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あの日の春風は今も  作者: リンダ


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九つのゴール、その代償

第23章 九つのゴール、その代償


1 歓喜より先に


試合終了の笛が鳴ったあとも、柚月の耳には歓声が残り続けていた。


日本、五得点。

ブラジル、四得点。


九つのゴールが生まれた、あまりにも激しい九十分。


開催国ブラジルの猛攻を受け、一度は四対四に追いつかれながらも、後半アディショナルタイムに黒川真緒が決勝点を奪った。


なでしこジャパンは、ベスト4へ進出した。


だが、ロッカールームへ戻った選手たちを待っていたのは、盛大な祝福ではなかった。


「座って。順番に確認します」


メディカルスタッフの声が飛ぶ。


床へ座り込む選手。

ベンチに横たわる選手。

氷嚢を身体へ当てる選手。


ユニフォームは汗で重くなり、膝や太ももには細かな擦り傷が残っていた。


森岡美里は、後半に強烈なシュートを太ももで受け止めている。


スタッフが慎重に触診する。


「ここ、痛みますか?」


「少し。でも、歩けます」


「歩けることと、問題がないことは別です」


美里は苦笑した。


「はい。怒られました」


隣では國武が、肩と背中の状態を確認されていた。


ブラジルのマリアナ・コスタと何度も競り合い、空中でも地上でも身体をぶつけ合った。


「深呼吸してください」


國武が息を吸う。


胸郭が広がった瞬間、表情がわずかに曇った。


「肋骨?」


「打撲でしょう。ただ、念のため画像も確認します」


さらに奥では、葵が腰と肩へアイシングを受けていた。


何度も横へ飛び、至近距離からのシュートを防いだ。

空中戦ではブラジルのFWとも接触している。


葵は仰向けになりながら、天井を見つめていた。


「四点も取られたなあ」


スタッフが冷静に答える。


「四点取られても、勝ちました」


「でも、四点です」


「その代わり、止めた決定機はいくつあります?」


葵は少し考える。


「数えてません」


「だったら、今は数えなくていいです。身体を休めてください」


柚月も、両脚を入念に確認されていた。


前半の先制点。

後半も攻撃の起点となり、守備では自陣深くまで戻った。


走行距離は、チームでも上位。


太ももの裏に強い張りがある。


スタッフが膝を曲げ、筋肉の反応を調べる。


「痛みは?」


「痛みっていうより、張ってる感じだべ」


「左右で差があります」


「右の方がきついっちゃ」


「今日は冷却。明日は状態を見て、練習量を調整します」


柚月は起き上がろうとする。


「準決勝、出られるよね?」


スタッフは即答しなかった。


「今日、決めることではありません」


その言葉に、柚月の表情が止まる。


勝った。


ベスト4へ進んだ。


なのに、もう次の試合に出られるかどうかを考えなければならない。


ワールドカップとは、喜びを味わう時間さえ短い大会だった。



2 勝った試合のあとほど


メディカルチェックを終えた柚月が通路へ出ると、徹が待っていた。


その胸には、ユリの遺影が抱かれている。


柚月はゆっくりと歩み寄った。


「勝ったよ」


徹はうなずく。


「ああ。すごい試合だった」


「すごいっていうか、むちゃくちゃだったべ。二点差にしても、すぐ返してくるし。四対四になったときは、さすがに心臓止まるかと思ったっちゃ」


「止まらなくてよかった」


「そこ、真顔で言う?」


徹は少しだけ笑った。


だが、その表情はすぐに真剣なものへ戻った。


「柚月」


「うん?」


「勝った試合のあとほど、怖いものがある」


柚月は首を傾げる。


徹は現役のJリーガーとして、何度も過密日程を経験してきた。


大きな勝利。

劇的なゴール。

会場全体が沸騰するような試合。


