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あの日の春風は今も  作者: リンダ


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ランスの猛反撃――「強豪の本気」

14.フランスの猛反撃――「強豪の本気」


スコアは 日本 2-0 フランス。

後半13分の追加点は、試合の流れを決定づけたように見えた。


だが――

相手はフランスだ。


ここからが、真の勝負だった。


フランスのキックオフ。

その一歩目から、空気が変わる。


実況

「さあフランス、ここからどう出るか!」


解説

「このままでは終われませんからね。

 間違いなくギアを上げてきます。」


前線の三枚が、一気に距離を詰める。

ボランチがラインを押し上げる。

SBはもう、守備よりも攻撃に比重を置いた立ち位置。


“圧”ではなく、“突進”だった。


左サイド。

スピードに乗ったドリブル。

日本の右SBが一歩遅れる。

カバーに入った國武が身体を入れるが、完全には止めきれない。


クロス。

中央へ鋭く入る。


西野が身体で当ててコースを変える。

だがセカンドボールをフランスが拾う。


ミドルシュート。


――ドンッ!


葵が、反射的に右手で弾き出す。


「ナイス!!」


ベンチから声が飛ぶ。

だが、まだ終わらない。


波は、続く。


実況

「フランスの猛攻です! 日本、押し込まれる展開!」


解説

「ここが正念場ですね。

 フランスは“前に出る理由”がはっきりした。

 逆に日本は、“守り切るか、もう一度刺すか”の判断が問われます。」


15.耐える時間――“面”で守る


日本はラインを少しだけ下げる。

だが、ベタ引きではない。


“面で守る”。


中央を閉じる。

縦を切る。

外へ追い出す。


フランスの攻撃を、

危険な場所へ入れさせない。


後半28分。


フランスの右サイドからのクロス。

ファーでヘディング。


――ゴンッ!


クロスバー直撃。


スタジアムがどよめく。


実況

「危ない!! フランス、ここはクロスバー!!」


解説

「今のはかなり危なかったですね……。

 ただ、日本の守備、最後まで体を寄せていました。

 完全なフリーにはさせていない。」


柚月が息を切らしながら叫ぶ。


「まだまだ! 面崩さない!」


美里が応える。


「OK、そのまま外へ逃がせ!」


渡瀬も戻る。

前線の選手も守備に加わる。


11人で守る。

だが、ただ守るだけではない。

次のカウンターのための位置も、ちゃんと残している。


16.フランス、意地の1点


後半38分。


フランスが中央でボールをつなぐ。

これまでとは違う、細かいワンタッチ。


日本のブロックの“隙間”を、ほんの一瞬だけ突いた。


縦パス。

リターン。

もう一度縦。


その三本で、ラインの裏へ抜ける。


実況

「来た! フランス、抜け出す!!」


ペナルティエリア内。

シュート。


――ゴール。


日本 2-1 フランス。


スタジアムが揺れる。


フランスの選手たちが一斉にボールを拾い、センターへ戻る。

まだ終わっていない。

いや、ここからが本当の勝負だ。


解説

「これは見事でしたね。

 日本の守備も崩される形は少なかったんですが、

 あの一瞬の“連続性”でこじ開けました。

 さすがフランスです。」


17.残り時間――“時計”を味方にする


スコアは2-1。

残り時間はわずか。


フランスはさらに前へ出る。

もはや守備のバランスは二の次。

とにかく一点。


日本は焦らない。


ボールを奪えば、すぐに前へ蹴らない。

“持つ”。


時間を使う。

相手を走らせる。

ファウルをもらう。


時計を、味方にする。


実況

「日本、ここは落ち着いてボールを回しています!」


解説

「いいですね。

 “守る”だけじゃなくて、“時間を使う守備”。

 これができると、試合はかなりコントロールできます。」


美里がボールをキープしながら、声をかける。


「焦るな! こっちの時間!」


柚月が受けて、ワンタッチで逃がす。


「走らせろ! まだ終わってねぇ!」


18.アディショナルタイム――最後の一撃


第四審判のボード。


+4分。


スタジアムの緊張が、一気に高まる。


フランスの最後の攻撃。

ロングボール。

セカンドボール。

もう一度クロス。


葵がキャッチ。


その瞬間、柚月が叫ぶ。


「今!!」


葵は迷わない。

すぐに前線へスロー。


美里が受ける。

ターン。

前を向く。


フランスの守備は、もう戻りきれない。


右に柚月。

左に渡瀬。


美里は中央を運びながら、最後まで引きつける。


「右!」


柚月へ。


柚月はワンタッチで縦へ出す。


渡瀬がスプリント。


GKが前へ出る。


その一瞬、渡瀬は視線を上げた。


(ここだ。)


