↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日の春風は今も  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
102/127

王者の修正

第76章 王者への修正


1 後半、オランダは別のチームになった


1-0。


日本リード。


後半開始。


柚月はキックオフから一分も経たないうちに気づいた。


「やっぱ変えてきたな」


前半とは明らかに違う。


大船柚月に二人。


早川莉奈に二人。


長崎美琴。


正木静香。


危険な選手へ複数のマークを当て、日本の武器そのものを消そうとしていた前半。


しかし、その守備は藤森彩香の先制点によって破られた。


だからオランダは変えた。


今度は人ではない。


場所。


ゾーン。


中盤と最終ラインの距離を狭め、日本が入りたい中央のスペースそのものを消す。


柚月が低い位置で受ける。


誰も深追いしない。


一人が前を切る。


後ろの選手は位置を守る。


早川が横へ動いても、追い続けない。


隣の選手へ受け渡す。


正木が裏へ走っても、最終ライン全体が連動して下がる。


早川が柚月へ聞いた。


「次はどうします?」


柚月は周囲を見る。


「また見るっちゃ」


答えは、試合の中にある。


2 いきなりオランダ


後半3分。


オランダが前から圧力をかける。


藤森彩香へ。


戻す。


伊達葵。


オランダFWがさらに追う。


伊達は左へ。


國武真央。


そこにも寄せ。


國武は中央へ戻そうとする。


狙われた。


オランダMFがパスカット。


そのままペナルティーエリアへ。


シュート。


伊達葵。


正面。


両手で弾く。


こぼれ球。


別の選手が詰める。


藤森彩香が身体を投げ出した。


ブロック。


ボールが外へ。


いきなり。


危ない。


森岡美里が大きな声を出す。


「切り替え!」


3 伊達葵、再び


後半6分。


またオランダ。


今度は左サイド。


一対一。


宮原彩乃が対応する。


相手が一度止まる。


縦へ。


宮原がついていく。


クロス。


高い。


中央。


オランダFWが頭で合わせる。


伊達葵が横っ飛び。


左手一本。


弾いた。


ボールがポスト横へ。


CK。


伊達は芝へ倒れたまま、すぐに起き上がる。


「次!」


藤森が近づく。


「葵、ナイス!」


「まだ終わってない!」


世界王者の初戦。


簡単ではない。


一点取ったからといって。


相手が折れるわけでもない。


4 オランダの修正の意味


後半10分。


日本。


柚月。


早川。


美琴。


三人で短くつなぐ。


だが。


前へ出られない。


オランダは追い回さない。


中央を狭める。


縦パスを入れさせない。


サイドへ誘導。


そこで圧力。


ボールを奪う。


柚月は少しずつ分かってきた。


「中央、無理に入れさせようとしてるんじゃねぇ」


早川が見る。


「外に出させてます?」


「んだ」


外へ追い込む。


そこへ二人。


奪う。


そこからオランダが速攻。


前半の日本とは逆。


今度はオランダが、日本を意図した場所へ動かそうとしている。


5 正解だったものを捨てる


柚月が森岡へ声をかける。


「美里!」


「うん!」


「前半の形、一回捨てる!」


森岡が即座に理解する。


「了解!」


前後左右に揺さぶる。


それは前半には効いた。


でも。


相手が変えた。


なら。


同じことを続ける理由はない。


早川も美琴も、すぐに切り替える。


前半の成功。


そこに執着しない。


柚月が言う。


「勝った形にしがみつくな!」


原町監督がベンチで小さくうなずいた。


6 ボールのないところを見る


後半14分。


柚月は意図的にボールから離れた。


一度右。


また中央。


オランダは追ってこない。


ゾーン。


なら。


選手を動かしても崩れにくい。


柚月は別のところを見る。


ボールが右にあるとき。


逆サイド。


オランダの左。


少し絞る。


中央を守るため。


その外。


空く。


柚月が國武を見る。


國武も気づく。


次。


ボールが左。


今度は逆の宮原。


同じ。


「サイドそのものじゃねぇ」


柚月が小さく言う。


美琴が聞く。


「何ですか?」


「サイドの裏だべ」


7 外へ誘われるなら、その先へ


オランダは、日本をサイドへ追い込む。


なら。


そこで止まらなければいい。


サイド。


さらにその背後。


オーバーラップ。


三人目。


日本がもう一人加われば。


オランダのゾーンにも選択が生まれる。


出るか。


残るか。


後半17分。


早川から宮原。


オランダが寄る。


宮原は戻さない。


その外。


高橋結衣が走る。


宮原から高橋。


オランダSBが出る。


その内側。


早川。


高橋はワンタッチで早川へ返す。


早川が中央へ入る。


初めて。


オランダのゾーンが少し崩れた。


シュートまでは行かない。


でも。


道は見えた。


8 原町監督が動く