そういう試合のあと、人は自分の疲労を正確に感じられなくなることがある。


「興奮してる間は、身体が動く。痛みも薄く感じる。でも、次の日になったら一気に来る」


柚月は自分の右太ももへ手を置く。


「今も張ってる」


「だったら、隠すなよ」


「隠してねぇべ」


「柚月は、試合に出たいと思ったら、大丈夫って言うだろ」


反論しようとして、言葉が止まった。


徹には見抜かれている。


「準決勝も出たい」


「わかってる」


「優勝したい」


「それもわかってる」


「だったら」


「優勝するために、休むことも必要だ」


柚月は黙った。


徹がユリの遺影へ目を落とす。


「ユリだったら、どう言うかな」


柚月も写真を見る。


笑顔のユリ。


風の中から、声が聞こえてくるようだった。


「柚月、身体壊したら決勝で走れねぇべ。休むのもチームのためだっちゃ」


柚月は小さく息を吐く。


「……言いそう」


「だろ」


「でも、ベンチは嫌だべ」


「出ないとは決まってない。先発じゃなくても、途中から出る方法もある」


柚月は不満そうに頬を膨らませる。


「徹、今日は妙に監督みてぇだな」


「現役選手として言ってる」


「うちの旦那、たまに正論が鋭すぎんだよ」


「たまに?」


「今はそこ拾わなくていいっちゃ」


そのやり取りに、ようやく柚月の表情が少し和らいだ。



3 準決勝の相手


その夜。


チームミーティングで、準決勝の相手が正式に発表された。


イングランド代表。


ヨーロッパ屈指のフィジカルを誇る強豪。


平均身長は、日本よりおよそ六センチ高い。


センターバックだけではない。

中盤の選手も身体が強く、接触を受けながらでもボールを失わない。


前線には長身のストライカーが入り、サイドからのクロスに対して圧倒的な強さを発揮する。


スクリーンに映像が流れる。


イングランドのFWが、相手DFを背負いながら胸でボールを落とす。


そこへ二列目が入り、強烈なシュート。


次の映像では、コーナーキックからヘディング。


さらに別の映像では、サイドの選手が相手を押し込みながら縦へ突破している。


岩出コーチが説明する。


「体幹が強い。簡単には倒れない。ボールキープも上手い。空中戦では、正面から競れば分が悪い」


選手たちの表情が引き締まる。


「ただし、弱点もある」


画面が切り替わる。


イングランドの守備陣が、細かなパス交換に合わせて何度も方向を変えている。


「大きな身体を持っている分、細かな方向転換には時間がかかる。特に、中央から外、外から中央へ短い間隔で動かされると、守備の足がそろわなくなる」


原町監督が前へ出る。


「相手を走らせる」


ホワイトボードに、短く書く。


細かく。速く。無理に前へ行かない。


「イングランドにボールを持たせる時間があってもいい。ただし、持たせる場所はこちらが決める」


美里が確認する。


「中央では前を向かせず、外へ誘導する?」


「そう。外で持たせて、クロスを簡単に上げさせない。奪ったら、一気に前へ蹴るんじゃない。短いパスを三本、四本つないで、相手を振り向かせる」


柚月が映像を見ながら言う。


「横向いた状態から、また逆方向へ走らせるんだべな」


「その通り。小回りの差を使う」



4 先発変更


そして原町監督は、選手起用について切り出した。


「ブラジル戦から、先発を四人変更する」


部屋の空気が変わる。


最初に名前を呼ばれたのは、GKだった。


「葵は休ませる」


葵は驚いた表情を見せなかった。


すでに身体の状態を伝えられていたのだろう。


代わって先発するのは、控えGKの桐生菜月。


桐生は反射神経に優れ、足元の技術も高い。

葵とは異なり、後方から短いパスをつなぐことを得意としていた。


原町が桐生を見る。


「相手の高さを怖がる必要はない。出ると決めたら出ろ。迷ったときは、DFへ声をかけて任せろ」


「はい」


続いて、DFから一人。


ブラジル戦でマリアナと激しく競り合った國武を休ませ、宮坂玲奈を起用する。


