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あの日の春風は今も  作者: リンダ


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十五分の壁

 第48章 十五分の壁

 1 五分から十五分へ


 五分。


 七分。


 十分。


 柚月は、実戦形式で動ける時間を少しずつ伸ばしていった。


 最初は、五分間を無事に終えるだけで精いっぱいだった。


 次の七分では、接触を受けたあとの切り替えが課題になった。


 十分では、疲れが出始めた終盤に判断が遅れ、一本だけ危険なパスを出した。


 そのたびに映像を見返した。


 なぜ遅れたのか。


 なぜ右脚へ体重を残しすぎたのか。


 なぜ相手の二人目が見えなかったのか。


 走れるかどうかだけではない。


 試合へ戻るには、疲れた状態でもサッカーができなければならない。


 そして、ついに山田羽美監督から次の課題が伝えられた。


「十五分」


 柚月は聞き返した。


「連続で?」


「連続で十五分。強度も少し上げる」


「接触は?」


「通常練習に近づける。ただし、危険なタックルはなし」


「十五分できたら?」


 山田は少し間を置いた。


「問題なく越えられたら、リーグ戦のベンチ入りを考える」


 柚月の表情が変わった。


 ずっと遠くにあった言葉。


 試合。


 ベンチ。


 公式戦。


 それが初めて、具体的な日程へつながった。


「本当に?」


「十五分を終えたあと、翌朝まで問題がなければね」


 柚月は何度もうなずいた。


「やるっちゃ」


 山田はすぐに釘を刺す。


「十五分を十八分にしようとしないこと」


「しねぇって」


「本当に?」


「監督までユリみたいになってきたなぁ」


 2 疲れたときに出る本当の癖


 十五分間のミニゲームが始まった。


 最初の五分は順調だった。


 柚月はボールを受ける前に周囲を見る。


 無理に前へ行かない。


 味方が困っていれば、逃げ道になる。


 自分が失えば、守備へ戻る。


 七分。


 八分。


 九分。


 徐々に呼吸が速くなる。


 右ふくらはぎは問題ない。


 しかし、身体全体には久しぶりの実戦疲労が出始めていた。


 十一分。


 中盤でボールを受けた柚月は、右へ展開しようとした。


 その瞬間、相手がコースを読んで寄せる。


 一度戻せばいい。


 頭では分かっている。


 しかし疲労で判断が半拍遅れた。


 相手が足を出す。


 柚月は無理に右脚を伸ばさなかった。


 ボールを失う。


「切り替え!」


 自分で叫ぶ。


 後輩たちが一斉に戻る。


 相手の縦パスを葵が止めた。


 ボールが再び柚月へ戻る。


 今度は簡単に横へつなぐ。


 山田監督は時計を見ながら、その一連の流れを見ていた。


 失った。


 しかし、無理に取り返そうとしなかった。


 焦って右脚を伸ばさなかった。


 そして次の一本でリズムを戻した。


 十三分。


 接触を受ける。


 柚月は身体を入れる。


 右脚だけで踏ん張らない。


 左脚も使いながらボールを守る。


 十四分。


 最後の一分。


 呼吸はかなり上がっている。


 それでも、判断は崩れなかった。


 十五分。


 笛が鳴る。


「終了!」


 柚月はその場で立ち止まらず、ゆっくり歩きへ移った。


 トレーナーがすぐに近づく。


「痛みは?」


「ない」


「張りは?」


「疲れてる。でも嫌な感じじゃねぇべ」


「右脚をかばう感覚は?」


「ない」


 山田監督が柚月の前へ来る。


「最後まで判断できてたね」


 柚月は息を整えながら答える。


「一回失ったけどな」


「失わない選手を探しているわけじゃない」


 山田は笑った。


「失ったあとに、何をしたかを見る」


 柚月も笑った。


