1センチずつ戻る脚
第36章 一センチずつ戻る脚
1 世界一の選手に与えられた十歩
ワールドカップ優勝から数週間が過ぎた。
柚月の右ふくらはぎを覆っていた強い腫れは、少しずつ引いていた。固定具も外れ、松葉杖を使えば自分で移動できるところまで回復している。
しかし、ボールを蹴ることはまだ許されていなかった。
走ることもできない。
この日、ベガルタ仙台レディースのリハビリルームで柚月に与えられた課題は、松葉杖を使わずに十歩を歩くことだった。
一歩目。
右足の裏を床へつける。
少しずつ体重を乗せる。
ふくらはぎに、細い糸で引かれるような感覚が走った。
柚月の上半身が、無意識に左へ傾く。
トレーナーがすぐに声をかける。
「右脚から逃げています。歩幅を少し狭くしましょう」
「逃げてるつもりはねぇんだけどな」
「身体が痛みを覚えています。自分では真っすぐのつもりでも、無意識にかばっているんです」
柚月は一度、元の位置へ戻った。
世界一を懸けた決勝戦では、アメリカの最終ラインの背後へ全速力で走った。
準々決勝のブラジル戦では、攻守にわたって何度も長い距離を往復した。
その自分が今は、十歩を正しく歩くことに苦労している。
もう一度、右足を出す。
一歩。
二歩。
今度は、できるだけ上半身を傾けない。
三歩。
四歩。
足を床へ置くたびに、右ふくらはぎの感覚を確かめる。
「痛みは?」
「痛いっていうより、少し張る感じだっちゃ」
「張りが強くなったら、すぐに止めてください」
五歩。
六歩。
柚月は平行棒を握りたくなる気持ちをこらえ、腕の力を抜いた。
七歩。
八歩。
九歩。
十歩。
トレーナーがうなずく。
「今日はここまでにしましょう」
柚月は思わず振り返った。
「もう終わり?」
「今日の目標は、正しい姿勢で十歩です」
「あと十歩くらい歩けるべ」
「歩けることと、歩いていいことは違います」
柚月は天井を見上げた。
「またその言葉かぁ」
原町監督。
徹。
代表のメディカルスタッフ。
そして今度は、クラブのトレーナー。
誰もが同じことを言う。
できるからといって、やっていいとは限らない。
「うちの周り、全員で同じせりふ練習してんの?」
「柚月さんが何度言っても聞かないからです」
「聞いてるっちゃ」
「実行してください」
柚月は苦笑しながら椅子へ腰を下ろした。
右ふくらはぎへ氷嚢を当てる。
十歩。
世界一になった選手にとって、あまりにも小さな目標に見える。
それでも昨日までは、松葉杖を離して歩くことさえ怖かった。
今日の十歩は、確かに昨日より前へ進んでいた。
2 代表候補の一覧
リハビリを終えた午後、ロサンゼルスオリンピックへ向けた代表候補の強化合宿メンバーが発表された。
柚月はクラブハウスの休憩室で、携帯電話の画面を見つめていた。
ワールドカップ優勝メンバーの名前が並ぶ。
国内リーグで活躍する選手。
海外クラブで成長を続ける若手。
初めて代表候補へ選ばれた十代の選手もいた。
何度下へ動かしても、柚月の名前は現れない。
分かっていた。
今の自分が招集されるはずはない。
走ることもできず、ボールにも触れていない。
十歩を歩く練習をしている選手を、代表合宿へ呼ぶことはできない。
頭では理解している。
それでも、一覧の中に自分の名前がない現実は、柚月の胸を冷たくした。
「気になるよね」
声をかけたのは、ベガルタ仙台レディース監督の山田羽美だった。
柚月は携帯電話を伏せる。
「分かってたことなんですけどね」
「分かっていても、悔しいものは悔しいよ」
山田は向かいの椅子へ座った。
無理に励まそうとはしなかった。
今の柚月が欲しいのは、根拠のない安心ではないと分かっている。