宮坂は國武ほどの高さはない。

その代わり、カバーリングと予測に優れている。


MFでは柚月が先発を外れ、守備と運動量に強みを持つ黒川真緒が入る。


柚月の顔が、わずかに曇る。


だが何も言わない。


FWでは、二得点を挙げた相沢に代わり、俊足の藤森彩香が先発する。


原町は全員へ告げた。


「これは準決勝を軽く見るための変更ではない。優勝するための変更だ」


ブラジル戦の先発メンバーには疲労が蓄積している。


決勝まで進めば、次の試合はさらに厳しくなる。


休める選手は休ませる。

それでも準決勝を勝てるだけの力が、なでしこジャパンにはある。


「控えという言葉は使わない」


原町の声が響く。


「この大会に来ている全員が、日本代表だ。誰が出ても、やることは変わらない」


黒川が背筋を伸ばす。


藤森もうなずく。


桐生は拳を強く握った。


ベンチスタートとなった柚月は、静かに息を吐く。


悔しくないわけではない。


だが、徹の言葉が胸に残っていた。


優勝するために、休むことも必要だ。



5 準決勝当日


スタジアムには、イングランドの白と、日本の青が広がっていた。


開催国ブラジルとの試合とは違う。


圧倒的なアウェー感はない。


だが、準決勝という舞台の緊張は、空気そのものを重くしていた。


選手入場。


イングランド代表は、日本の選手たちより一回り大きく見える。


肩幅。

脚の太さ。

立っているだけで感じる存在感。


実況


「ワールドカップ準決勝、日本対イングランド。日本はブラジル戦から先発四人を変更しています」


解説


「決勝を見据えた起用でもありますが、非常に勇気のいる判断です。特にGK葵、MF柚月を先発から外しました」


ベンチに座る柚月は、ユニフォームの上にビブスを着ていた。


隣には葵。


葵がピッチを見ながら言う。


「落ち着かないね」


「そりゃそうだべ。自分が出てる方が楽だっちゃ」


「わかる」


「菜月、大丈夫かな」


「大丈夫。あの子、緊張してるときほど声が出るから」


その言葉通り、桐生は試合開始前からDF陣へ大きく指示を送っていた。


主審の笛が鳴る。


準決勝が始まった。



6 イングランドの圧力


開始直後から、イングランドが前へ出た。


長身FWのエミリー・カーターへロングボール。


宮坂が身体を寄せる。


だが、エミリーは簡単には揺らがない。


胸でボールを落とし、後方のソフィー・ハリントンへつなぐ。


ソフィーが右サイドへ展開。


グレース・ウォーカーが走る。


日本は開始一分で、自陣深くまで押し込まれた。


実況


「イングランド、早くも右サイドから攻め込みます!」


グレースがクロスを入れる。


高い。


ファーサイドへエミリーが入る。


宮坂より頭ひとつ高い位置で、ボールへ合わせた。


ヘディング。


ゴール右へ。


桐生が横へ飛ぶ。


両手で弾いた。


実況


「桐生、最初のシュートを止めた!」


解説


「これは大きいですね。立ち上がり、最初のプレーでしっかり反応しました」


桐生はすぐに立ち上がる。


「大丈夫! 次、押し上げて!」


その声に、日本の守備ラインが前へ出る。



7 あえて持たせる


イングランドはボールを保持する。


日本は奪いに飛び込まない。


前線の藤森と渡瀬が、イングランドのセンターバックへゆっくりと寄せる。


中央へのパスコースを消し、外側へ誘導する。


イングランドは左サイドへ。


日本は全体をスライドさせる。


そこから中央へ戻そうとすれば、黒川が立っている。


仕方なく、もう一度後方へ。


実況


「イングランドのボール保持が続いています。日本はなかなか奪いに行きません」


解説


「これは意図的ですね。持たせています。ただし、危険な中央では持たせていない。外側でボールを動かさせています」


ベンチの柚月が、身を乗り出す。


「いい位置だべ。真緒、ちゃんとルート切ってる」


