case28.おうちデート
高校二年生の月城尚也と本間みくは、幼馴染で、恋人になってもうすぐ半年ほどになる。
期末テスト明けの休みに、どこかに遊びに行こうと提案した尚也に、みくは家でゆっくりしたいと言い……。
幼馴染カップルの、おうちデートの話です。
ぜひお読みください!
十二月上旬。
期末テストが終わった金曜日の放課後のこと。
「明日の休み、どこ行こっか?」
学校の帰り道、そう聞いた月城尚也に、幼馴染で恋人の本間みくは少し考えた後、答えた。
「んー……、家でゆっくり、がいいな」
その言葉に、尚也の心臓がドキリと高鳴った。
みくの家も尚也の家も、親は仕事で日中は不在がちで、二人だけで留守番をするなんて、小さい頃から何度もあった。
にも関わらず、外に遊びに行くのではなく、家の中で二人でゆっくり過ごしたいと思ってくれている事に、尚也は胸が締め付けられた。
土曜日、当日。リビングに通された尚也は小さな声でつぶやいた。
「今日、なんか……、違うかも」
今日も両親は仕事だそうで、家に2人きりなのは、いつもと同じ。
でも、どこか空気が違う。温度が違う。彼女が出迎えた服も、みくからほのかに香る香りも、笑顔も。
家に入ったその瞬間から、いつもと少し違うみくの姿にドキドキさせられた。
みくはいつだって、尚也の“好き”を簡単に更新してくる。
「お昼、作るね」
みくがエプロンを付けて台所からひょこっと顔を出して言う。オレンジ色のチェック柄のエプロン姿が可愛い。
「手伝うよ」
尚也はエプロン姿のみくと並んで台所に立った。
尚也の好物で、みくの得意料理のカルボナーラ。
尚也の好物だからみくの得意料理になったのか、みくの得意料理だったから尚也の好物になったのかは、もう覚えていなかった。
「ベーコン、私が切るから、尚也は卵とチーズ混ぜといて?」
そう言って笑ったみくの笑顔は、何でもない一言にちょっとだけ特別な響きを持たせる。
「……なんかさ」
「ん?」
「こうやって並んでると、新婚みたいだね」
みくはびっくりしたように目を瞬かせたあと、頬を赤く染めてふわっと笑った。
「ふふっ、……確かに。ちょっとそんな感じするね」
その言葉と笑顔に、尚也の心臓がひとつ、大きく跳ねた。
気がつけばみくの唇を奪っていた。
「あ、ごめん。咄嗟に」
「もう……、危ないでしょ」
顔を真っ赤に染めて文句を言うみくが、可愛い。
みくがフライパンでベーコンを炒め始めると、じゅうっと香ばしい音と匂いが広がった。
「この匂い、ほんと好きだ」
「うん、カルボナーラって……なんか“しあわせの匂い”って感じしない?」
「みくちゃんの横にいるから、だろうな」
「……そう言うこというの、禁止」
頬を赤らめて照れるみくを横目に、尚也はこっそり笑う。
そんなやり取りを交わしながら、ふたりで作ったカルボナーラは、ソースがとろりとパスタに絡みついて、見るからにおいしそうだった。
リビングの小さなテーブルに並べて、ふたりで「いただきます」と声を揃える。
「……ん〜っ!やっぱりおいしい!今日のも最高!」
「みくちゃん、天才かも」
「そう?じゃあ今度はレストラン開こうかな」
「だったら僕、通うね。毎日でも」
そう言うと、ふふっと嬉しそうにみくは笑った。
くるくるとフォークでパスタを巻いて、美味しそうに口に運ぶみくの姿に、尚也の胸がまた熱くなる。