柚月は正直に言った。
「うちがいない間に、みんな先へ行ってしまいそうで怖いっちゃ」
「代表は待ってくれないからね」
「若い選手も入ってる。合宿で結果を出したら、うちの居場所がなくなるかもしれない」
「あるかもしれないね」
山田は否定しなかった。
柚月が顔を上げる。
「監督、そこは大丈夫って言ってくれないんですか」
「大丈夫という保証はないもの」
「厳しいなぁ」
「ワールドカップで優勝しても、次の大会のメンバーが約束されるわけじゃない。代表はそういう場所でしょう」
山田は画面に並ぶ選手たちの名前を見る。
「今回は、この選手たちが機会をつかんだ。柚月が復帰したら、また自分で競争すればいい」
「世界一になっても、また最初からですか」
「最初からではないよ。世界一まで積み上げたものを持って、もう一度挑戦するの」
その言葉に、柚月はしばらく黙った。
「決まった席があったら、うちは安心するのかな」
「どう思う?」
柚月は少し考え、苦笑した。
「たぶん、物足りなくなるっちゃ」
山田も笑う。
「面倒な選手だね」
「監督がそれ言う?」
「かなり褒めてる」
3 古川稔が見てきた復帰
その日の夕方、ベガルタ仙台の男子トップチーム監督、古川稔がリハビリルームを訪れた。
徹から柚月の状態を聞き、練習後に顔を出したのだった。
「十歩、歩けたそうだな」
柚月は少し照れたように答える。
「世界一になった選手のニュースとしては、小さすぎますけどね」
古川は首を振る。
「けがから戻る選手にとっては、大きな十歩だ」
「監督も、けがから復帰する選手をたくさん見てきたんですか」
「何人も見た。順調に戻った選手もいれば、焦って再発した選手もいる」
古川は柚月の向かいへ座った。
「一番厄介なのは、筋肉よりも心だ」
「心?」
「痛みがなくなっても、また切れるんじゃないかと思えば、全力で踏み込めなくなる。逆に、痛みがあるのに焦って走れば、本当に壊れる」
柚月は右脚へ目を落とす。
「今のうちは、後者ですよね」
「かなりな」
古川は迷わず答えた。
柚月が笑う。
「徹から聞きました?」
「聞かなくても分かる。世界一になった直後に、もうオリンピックの話をしている選手だからな」
「目標を持つのは悪くねぇべ」
「目標はいい。期限に身体を無理やり合わせようとするのが危険なんだ」
古川は、代表候補合宿の話にも触れた。
「招集外が気になっているそうだな」
「はい。うちがいない間に、代表での居場所がなくなったらどうするんだろうって」
「徹には話したのか」
「話しました」
「何て言われた?」
「居場所は守るものじゃない。戻って、もう一度つくればいいって」
古川は感心したようにうなずく。
「たまにはいいことを言うな」
「あとで本人に伝えます」
「それはやめてくれ。練習で得意げになる」
二人は笑った。
古川は立ち上がる前に、柚月へもう一度言った。
「今は十歩でいい。その十歩を雑に歩いた選手は、百メートルを全力で走れない」
「一センチずつでも、戻ればいいんですね」
「一センチを飛ばせば、あとでその一センチに足を取られる」
古川の言葉は、その日のリハビリで歩いた十歩よりも、長く柚月の胸に残った。
4 久しぶりの夫婦の時間
ワールドカップ前から、柚月と徹はそれぞれ忙しい生活を送っていた。
柚月は代表活動と所属クラブ。
徹はベガルタ仙台のリーグ戦。
遠征や練習が重なり、同じ家に住んでいても、ゆっくり食事をする時間さえ少なかった。
柚月がけがをしてからは、皮肉にも二人で過ごす時間が増えた。
朝は徹が食事を用意する。
柚月がリハビリへ行く日は、可能な限り送り迎えをする。