「うちが後輩に言ってたこと、そのままだっちゃ」


 3 翌朝の答え


 本当に重要なのは、十五分を走り切った直後ではなかった。


 その夜。


 そして、翌朝。


 柚月は目を覚ますと、ベッドの上で右足首をゆっくり動かした。


 違和感はない。


 立ち上がる。


 右脚へ体重を乗せる。


 痛くない。


 ふくらはぎを軽く伸ばす。


 強い張りもない。


 柚月はすぐにトレーナーへ報告した。


 検査でも問題は確認されなかった。


 その日の午前。


 山田監督から呼ばれる。


 柚月が部屋へ入ると、机の上には次節の登録予定表が置かれていた。


 山田は、その紙を柚月の方へ向ける。


「次のベレーザ戦」


 柚月は息を止める。


「ベンチ入りさせます」


 数秒、言葉が出なかった。


「……本当に?」


「本当に」


「試合出る可能性も?」


「ある。ただし、最大十五分程度を想定する」


 柚月の目に涙が浮かぶ。


 山田は続けた。


「試合展開によっては出さない可能性もある。それでもベンチに入る」


「はい」


「復帰したことを証明する試合じゃない。チームが勝つために必要な場面が来たら使う」


 柚月は力強くうなずいた。


「それでいいっちゃ」


 4 ベレーザが感じた変化


 対戦相手のベレーザも、柚月のベンチ入りを確認していた。


 試合前のミーティング。


 監督は選手たちへ言った。


「大船柚月が戻ってくる」


 一人のDFが資料を見る。


「先発ではないですよね」


「ベンチだ。ただし、出てきたときに試合の流れが変わる可能性がある」


 別の選手が言う。


「長期離脱明けなら、まだ動けないんじゃないですか」


 監督は首を振った。


「そこだけを見ない方がいい」


 柚月が戻ったことで変わるのは、柚月本人のプレーだけではない。


 ベガルタ仙台レディース全体の空気。


 若手の落ち着き。


 声の量。


 パスを急がなくなる判断。


 ベンチにいるだけでも、味方へ与える安心感が違う。


「大船は、ボールを持っていないときにも試合へ影響を与える選手だ」


 ベレーザ側も、それを分かっていた。


 簡単な試合にはならない。


 5 再び公式戦のベンチへ


 試合当日。


 柚月は久しぶりに公式戦用のユニフォームへ袖を通した。


 背番号。


 クラブのエンブレム。


 すべてが懐かしい。


 控室でスパイクのひもを結ぶ手が、少し震えていた。


 葵が隣から声をかける。


「緊張してます?」


「してるっちゃ」


「世界一になった人でも?」


「その質問、何回されるんだべ」


 二人は笑った。


 選手入場。


 スタンドから拍手が起こる。


 先発選手だけではない。


 ベンチへ向かう柚月の名前がアナウンスされた瞬間、歓声が一段大きくなった。


 柚月は軽く頭を下げる。


 試合開始。


 ベガルタ仙台レディースとベレーザ。


 序盤から激しい中盤の争いになった。


 ベレーザはパス速度が速い。


 ベガルタは守備ブロックを崩さず、奪ってから前へ出る。


 前半は互いに決定機を作りながら、得点は生まれない。


 後半。


 ベレーザが徐々に主導権を握る。


 そして後半十八分。


 右サイドからのクロス。


 中央で合わせられ、ベレーザが先制。


 0-1。


 スタンドの空気が重くなる。


 山田監督はベンチから戦況を見ていた。


 ベレーザは一点を取ったことで、少し守備位置を下げ始めている。


 中央のスペースが広がる。


 しかし、ベガルタは焦って縦へ急ぎすぎていた。


 山田は時計を見る。


 後半二十七分。


 そして、柚月へ声をかけた。


「準備して」


 柚月が顔を上げる。


「はい!」


 6 後半三十分


 タッチライン横。


 柚月がユニフォーム姿で立つ。


 スタンドがざわつく。


 徐々に拍手が広がる。


 後半三十分。


 交代ボードが上がる。


 柚月の番号。