右足で、軽く浮かせる。


ボールはGKの上を越え、

ゆっくりとゴールへ吸い込まれていく。


――ゴール。


日本 3-1 フランス。


実況

「決まったぁぁぁぁ!!!

 日本、試合を決定づける3点目!!」


解説

「完璧です!!

 守って、耐えて、そして最後に刺す!

 これが今日の日本のサッカーです!!」


19.試合終了――ベスト8へ


フランスのキックオフ直後。


主審が時計を見る。


そして――


ピィィィィィィィィィィィ――――。


長い笛。


試合終了。


日本 3-1 フランス。


日本の選手たちが一斉にピッチへ倒れ込む。

抱き合う。

叫ぶ。

笑う。


柚月は、膝に手をついたまま、空を見上げた。


(ユリ。見でだべ。)


スタンド。

徹が立っている。

ユリの遺影が、その胸にある。


柚月は、小さく笑った。


「……特上サーロイン、決定だな。」


実況

「なでしこジャパン、ベスト8進出!!

 優勝候補フランスを破りました!!」


解説

「本当に見事な試合でした。

 持たせて、走らせて、耐えて、最後に刺す。

 そして何より――

 自分たちを信じ切った90分でしたね。」


ピッチの中央。

日本の選手たちは、整列し、深く一礼する。


歓声が、波のように押し寄せる。


ベスト8。

だが、まだ途中。


物語は、ここからさらに深く、

さらに熱く、続いていく。




ベスト8前夜 ― 開催国ブラジル対策


フランス戦を終えた夜。

なでしこジャパンの宿舎では、もう次の相手に向けた準備が始まっていた。


相手は開催国ブラジル。

スタンドの熱、判定の空気、ホームの勢い。

それに加えて、チームそのものの強さもある。

“南米らしい自由さ”と“今大会仕様の組織性”が同居した、やっかいな相手だった。


1.ブラジル女子代表


映像ルームのホワイトボードに、原町監督が名前を書き出す。


ブラジル代表・主力

GK:カミーラ・ロシャ

反応速度が高く、至近距離に強い。流れの中のシュートを止める力がある。

CB:イザベラ・モラエス

対人と空中戦の要。フィジカルが強く、セットプレー時は攻守両面で脅威。

左SB:レチシア・ナシメント

縦の推進力があり、押し上げの起点。高い位置を取るのが特徴。

DMF:アナ・クララ

中盤の底で配球を司る。テンポを変える一歩前のパスがうまい。

OMF:ルアナ・フェレイラ

ブラジルの“頭脳”。狭い局面で前を向き、一発で局面を変えるスルーパスを持つ。

右WG:ベアトリス・シルヴァ

一対一の突破力が高く、カットインからのシュートが武器。

左WG:カロリーナ・ジェズス

爆発的なスプリントで裏を取るタイプ。走り出しが鋭い。

CF:マリアナ・コスタ

ゴール前の嗅覚が抜群。身体を張って起点にもなれる。


原町は、ボードの一番上に大きく書いた。


“熱に飲まれない”


2.ブラジルの強みと弱点

原町監督


「強みははっきりしてる。

 フィジカル、一対一、観客込みの勢い。

 特に前の三枚は、ボールを持った瞬間に流れを変える。」


岩出コーチが映像を止めながら説明する。


岩出コーチ


「このチームは、フランスみたいに“組織で圧をかけ続ける”んじゃない。

 むしろ、個の熱量で局面を壊してくる。

 ルアナ・フェレイラが前を向いた瞬間、

 左右のベアトリス・シルヴァとカロリーナ・ジェズスが一気に裏を狙ってくる。

 そこにマリアナ・コスタが中央で待ってる。」


画面に、ブラジルのカウンターが映る。

一気に3人が前へ出る形。


「ただし、弱点もある。

 一つは、前がかりになった後の戻り。

 もう一つは、横に振られたときのスライドの粗さ。

 勢いに乗るぶん、逆にズレ始めると修正が遅れる。」


柚月がメモに書く。


“熱くなったらズレる”