夜は二人で試合映像を見たり、ユリとの思い出を話したりした。
ある日の夕食後。
柚月はリビングのソファへ座り、右脚をクッションの上に乗せていた。
徹は食器を片づけ、温かい飲み物を二つ持ってくる。
「今日のリハビリは?」
「松葉杖なしで十五歩まで増えたっちゃ」
「昨日より五歩増えたな」
「まだ十五歩だけどな」
「昨日は十歩だった」
徹は柚月の隣へ腰を下ろす。
テレビはついていたが、二人ともほとんど見ていなかった。
柚月はカップを両手で持ったまま、何度か口を開きかけては閉じた。
徹は急かさずに待つ。
やがて柚月が、小さな声で呼んだ。
「なぁ、徹」
「うん」
「ロサンゼルスオリンピックが終わったら、子ども欲しいなぁ」
徹は驚いて言葉を失ったわけではなかった。
その言葉を、一つもこぼさないように受け止めていた。
柚月は少し照れたように笑う。
「今までは、次の試合とか代表とか、サッカーのことばっかり考えてたべ。でも、ワールドカップが終わって、こうして徹と家で過ごす時間が増えたら、その先のことも考えるようになったっちゃ」
「オリンピックが終わってから?」
「うん。まずはロサンゼルスを目指したい。ワールドカップとの二冠も、ユリと約束したからな」
柚月は書斎の方へ目を向けた。
そこには、名取百合子の遺影とワールドカップの金メダルが並べられている。
「でも、その先には、徹と一緒に別の夢も見たい」
徹は静かにうなずいた。
「俺も、いつかは子どもが欲しいと思ってた」
柚月が顔を上げる。
「本当?」
「ああ。ただ、柚月が現役をどうしたいのか分からなかったから、俺からは言わなかった」
「オリンピックが終わっても、すぐ引退するかは決めてねぇべ」
「分かってる。子どもを持つことと、現役を続けることを、最初からどちらか一つに決める必要もない」
「簡単なことじゃないべな」
「簡単ではない。でも、そのとき二人で考えればいい」
柚月は安心したように息を吐いた。
「徹なら、そう言ってくれると思ったっちゃ」
5 百合子という名前
しばらく沈黙が続いた。
仙台の夜の明かりが、窓の外で静かに揺れている。
柚月はカップの縁を指でなぞりながら、もう一度口を開いた。
「それでな」
「うん」
「もし女の子だったら、百合子って名前にしたいなって思ってる」
徹は書斎に置かれた遺影を見る。
ユリ。
本名、名取百合子。
柚月とともに、なでしこジャパンへ入ることを夢見ていた少女。
東日本大震災で、その夢をかなえる前に命を奪われた親友。
柚月は少し不安そうに続けた。
「ユリの本名を、そのままもらうことになるべ。だから、軽い気持ちでつけていい名前じゃないと思ってる」
「そうだな」
「ユリの代わりにしたいわけじゃねぇんだ」
柚月ははっきりと言った。
「生まれてくる子は、その子自身だべ。ユリとは違う人生を生きる。でも、ユリがうちらに残してくれた優しさとか、夢を諦めない気持ちを、名前に込めたいと思ったっちゃ」
徹はゆっくりとうなずく。
「百合子。いい名前だと思う」
柚月の表情が明るくなる。
「本当?」
「ただ、柚月が言ったとおり、その子は名取百合子の生まれ変わりでも、代わりでもない」
「うん。うちらの娘として生まれてくる、別の百合子だっちゃ」
「それを忘れないなら、俺は賛成だ」
柚月は遺影へ顔を向けた。
「ユリ、聞いてた?」
胸の中に、すぐ返事が届いた気がした。
「聞いてたっちゃ」
「百合子って名前、借りてもいいべか」
天国のユリは、少し照れたように笑った。
「うちに許可取らなくてもいいべ。でも、同じ名前の子が生まれたら、なんか不思議だな」
「嫌じゃない?」
「嫌なわけねぇっちゃ。すごく嬉しいべ」
柚月の目に涙が浮かぶ。
