を恐れ、体調を崩すほどだったという。

  

「彼女は非常に繊細で大人しい性格だ。だから私は妻の心身の負担にならないよう、長い間ブルネ子爵を遠ざけることになってしまった」


 

 意外なところで明かされたコリーヌとの馴れ初め。元男爵夫人で未亡人という設定、小説に書かれてたっけ?


 とにかくその時の伯爵の反応が消極的だったから、てっきりブルネ夫妻は招待されないかと思っていた。

 どんな心境の変化があったのか分からないけれど、これは間違いなくエディウスのおかげだろう。


 

 ……そこまで考えて、これは小説だったら起こり得なかった事なんだと改めて思う。リオレットへの誤解が解けていなければ、彼は祖父母のことまで考えなかったはず。


 私が何かを言わなくても、エディウスは周囲を巻き込みながらじわじわと運命を変え始めている。

 

 最後は誰と誰が結ばれようと、彼の頑張りが良い結果に繋がってほしいと心から願うばかりだ。




 


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