 歓声が一気に大きくなった。


 柚月はピッチへ入る前に、山田監督から短く指示を受けた。


「無理に試合を変えようとしない」


「はい」


「まず流れを見る」


「はい」


「でも、行けると思ったら行っていい」


 柚月は笑った。


「そこだけ聞いて暴走しないから安心してけろ」


 山田も笑う。


 柚月はラインを越えた。


 ワールドカップ決勝以来となる公式戦。


 芝の感触。


 観客の声。


 相手の呼吸。


 味方の緊張。


 全部が一気に戻ってくる。


 最初のプレーは、ベガルタのスローインだった。


 右サイド深い位置。


 ロングスローがペナルティーエリア付近へ入る。


 相手DFが頭で弾く。


 こぼれ球をベガルタが拾う。


 一度後ろへ戻す。


 再び中央。


 右へ。


 左へ。


 数本のパスがつながる。


 柚月は少し低い位置から、ゆっくり前へ動いた。


 相手MFは、まだ柚月との距離を測っている。


 復帰直後。


 強く来るか。


 それとも様子を見るか。


 柚月は、その迷いを見逃さなかった。


 味方から中央へパス。


 柚月の足元へ入る。


 ワンタッチで前へ置く。


 相手が一歩遅れる。


 ゴールまでは約二十メートル。


 一瞬だけ、左足側のコースが開いた。


 柚月は迷わなかった。


 左足を振り抜く。


 乾いた音。


 ボールは低い弾道でDFの間を抜ける。


 GKが反応する。


 しかし、間に合わない。


 ゴール左隅。


 ネットが大きく揺れた。


 一瞬の静寂。


 そして、スタジアムが爆発した。


 1-1。


 同点。


 柚月は立ち止まった。


 自分でも信じられないような顔でゴールを見る。


 次の瞬間、仲間たちが一斉に飛びついてくる。


「柚月さん!」


「復帰ゴール!」


「嘘でしょ!」


 柚月はもみくちゃにされながら叫ぶ。


「まだ終わってねぇっちゃ! 戻れ!」


 その声で、みんなが笑いながら自陣へ戻る。


 復帰した最初の数分。


 最初に訪れた本当のチャンス。


 電光石火の左足。


 柚月は、一発で試合を振り出しへ戻した。


 7 ゴールより大事な次の五分


 スタジアム全体が沸いていた。


 しかし、柚月は浮かれなかった。


 再開直後。


 ベレーザが強く出てくる。


 同点にされたことで、再び前へ圧力をかける。


 柚月は守備へ戻る。


 相手が中央でボールを持つ。


 無理に奪わない。


 進路を限定する。


 味方が戻る時間を作る。


 次の場面では、柚月がボールを受ける。


 スタンドから期待の声。


 再びシュートを打てという空気がある。


 しかし柚月は横へ出した。


 相手が寄る。


 また戻ってくる。


 今度は逆サイドへ展開する。


 山田監督がベンチからうなずく。


 復帰ゴールを決めた直後でも、試合を一人で決めようとしていない。


 そこに、この数か月で変わった柚月がいた。


 残り時間は少ない。


 1-1。


 ベガルタは勝ち点1でも最低限の結果にはなる。


 それでも、ピッチの選手たちは勝ち点3を狙っていた。


 柚月は仲間へ声をかける。


「急がなくていい! でも行くところは一気に行くべ!」


 8 アディショナルタイム


 後半四十五分。


 表示されたアディショナルタイムは四分。


 ベレーザも最後の力を振り絞る。


 ベガルタも引かない。


 後半四十七分。


 ベガルタが右サイドでFKを得た。


 ボールの前に柚月と別のキッカーが立つ。


 柚月はペナルティーエリアを見る。


 DFの磯村蘭が、ファーサイドへ立っていた。


 身長を生かして競ることができる選手。


 柚月が小さく手を上げる。


 磯村も視線を返す。


 笛。


 柚月ではなく、もう一人の選手が蹴る。


 鋭いボールが中央へ入る。


 相手DFが触る。


 こぼれる。


 混戦。