葵もうなずく。


「でも、クロスは怖い」


イングランドの左サイド、オリヴィア・ベネットがボールを持つ。


日本の右サイドバックが距離を取る。


縦へ抜かせない。

中へ入らせない。


オリヴィアは後方へ戻す。


センターバックが逆サイドへ展開する。


日本の選手たちは、また反対側へ走る。


細かいスライド。


何度も繰り返す。


これは単に守っているのではない。


イングランドの大きな身体を、横へ走らせ続けるための時間だった。



8 前半8分――二本目のシュート


イングランドが中央でボールを奪う。


黒川へのパスがわずかにずれた。


ソフィー・ハリントンが拾う。


そのまま前へ。


日本のDFが下がる。


エミリーが中央で身体を張り、右へ落とす。


グレースがペナルティーエリア右からシュート。


低い弾道。


桐生が正面で受け止めた。


実況


「イングランド、二本目のシュート。しかし桐生、正面です!」


桐生はすぐには蹴らない。


宮坂へ短く出す。


イングランドのFWが寄せる。


宮坂から右サイドバック。


そこから黒川。


日本は狭い範囲で三本をつないだ。


イングランドが一斉に動く。


黒川は前へ蹴らず、逆のセンターバックへ戻す。


解説


「ここです。日本は奪ったあと、すぐロングボールにしない。短くつないで、イングランドの選手を方向転換させています」


センターバックから左サイドへ。


藤森が受ける。


イングランドの右サイドバックが寄せる。


藤森は一度、中央へ運ぶ。


そして、渡瀬とのワンツー。


小さな三角形。


イングランドの守備者二人が、一瞬重なった。


藤森が前へ出る。


日本が初めて、相手陣内深くへ侵入した。


左から低いクロス。


中央の渡瀬へ。


だが、イングランドのCBが先に触り、クリアした。


日本の最初の攻撃は、シュートまで届かなかった。


それでも、原町監督は拍手を送った。


「それでいい! 細かく動かせ!」



9 前半12分――高さの脅威


イングランドのコーナーキック。


キッカーはソフィー。


右から、ゴールへ向かって曲がるボール。


日本より平均身長が六センチ高いイングランドにとって、最大の武器となる場面だった。


宮坂がエミリーへ身体を寄せる。


桐生はゴールライン上から一歩前へ出た。


ボールが入る。


エミリーが跳ぶ。


宮坂も競る。


高さではエミリーが上。


頭で合わせる。


ボールはゴール左上へ向かう。


桐生が一歩踏み込み、両手を伸ばした。


指先で触る。


クロスバーの上へ。


実況


「桐生、素晴らしいセーブ! エミリーのヘディングをかき出しました!」


ベンチで葵が立ち上がる。


「ナイス、菜月!」


柚月も声を上げる。


「最高だっちゃ!」


桐生は拳を握る。


だが、すぐに次のコーナーへ備えた。


二度目のボールは宮坂が跳ね返す。


黒川がセカンドボールを拾い、藤森へ出す。


藤森が走る。


イングランドのDFも戻る。


日本のカウンター。


しかし藤森は無理に突破せず、中央の渡瀬へ。


渡瀬から黒川。


さらに後方へ戻す。


実況


「日本、速攻へ行くかと思いましたが、いったん落ち着かせました」


解説


「これが今日の日本の狙いでしょう。イングランドを一度自陣へ戻らせて、また前へ出させる。その往復を増やしています」



10 前半16分――日本、最初のシュート


日本が自陣でボールを回す。


桐生から宮坂。


宮坂から黒川。


黒川は背後から圧力を受けながら、ワンタッチで美里へ落とす。


美里は前を向く。


右を見る。


出さない。


一度左へ身体を向けて、イングランドの中盤を引きつける。


その瞬間、右側の渡瀬へ斜めのパス。


渡瀬が受ける。


背後からDFが寄せる。


ワンタッチで藤森へ。


藤森は中央へ入り、再び渡瀬へ戻す。


短いパスが続く。


イングランドの選手たちが、何度も身体の向きを変える。