「でも、その子に『ユリみたいになれ』って言ったら駄目だぞ」
「分かってる。百合子は百合子だべ」
「だったら、いい名前だっちゃ」
徹が尋ねる。
「何て言ってる?」
柚月は涙を拭いながら笑う。
「同じ名前の子が生まれたら不思議だけど、嬉しいって」
「そうか」
「でも、ユリみたいになれって押しつけるなって怒られた」
「そこは、俺と同じ意見だな」
「また意見が合ったべ」
徹も笑う。
「大事なところだからな」
6 名取家へ伝える
数日後。
柚月と徹は、名取家を訪れた。
居間には、ユリの父である名取雄二、母の名取愛子、そしてユリの実兄である名取大志がそろっていた。
ユリの遺影も、家族の間に置かれている。
ワールドカップのハイライトを一緒に見て以来、名取家と柚月たちは以前にも増して家族のような関係になっていた。
それでも、この話を伝えることに柚月は緊張していた。
愛子がお茶を置く。
「柚月ちゃん、脚はどう?」
「松葉杖なしで十五歩まで歩けるようになりました」
雄二が笑顔を見せる。
「少しずつだな」
「はい。一センチずつ戻ってます」
大志も言う。
「姉ちゃんがいたら、まだ走るなって怒ってそうですね」
「毎日怒られてる気がするっちゃ」
しばらく和やかに話したあと、柚月は徹と顔を見合わせた。
「雄二さん、愛子さん、大志さん。ちょっと話があるんです」
三人が柚月を見る。
「まだ先の話です。ロサンゼルスオリンピックが終わったら、うちら、子どものことも考えたいと思ってて」
愛子の顔に、柔らかな笑みが浮かんだ。
「そうなの」
「それで、もし女の子を授かることができたら、百合子って名前をつけたいと思ってます」
部屋が静かになった。
遺影の中の名取百合子が、家族と親友を見つめている。
柚月は言葉を続けた。
「ユリの本名を、そのままいただくことになります。だから、勝手に決めていいことじゃないと思って、皆さんに話しておきたかったんです」
愛子の目に涙が浮かぶ。
「もちろん、その子をユリの代わりにするつもりはありません。その子はその子として、徹と大切に育てたいと思ってます」
徹も頭を下げる。
「名取百合子さんの存在を娘に背負わせるのではなく、百合子さんが僕たちへ残してくれた優しさや希望を、名前に込めたいと思っています」
最初に口を開いたのは、雄二だった。
「ありがとう」
柚月は驚く。
「ありがとうって……うちらがお願いしてる方だべ」
雄二は首を振る。
「百合子の名前を、それほど大切に思ってくれていることが嬉しい」
愛子は涙を拭いながら、遺影を見た。
「あの子の代わりではなく、柚月ちゃんと徹さんの娘として生きてくれる百合子ちゃん」
ゆっくりと、その名前を口にする。
「とても素敵だと思う」
柚月の目にも涙があふれた。
「本当に、いいんですか」
「もちろん」
大志はしばらく黙っていた。
名取百合子の実兄として、妹と同じ名前の子が生まれるかもしれない。
嬉しさと寂しさが、同時に胸へ押し寄せていた。
やがて、大志は遺影へ目を向けたまま言った。
「百合子は、俺のたった一人の妹です」
柚月は黙って聞く。
「同じ名前の子が生まれても、俺の妹が戻ってくるわけじゃない。それは分かっています」
「うん」
「でも、姉ちゃんじゃなくて妹だった……あ、ごめんなさい」
大志は自分で言い直し、苦笑した。
「百合子は俺の妹です。同じ名前の子が生まれても、その子は柚月さんと徹さんの娘です」
徹がうなずく。
「はい」
「それでも、妹の名前が未来へつながっていくのは、すごく嬉しいです」
大志の声が震える。
「百合子ちゃんが生まれたら、家族同然のおじさんとして、いっぱい可愛がってもいいですか」