後半20分。


原町監督はベンチを見る。


「宮野」


宮野沙季が立つ。


「はい!」


「準備」


次。


「相沢」


相沢紗英。


「はい」


さらに。


「井上」


井上梓も立ち上がる。


日本には18人いる。


先発だけで戦う大会ではない。


原町監督が岩出コーチへ言う。


「オランダが前へ来た」


「はい」


「だったら脚を入れ替える」


疲れた選手。


相手との相性。


残り時間。


全部を考える。


9 柚月も交代を意識する


柚月はベンチの動きを見た。


自分が下がる可能性もある。


以前なら。


まだ行ける。


最後まで。


そう思った。


今は。


必要なら下がる。


それでいい。


自分がいなくても。


早川がいる。


美琴がいる。


宮野。


相沢。


まだ武器はある。


柚月はむしろ、ピッチにいる今の時間で何を残せるかを考える。


「莉奈」


「はい」


「今から相手の左、よく見とけ」


「はい」


「うち下がっても続けろよ」


早川が少しだけ表情を変える。


でも。


すぐうなずく。


「分かりました」


10 宮野投入


後半24分。


最初の交代。


宮野沙季。


中盤へ。


疲労が見え始めた選手と交代。


宮野の役割は明確だった。


セカンドボール。


危険察知。


そして。


オランダの前への勢いを一度止める。


最初のプレー。


オランダの縦パス。


宮野が読む。


一歩前。


奪う。


そのまま早川へ。


日本側から拍手。


柚月が叫ぶ。


「それ!」


宮野が入ったことで。


日本の守備が少し落ち着く。


11 相沢紗英


後半28分。


相沢紗英も投入。


左右。


中央。


どこでも動ける。


相沢は入ってすぐ、左へ大きく開いた。


オランダの守備が少し動く。


次は中央。


また右。


捕まえにくい。


ゾーン守備に対して。


一つの場所へ立ち続けない。


相沢の特徴が効き始める。


原町監督が言う。


「いいぞ、そのまま動け」


12 井上梓


後半31分。


井上梓。


前線へ。


正木静香と交代。


正木はピッチを出るとき、井上へ言った。


「裏、空き始めてる」


「見えてます」


「行けるよ」


井上が笑う。


「行ってきます」


初速。


背後への一歩。


オランダは一点を追っている。


前半より最終ラインが少し高い。


ここ。


井上の武器。


13 日本が再び前へ


後半34分。


オランダが攻める。


中央。


藤森彩香。


カット。


宮野沙季。


拾う。


相沢紗英。


右。


宮原彩乃。


その外。


高橋結衣。


オランダが寄る。


高橋はすぐ中央。


早川莉奈。


早川が前を向く。


オランダの最終ライン。


高い。


井上梓。


動く。


早川。


縦。


井上が抜ける。


オフサイドなし。


一対一。


シュート。


GK。


足で止める。


惜しい。


早川が両手を叩く。


「梓!」


井上も。


「次!」


日本に再び決定機。


14 答えは一つじゃない


柚月はそのプレーを見て笑った。


前半。


二人マーク。


揺さぶる。


後半。


ゾーン。


外へ誘導。


その先。


三人目。


そして。


相手が前へ出たら。


背後。


同じ試合。


同じ相手。


でも。


答えは何度も変わる。


柚月は小さく言った。


「これだべ」


世界王者だから。


答えを最初から知っているのではない。


分からなくなっても。


もう一度探す。


それが。


今の日本だった。


15 オランダの猛攻


後半38分。


オランダ。


もう時間がない。


攻撃の人数をさらに増やす。


高いクロス。


藤森彩香。


ヘディングでクリア。


こぼれ球。


オランダ。


シュート。


宮野沙季。


ブロック。


またオランダ。


右。


クロス。


伊達葵。


飛び出す。


パンチング。


スタジアムが大きくどよめく。


一点差。


まだ何も決まっていない。


16 柚月交代


後半40分。


原町監督が柚月を呼ぶ。


「大船!」


柚月が見る。


交代。


柚月は一度、右ふくらはぎを確かめた。


問題ない。


疲労。


それだけ。


そして。


すぐうなずいた。


「はい!」


森岡が近づく。


「お疲れ」


柚月はキャプテンの森岡を見る。


「あと頼む」


「任せて」


早川へ。


「莉奈!」


「はい!」


柚月は指で左右を示す。


「揺さぶる意味、忘れんな」


早川がうなずく。


「はい」


宮野にも。


「セカンド」


「任せてください」


そして。


柚月はピッチを出る。


17 ベンチから見る


ベンチ。


柚月は水を飲みながら。


試合を見る。


自分がいない。


でも。


日本は止まらない。


早川が中央。


宮野が後ろ。


相沢が左右。


美琴がキープ。


井上が裏。


高橋が走る。


森岡が全体をつなぐ。


柚月は少しだけ笑った。


「強くなったなぁ」


岩出コーチが横から言う。


「誰のことです?」