渡瀬がペナルティーエリア手前で前を向く。


左足でシュート。


だが、イングランドDFが身体を寄せた。


ボールは力なくGKの正面へ。


実況


「日本、これが最初のシュートです! 前半十六分、渡瀬!」


解説


「威力はありませんでしたが、細かなパスで中央を動かしました。日本らしい攻撃でしたね」


スコアは、依然としてゼロ対ゼロ。


シュート数ではイングランドが上回る。


だが、日本の選手たちに焦りはない。



11 前半20分――数字の裏側


前半二十分。


スコアは、日本0―0イングランド。


スタジアムの大型ビジョンに、ここまでの数字が表示される。


シュート数


イングランド 5

日本     1


ボール支配率も、イングランドが六割を超えていた。


実況


「二十分を終えて、シュート数はイングランドが五本、日本はわずか一本。数字の上では、イングランドが押しています」


解説


「ただ、日本が完全に後手へ回っているかというと、そうではありません。危険な場所への侵入はかなり制限できています」


イングランドの五本のうち、決定的だったのは二本。


開始直後のヘディング。

コーナーキックからのエミリーの一撃。


それ以外は、守備の外側から打たせたシュートだった。


日本はボールを奪おうとして、無理に前へ出ていない。


あえて持たせる。


外側へ運ばせる。


横へ動かす。


そして、奪ったあとは細かいパスで相手をもう一度走らせる。


ベンチで柚月が時計を見る。


「二十分。予定通りだべ」


葵が尋ねる。


「イングランド、疲れてきてる?」


柚月はピッチの選手たちを見る。


イングランドの中盤が、日本のパス交換に合わせて何度も首を振っている。


身体の向きを変える回数も増えていた。


「まだ脚には来てねぇ。でも、頭は疲れ始めてる」


大きな身体を動かすには、力がいる。


一度加速すれば強い。

一度ボールを収めれば簡単には奪えない。


しかし、短い距離で何度も方向を変えさせられれば、少しずつ反応は遅れる。


原町監督は腕時計を確認した。


その表情に、不安はない。


シュート数、一対五。


支配率もイングランドが上。


それでも、日本の作戦は崩れていなかった。


むしろ、ここまでの二十分は、イングランドにボールを持たせながら、その体力と集中力を少しずつ削るための時間だった。


美里がピッチ中央で声を上げる。


「ここから、少しずつテンポ上げるよ!」


黒川が返す。


「はい!」


藤森がサイドで構える。


渡瀬も最終ラインの間を見ながら、動き始めた。


日本は耐えていたのではない。


待っていた。


イングランドの重心が、ほんの少し遅れる瞬間を。


大きな身体の間に、小さな亀裂が生まれる瞬間を。


そして、その亀裂へ細いパスを通すために。



次回予告


第24章「六センチの壁、その足元」


前半二十分を、ゼロ対ゼロでしのいだなでしこジャパン。


シュート数は一対五。


ボールを支配しているのはイングランド。


だが、それは日本が意図して選んだ試合展開だった。


細かなパス。


短いワンツー。


繰り返される方向転換。


日本より平均身長が六センチ高いイングランドの選手たちに、少しずつ疲労が見え始める。


そして前半二十七分。


黒川、美里、藤森がつないだボールが、イングランド守備陣の足元を抜ける。


ベンチで戦況を見つめる柚月は、ある変化に気づく。


「向こう、戻る一歩目が遅くなってるっちゃ」


一方、イングランドは日本の細かなパスを封じるため、前線からの圧力をさらに強める。


その背後に生まれる、広大なスペース。


先に突くのは、日本か。


それとも、高さと強さで押し切るイングランドか。


次回、

第24章「六センチの壁、その足元」


高さで勝てないのなら、

ボールを地面から離さなければいい。

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