柚月は泣きながら笑った。
「大志さん、絶対甘やかすべ」
「たぶん、かなり甘やかします」
「最初から宣言されたっちゃ」
部屋に笑い声が広がった。
愛子も、雄二も、涙を流しながら笑っている。
天国のユリも、家族と一緒に笑っていた。
「お兄ちゃん、気が早すぎだべ。まだオリンピックも終わってねぇっちゃ」
柚月は胸の中で答える。
(夢を見るくらい、いいべ)
「んだな。みんなで見る夢なら、早いくらいでいいっちゃ」
7 一センチ先にある未来
翌日。
柚月は再びリハビリルームに立った。
壁際には松葉杖が置かれている。
トレーナーが少し離れた場所から柚月の姿勢を見る。
「今日は二十歩を目標にします」
「一気に倍だな」
「前回の十歩が安定していたからです。ただし、姿勢が崩れたらそこで終了します」
「分かってるっちゃ」
柚月は右足を前へ出す。
一歩。
前回より自然に体重が乗る。
二歩。
三歩。
右ふくらはぎの張りは強くない。
頭の中には、ロサンゼルスオリンピックがある。
ワールドカップとの二冠。
代表への復帰。
若い選手たちとの競争。
そのさらに先には、徹との新しい生活がある。
まだ生まれていない子ども。
百合子という名前。
名取百合子と同じ名前でありながら、誰の代わりでもない一人の女の子。
選手としての未来だけが、柚月の夢ではなくなっていた。
サッカー選手として走り続けること。
妻として徹と人生を歩むこと。
いつか母親になるかもしれないこと。
どれか一つを選び、それ以外を諦めなければならないとは限らない。
十歩。
右脚をかばわずに歩けている。
十五歩。
上半身も傾いていない。
十九歩。
そして、二十歩。
トレーナーが笑顔でうなずいた。
「きれいに歩けました」
柚月は大きく息を吐く。
「昨日より十歩増えたっちゃ」
「まだ走ってはいけませんよ」
「分かってるべ」
「本当に?」
柚月は笑う。
「今日は、本当に分かってる」
窓の外では、仲間たちがボールを追っていた。
以前なら、その姿を見るだけで焦りが湧いた。
今は、今日歩けた二十歩を大切にしようと思える。
一センチずつ戻る脚。
一歩ずつ近づくロサンゼルス。
そして、競技生活の先にも続いていく未来。
柚月は胸の中でユリへ話しかけた。
「うち、夢が増えすぎたかもしれねぇべ」
ユリの声が笑う。
「柚月は昔から欲張りだっちゃ」
「全部大切なんだよ」
「だったら、一つずつかなえればいいべ」
「まずは歩くことからだな」
「その次は走って、オリンピック。その先は徹さんと考えればいいっちゃ」
柚月はうなずく。
焦らない。
飛ばさない。
今日歩けた一センチを、次の一歩へつなげる。
夢へ向かう道は、ピッチの上だけにあるのではなかった。
次回予告
第37章「初めて触れるボール」
松葉杖を使わず、二十歩を正しい姿勢で歩けるようになった柚月。
次の段階は、ついにボールへ触れること。
しかし許されたのは、強いキックではない。
椅子へ座ったまま、足の裏でボールを止め、数十センチ転がすだけの練習だった。
目の前にあるのに、思い切り蹴ることのできないボール。
柚月の中に、再び焦りが生まれる。
一方、代表候補合宿では若手MFが結果を残し、柚月の後継者候補として注目され始める。
報道では「世代交代」という言葉が使われる。
柚月は記事を見つめながら、静かに言う。
「うちは、もう過去の選手なのかな」
山田羽美監督は、ボールを柚月の足元へ置く。
「過去かどうかは、次に蹴る一本が決める」
次回、
第37章「初めて触れるボール」
大きな夢へ戻る最初のキックは、誰にも見えないほど小さくていい。
その一球が、再び世界へ向かって転がり始める。