柚月はピッチを見る。


「みんな」


18 88分


オランダ最後の猛攻。


右サイド。


クロス。


ヘディング。


伊達葵。


弾く。


こぼれ球。


オランダ。


もう一度シュート。


藤森彩香。


身体を投げ出す。


ブロック。


宮野沙季。


拾う。


美琴へ。


美琴が身体を入れる。


相手二人。


奪わせない。


ファウル。


日本ボール。


ベンチの柚月が立ち上がる。


「ナイス美琴!」


19 90分


アディショナルタイム。


5分。


日本1-0オランダ。


オランダはGK以外。


ほとんど前。


日本。


耐える。


でも。


引きこもらない。


井上梓が前へ残る。


相沢も。


早川も。


カウンターの可能性を残す。


オランダは全員を上げきれない。


それだけでも。


日本の守備になる。


20 最後のFK


93分。


オランダ。


FK。


ゴールまで約30メートル。


全員がゴール前。


伊達葵が声を出す。


「集中!」


ボール。


高い。


ファー。


藤森彩香。


競る。


オランダ。


頭。


中央へ。


危険。


森岡美里。


身体を入れる。


宮野沙季。


大きくクリア。


井上梓。


追う。


オランダDFが戻る。


井上がボールをコーナーまで運ぶ。


時間。


21 試合終了


95分。


オランダ最後のロングボール。


西野千尋が入っていた最終ライン。


頭で跳ね返す。


宮野。


セカンドボール。


早川。


前へ運ぶ。


主審が時計を見る。


笛。


試合終了。


日本1-0オランダ。


ロサンゼルスオリンピック。


一次リーグ初戦。


勝利。


22 18人で取った勝ち点3


日本の選手たちが抱き合う。


藤森彩香。


先制ゴール。


伊達葵。


何度も決定機を止めた。


早川。


美琴。


森岡。


そして。


途中から入った。


宮野。


相沢。


井上。


西野。


18人。


全員が違う役割を持っている。


原町監督はピッチへ戻ってきた柚月へ言った。


「どうだった」


柚月が答える。


「しんどかったです」


「それだけ?」


「相手、三回くらい守り方変えてきました」


「日本は?」


柚月が笑う。


「四回変えました」


原町監督も少し笑った。


「なら一回多かったな」


23 初戦だからこそ


ロッカールーム。


拍手。


原町監督が前へ。


「勝ち点3」


選手たちが聞く。


「以上」


早川が少し驚く。


原町監督は続ける。


「初戦を勝った。でも、それだけだ」


まだ。


メキシコ。


ガーナ。


一次リーグ。


突破も決まっていない。


「今日勝った理由を覚えろ」


相手のマークを見た。


修正した。


また相手が変えた。


また日本が変えた。


「勝った形を次の試合へそのまま持っていくな」


柚月がうなずく。


24 パリ組


夜。


森岡と柚月。


少しだけ話す。


森岡が言う。


「一つ勝ったね」


「んだ」


「パリのときより落ち着いてる?」


柚月は考える。


「たぶん」


「なんで?」


柚月は少し笑う。


「先見なくなったからかな」


金メダル。


まだ。


見ない。


雪辱。


まだ。


終わっていない。


でも。


今日。


一つ勝った。


それでいい。


25 次はメキシコ


順位表。


日本。


勝ち点3。


しかし。


A組の戦いは始まったばかり。


次。


メキシコ。


オランダとは違う。


高さだけではない。


運動量。


切り替え。


狭い距離。


そして。


ボールを奪った直後の速さ。


柚月は映像を見る。


「また全然違うなぁ」


早川が笑う。


「また見るんですよね」


柚月が答える。


「当たり前だべ」


次回予告


第77章「止まらないメキシコ」


一次リーグ初戦。


日本はオランダを1-0で撃破。


勝ち点3。


しかし、休む時間は短い。


第2戦。


メキシコ。


オランダとは正反対ともいえる相手。


高い運動量。


前線からの連続したプレス。


ボールを奪われても、すぐに奪い返しに来る。


攻撃でも守備でも止まらない。


日本が一度プレスを外しても、二人目。


三人目。


さらに四人目。


長崎美琴のキープ力にも激しい圧力がかかる。


大船柚月は映像を見ながら言う。


「これ、相手と一緒に走り続けたら先にバテるべ」


原町監督が聞く。


「ならどうする」


柚月は答える。


「走らせる。でも、うちらは走らない時間を作る」


ボールを動かす。


相手だけを動かす。


止まらないメキシコを、あえて止まらせない。


そして疲労が出る時間を待つ。


一方。


初戦でゴールには絡めても得点できなかった高橋結衣。


若きFWに、オリンピック初ゴールのチャンスが訪れる。


次回、

第77章「止まらないメキシコ」


走ることが強さなら。


走らせることもまた、強さだ。


90分を戦うためには、走らない時間にも意味がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。