その顔が、本当に幸せそうで。
じんわりと広がっていく幸せな気持ちで、心の奥まで満たされていく。
ふと、みくが顔を上げて言う。
「ねぇ……また一緒に作ろうね?」
「……うん。ずっと一緒に作ってたい」
そして、ずっと隣で、みくの笑顔を見ていたい。
尚也はそう思いながら、もう一口、カルボナーラを味わった。
お昼ご飯を食べ終えて片付けを済ませ、ソファでくつろいでいた時。
「コーヒー淹れるね。尚也、ブラックだよね?」
みくがそう言ってキッチンに向かった。
少しして戻ってきたみくは、尚也の前にブラックのコーヒーを、そして自分用にはカフェオレを運んできた。
「みくちゃん、ありがとう」
尚也が受け取ると、みくは隣にちょこんと座った。
さっきよりも、少し近い距離。ふわっと鼻腔をくすぐる甘い香りがして、また、ドキッと心臓が脈打つ。
「テスト、終わってほんと解放感あるよね」
「うん、そうだね」
お互いのマグカップを手に、たわいない会話を交わす。
学校のこと、先生の愚痴、学校からの帰り道に散歩していた犬の話。
楽しそうに笑うみく。
ずっと大好きだった、何より大切な存在。そんなみくが、最愛の恋人として、隣でこうやって微笑んでくれている。
尚也は、幸せってこういう事をいうんだろうな、と思った。
みくがカフェオレをふーふーと冷まして飲む。
その小さな仕草に、尚也は引き寄せられた。
横顔が、凄くきれいだと思った。
視線を外せなくなった。
視線に気づいたみくが、少しだけ頬を染め、首をかしげるように尚也を見た。
「尚也、どうしたの?」
その一言に、表情に、胸がぎゅっと詰まる。
言葉にならなくて、尚也はマグカップを机に置いた。
そして、吸い寄せられるように、みくの頬にそっと右手を伸ばした。
「可愛い……」
そう呟いた声は、自分でも驚くほど甘く、熱を帯びていた。
みくは目を見開き、そして、ゆっくりと目を閉じた。
尚也はそのまま、そっと唇を重ねた。
ちゅ、という小さな音が、静かな部屋に響いた。
香るカフェオレの甘さ、肌と肌が触れ合うぬくもり。
唇を離すと、みくの頬がみるみるうちに赤く染まっていくのが分かった。
「……ばか」
照れたように笑うその顔が、どうしようもなく愛おしい。
尚也はみくの手からそっとマグカップを取り、机の端に避けた。
そしてもう一度、ゆっくりとキスをした。
角度を変えて、もう一度、もう一度。
ちゅ、ちゅ、と音を重ねるたびに、心の奥から熱が湧き上がってくる。
みくの指が、尚也の服の裾をきゅっと掴む。
その小さな力が、尚也のなかで、何かをぷつんと切った。
抑えていた想い。ずっと好きだった気持ち。
尚也は思わずみくの身体を抱きしめた。
「……みく」
みくの瞳は少し潤んでいて、どこか不安と覚悟が混ざったような、そんな色をしていた。
みくの身体を、ソファに押し倒す。
「いい?」
みくは頬を赤らめてこくんと頷くと、引き寄せる様に抱きしめ返してきた。
sideみく
「明日の休み、どこ行こっか?」
尚也のその問いかけに、
「んー……、家でゆっくり、がいいな」
返事をしておいて、みくは自分でもちょっと意外だった。
外じゃなくて、家。なんとなく、それがいいと思った。
「今日、なんか……、違うかも」
リビングで尚也が小さな声でつぶやいたのを聞いたとき、みくの心臓がドキッと高鳴った。
(尚也、気づいてくれたかな……?)