美里がそれを見てうなずく。


3.なでしこの対ブラジル戦プラン


原町監督がボードに矢印を引く。


プランの柱

ボールは持たせる

でも、危険な中央は使わせない

左右に振って走らせる

一瞬のズレに対して、カウンターを刺す

フィジカル勝負を正面から受けない

原町監督


「フランス戦と似てるようで、ちょっと違う。

 フランスは“回して崩す”タイプ。

 ブラジルは“熱で押し切る”タイプ。

 だから、こっちが冷静なら冷静なほど、相手は崩れる。」


岩出コーチ


「ポイントは、ルアナに前を向かせないこと。

 それから、左右のWGを“派手に見せない”。

 抜かれても慌てない。

 中へ行く角度だけ消せばいい。」



「シュートも“雰囲気で打ってくる”感じですね。

 観客が沸くから余計に怖く見える。」


三浦有里


「でも、怖く見えるだけで、枠の外も多い。

 “すごそうに見える時間”を、こっちは普通に処理すればいい。」


美里


「要するに、“ブラジルらしさ”に付き合いすぎないことだね。」


柚月


「うん。

 向こうが熱くなるほど、こっちは静かに刺す。

 たぶん、そういう試合だ。」


4.入浴後、夕食、そして夜風


ミーティングが終わると、選手たちは入浴へ向かった。

フランス戦の疲れがまだ身体の奥に残っている。

湯船に肩まで浸かると、美里が息を吐いた。


「次、開催国ブラジルかぁ……。」


日比谷が苦笑する。


「しんどいけど、めちゃくちゃ大舞台ですね。」


柚月は湯を肩にかけながら言った。


「ユリ、こういうカード好きだったべな。

 “絶対見たい”って言ってたタイプ。」


葵が笑う。


「しかもホームの熱量込みで、でしょ?」


「うん。

 “その熱をどう料理するかが面白いんだっちゃ”とか言いそう。」


小さく笑いが起きる。

そのあと、夕食。

たんぱく質、スープ、野菜、炭水化物。

ルーティンを崩さない。

ノックアウトの怖さがあっても、日常を失わない。


5.夜風のバルコニー ― ユリと徹と、次の敵


夕食後、柚月はまたバルコニーへ出た。

夜風が頬に気持ちいい。

開催国ブラジルの夜は、どこか眠りきらない。

遠くで歓声の名残みたいな音がする。


(ユリ。

 次、ブラジルだよ。)


(開催国。

 しかも、いかにも“ブラジル”って感じの相手。

 熱くて、強くて、面白い。

 ……おめぇ、こういうの一番好きだったべ。)


その時、扉が開いて徹が出てくる。

手にはスポーツドリンクが二本。


「はい。」


「ありがと。」


二人は並んで夜景を見る。



「ブラジル、きついな。」


柚月


「うん。でも、やることは見えた。

 熱くなったらズレる。

 だったら、うちらは冷静に、最後に刺すだけ。」



「それでいい。

 開催国相手って、どうしても雰囲気で飲まれやすいけど、

 試合そのものは11対11だ。

 観客はパス出してこねぇし、守備もしてこねぇ。」


柚月が笑う。


「名言っぽく言うな。」



「でもほんとだろ。

 あと、勝ったら晩飯、まだ有効だからな。」


柚月


「じゃあ今度は、

 特上サーロイン+デザート付きで。」



「お前の勝利条件、毎回ちょっとずつ上がってねぇか?」


柚月


「だって相手ブラジルだよ?

 それくらい付加価値あるべ。」


二人は笑った。

その笑いのあと、柚月はまた空を見上げる。


(ユリ。

 明日、ブラジルとやる。

 でもうちら、熱に飲まれない。

 ちゃんと笑って、ちゃんと刺して、勝ってくるから。)


夜風が、少し強く吹いた。

それが返事みたいに思えて、柚月は目を閉じた。

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