 ボールはファーサイドへ流れた。


 そこにいたのが、磯村蘭だった。


 迷わず右足を振り抜く。


 シュート。


 DFの足に当たり、わずかにコースが変わる。


 GKが逆を取られる。


 ゴール。


 2-1。


 再びスタジアムが揺れた。


 磯村は両腕を広げて走る。


 仲間たちが追いかける。


 柚月もその輪へ入った。


「蘭ー!」


「柚月さん!」


「よく決めたっちゃ!」


 磯村は笑いながら答える。


「柚月さんが戻ってきた日に負けられないです!」


 9 最後の笛


 残り時間。


 ベレーザはパワープレーに出る。


 ロングボール。


 競り合い。


 セカンドボール。


 最後の猛攻。


 柚月も自陣まで戻った。


 右ふくらはぎには疲労感がある。


 しかし、痛みはない。


 逃げない。


 味方と声を掛け合う。


「中央閉めて!」


「外行かせていい!」


「あと少し!」


 最後のクロス。


 磯村が頭で弾く。


 こぼれ球を葵が拾う。


 タッチラインへ大きく蹴り出す。


 笛。


 試合終了。


 ベガルタ仙台レディース、2-1。


 逆転勝利。


 勝ち点3。


 柚月はその場で両膝へ手をついた。


 息が上がっている。


 右脚の感覚を確かめる。


 大丈夫。


 そして、ようやく顔を上げた。


 仲間たちが笑っている。


 山田監督もベンチ前で拍手している。


 復帰戦。


 約十五分。


 同点ゴール。


 そしてチームは逆転勝利。


 できすぎているほどの結果だった。


 10 ベレーザが感じたもの


 試合後。


 ベレーザの選手たちは、悔しそうにピッチを後にしていた。


 それでも、一人の選手が振り返り、柚月の方を見る。


「やっぱり、大船さんが入って空気変わったね」


 別の選手も答える。


「ゴールだけじゃない」


 ボールの落ち着かせ方。


 周囲への声。


 守備の位置。


 味方を急がせない判断。


 柚月が入る前とあとでは、ベガルタ全体のプレー速度が整理されていた。


 ベレーザの監督も記者会見で語った。


「大船選手の得点はもちろん大きかった。ただ、それ以上に彼女が入ったあと、ベガルタ仙台レディースの選手たちが落ち着いた」


 簡単にはいかないと思っていた。


 その予想は当たった。


 11 山田羽美監督の評価


 ロッカールーム。


 選手たちは勝利を喜んでいた。


 柚月の復帰ゴール。


 磯村の決勝点。


 大きな拍手。


 しかし山田監督は、一度選手たちを静かにさせた。


「まず、勝ち点3。全員よくやった」


 拍手。


「蘭、最後のゴール、素晴らしかった」


 さらに拍手。


「そして柚月」


 視線が集まる。


 柚月は少し照れた。


「復帰戦で得点。そこはもちろん評価する」


 山田は続ける。


「でも、私が一番評価したのは、そのあとのプレー」


 柚月が顔を上げる。


「得点したあと、自分でまた決めようとしなかった。守備へ戻り、試合を落ち着かせ、味方を使った」


 山田は選手たちを見る。


「これが、今の柚月がチームへ戻ってきた意味だと思う」


 柚月は静かに聞いていた。


「ただし」


 山田の声が少し厳しくなる。


「復帰は今日で終わりじゃない」


「はい」


「今夜と明日の脚を確認する。問題があっても隠さないこと」


「分かってるっちゃ」


「次の試合でいきなり九十分とか考えない」


「そこまで考えてねぇべ」


 葵が横から言う。


「柚月さんなら考えそうです」


「お前、最近遠慮なくなったなぁ」


 ロッカールームに笑いが広がった。


 12 原町監督が見た復帰戦


 代表合宿先。


 原町監督と岩出コーチは、柚月の復帰戦映像を見ていた。


 後半三十分。


 投入。


 最初の数分。


 ロングスローからボールがつながる。


 柚月の足元。


 左足。


 同点ゴール。