今日はいつもより、少し頑張ったから。
服も一生懸命選んだし、耳の後ろにほんのり香る程度に香水を付けて、唇には薄いピンクのグロスをのせた。
せっかくのおうちデート。尚也に可愛いと思ってもらいたかった。
「お昼、作るね」
そう言いながら台所に立つ。エプロンをつけて、いつもの得意料理を作るだけなのに、尚也の横顔を見ると、やっぱりなぜだかいつもより緊張した。
「手伝うよ」
尚也の声が近くて、少しだけ、ドキドキする。
カルボナーラを作る手順なんて慣れてるはずなのに、尚也と並ぶと、全部がちょっと特別に感じる。
「ベーコン、私が切るから、尚也は卵とチーズ混ぜといて?」
そう言いながら笑った自分の声が、ちょっとだけ上ずっているのが分かった。
「こうやって並んでると、新婚みたいだね」
その言葉に、一瞬、息が止まった。
そして少し想像して頬が熱くなって、そんな自分に、ふふっと笑ってしまった。
「……確かに。ちょっとそんな感じ、するね」
昔から一緒にいるのに、尚也が恋人になっただけで、当たり前の景色がこんなにもきらめいて見えるのが、どこか不思議だった。
そう思っていると、突然尚也に唇を奪われた。
「あ、ごめん。咄嗟に」
「もう……、危ないでしょ」
嫌じゃ、ないけど……。という言葉は心の中に押し留めた。
炒めたベーコンの香ばしい匂いがキッチンに広がって、尚也がぽつりと言う。
「この匂い、ほんと好きだ」
「うん、カルボナーラって……、なんか“しあわせの匂い”って感じしない?」
「みくちゃんの横にいるから、だろうな」
「……そう言うこというの、禁止」
言いながら、顔がまた熱くなる。
胸の奥がじんわりあたたかくて、幸せな気持ちが胸いっぱいに広がった。
ふたりで作ったカルボナーラは、とろっとしたソースがパスタに絡んで、とても美味しそうにできた。
リビングの小さなテーブルに並んで、顔を見合わせて「いただきます」。
「……ん〜っ!やっぱりおいしい!今日のも最高!」
「みくちゃん、天才かも」
「そう? ふふ。じゃあ今度はレストラン開こうかな」
「だったら僕、通うね。毎日でも」
そんな会話が、嬉しくて、くすぐったくてにやけてしまった。
フォークをくるくる回してパスタを口に運ぶと、尚也がこちらをじっと見ている気がした。
「また一緒に作ろうね」と言うと、「ずっと一緒に作ってたい」と返されて、口には出さなかったけど、なんかプロポーズみたいだな、なんて思った。
お昼を食べ終えて、ソファでまったりするのに、飲み物があった方が良いと思ってキッキンに向かった。
いつもと同じように淹れたのに、手が少しだけ震えていた気がする。
コーヒーとカフェオレを持って戻って、少しドキドキしながら、さっきよりも少し近い距離に座る。
自然と肩がふれる距離になった。
(ドキドキしてるの、ばれてないかな)
他愛のない会話を交わしながら、みくはただ、尚也の隣にいるこの時間が好きだと思った。
何気ない話、尚也と笑い合うこの瞬間。
それだけで心が満たされていった。
カフェオレを冷ましながら飲んでいると、尚也の視線を感じた。
顔を上げると、じっとみくを見つめている。
「尚也、どうしたの?」
思わず聞いたその言葉に、彼はなぜかマグカップをテーブルに置いた。
手が、そっとみくの頬に触れる。
「可愛い……」
ひっそりと囁かれた声が甘くて、みくの手よりも骨張っている尚也の手が、あたたかくて。
気づけば、目を閉じていた。
優しく、やわらかく、唇が重なる。
ちゅ、という音が静かな部屋に響く。
少し苦いコーヒーの香りと、唇のぬくもり。
尚也の存在が、全部、心の奥に広がっていく。
唇が離れたあと、顔が熱くてどうしようもなくて。
「……ばか」
照れているのを隠せなかった。
マグカップがそっと机の端に避けられ、もう一度、今度はゆっくりとキスをされた。
ちゆ、ちゅ、と角度を変えて続くキスに、身体が熱くなってくる。
気づいたら、尚也の裾を指先で掴んでいた。
その瞬間、尚也の身体に包まれた。
「……みく」
熱のこもった、低く囁くような声で名前を呼ばれる。
ソファに優しく押し倒された。
静かに、けれど見た事のないギラっとした熱を帯びた瞳でみくを見下ろす尚也に、心臓が痛くなる。
「いい?」
みくはきゅんと高鳴る胸を抑え、小さくこくんと頷くと、そっと尚也を引き寄せた。
見つけてくださり、お読みいただき、ありがとうございました!
本作は
case1.突然のバックハグ の幼馴染二人の話です。
尚也×みくの話のバックナンバー
case1.突然のバックハグ
case4.雨の日の相合傘
case11.どんな君も好きだけど
case17.起こしに行ったその先で
case22.熱を出した日
こちらも合わせてお読みくださると嬉しいです。
ぜひご一読ください。
陽ノ下 咲