 岩出コーチが思わず言う。


「復帰一発目でこれですか」


 原町監督は表情を変えない。


「得点だけを見るな」


 映像を戻す。


 得点後。


 柚月が守備へ戻る。


 横へつなぐ。


 味方へ声をかける。


 試合終盤。


 相手の攻撃を中央へ入れさせない。


「判断速度は?」


「かなり戻っています」


「接触は?」


「試合映像を見る限り、怖がって避ける動きはありません」


「終了後の状態確認を待つ」


 原町監督は資料へ書き込んだ。


 岩出が尋ねる。


「代表へ呼びますか」


 原町はすぐには答えなかった。


「一試合で決めない」


「はい」


「だが」


 少し間を置く。


「候補として見る段階から、招集を具体的に検討する段階へ入った」


 柚月の名前の横に、印がついた。


 13 翌朝


 翌朝。


 柚月は目を覚ます。


 身体は重い。


 久しぶりの公式戦。


 十五分程度とはいえ、リハビリとは違う負荷だった。


 右ふくらはぎへ手を当てる。


 足首を動かす。


 立ち上がる。


 軽い疲労感。


 しかし、あの嫌な張りはない。


 痛みもない。


 柚月は安心して息を吐いた。


 徹が尋ねる。


「どうだ」


「大丈夫だっちゃ」


「本当に?」


「本当に」


「ゴール決めたからって、次の試合で全部戻った気になるなよ」


「分かってるべ」


 徹は笑った。


 柚月も笑う。


 試合復帰はできた。


 でも、まだ十五分。


 完全復帰ではない。


 代表復帰でもない。


 それでも、大きな壁を一つ越えた。


 14 ユリへ見せた復帰ゴール


 書斎。


 柚月は復帰戦の映像を、名取百合子の遺影の前で再生した。


 自分の左足から放たれたボール。


 ゴールネット。


 歓声。


「ユリ、見た?」


 胸の中で返事が来る。


「見たっちゃ」


「どうだった?」


「復帰一発目で決めるとか、ちょっと出来すぎだべ」


「うちもそう思う」


「でも、そのあと浮かれなかったのはよかった」


 柚月が少し驚く。


「そこ見る?」


「そこが大事だっちゃ」


「羽美監督にも同じこと言われたべ」


「みんな分かってるなぁ」


 柚月は金メダルの横へ、試合でもらった記念ボールを置いた。


「代表、少し近づいたかな」


 ユリはすぐには答えない。


「近づいた。でも、まだ戻ってねぇべ」


「分かってるっちゃ」


「次もやれ」


「うん」


「その次も」


「うん」


「それで原町監督に、選ばない理由がないくらい見せればいい」


 柚月は笑った。


「相変わらず厳しいな」


「代表取り返すんだろ?」


「取り返す」


 迷いはなかった。


 次回予告

 第49章「二試合目の現実」


 復帰戦で同点ゴール。


 ベガルタ仙台レディースは、磯村蘭のアディショナルタイム弾でベレーザを2-1で破り、勝ち点3を手にした。


 しかし、次の試合でも同じようにうまくいくとは限らない。


 柚月の出場時間は二十分へ延びる。


 相手は復帰した柚月を研究し、強いプレッシャーをかけてくる。


 ボールを持つ時間を与えない。


 左足のシュートコースを消す。


 接触も増える。


 復帰戦とは違う現実。


 そこで柚月は、得点ではなく別の形でチームを助けることを求められる。


 一方、原町監督は柚月の復帰戦を早川莉奈と宮野沙季にも見せる。


「これが経験だ。だが、経験だけで代表の席は決まらない」


 そして、オリンピック予選候補合宿へ向けた招集メンバー発表の日が近づく。


 柚月。


 早川。


 宮野。


 それぞれが、自分の価値を証明する時間。


 次回、

 第49章「二試合目の現実」


 一度の劇的な復活では、完全復帰とは呼べない。


 本当に戻ったと証明するのは、次の試合からである。

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