ヨハエルの訪問
「お、お待たせして申し訳ありませんでした……よ、ヨハエル王子……」
急いでティアナに変装したルオラは、客室でくつろいでいる相手に詫びを入れた。
屋敷に突然訪問してきたのは、ヨハエル・アルフォンス・ネスティス。
ネスティーラ王国の第二王子にして、オリヴェートの弟であった。彼は、ウェーブがかったブロンドの髪に、瞳は夕日のような緋色をしていた。
それに、ヨハエルは柔和な笑みを絶やさない優しげな雰囲気のある好青年だった。
兄弟の筈なのにオリヴェートとは全く違っていた。
母親が違うから当然といえば、当然なのかもしれない。
「いえいえ、こちらこそ突然押し掛けてしまい申し訳ありません。兄と結婚する方に挨拶をしなくては、と思い立ってしまったものですから」
にこにこと爽やかな笑みに、ルオラは眩しさすら感じた。
「本当は、謁見の間で挨拶する時に出来れば良かったのですが、都合があわなかったものですから」
「気にしないで下さい! お、私の方から挨拶しに行くべきだったんですから」
申し訳なさそうに話すヨハエルに、ルオラは慌てて話した。
「そう言って頂けて、気が楽になりました。……ところで、ティアナさんは兄の事どう思ってます?」
「え、ど、どう……って……」
ルオラは困ってしまった。
「あぁ、すみません。今まで兄の浮いた話を聞いた事がなくて、僕としては二人の仲を応援したいと思っているんですよ」
「あ、そうでしたか……」
「それで、どう思っているんですか?」
うっと、ルオラは固まってしまった。正直、怖い、鷹みたいな人、というイメージしかないからである。
「……まだ、一度しかお会い出来ていないので……わ、分からないです」
「そうでしたか! そうですよね! 兄は無口な方ですし、まずはお互い知らないといけませんもんね!」
ヨハエルの食いぎみな姿勢に、ルオラは若干引いていた。
「そう、ですね」
「そういう事でしたら、僕から兄について伝えておきたい事があります」
「な、何ですか?」
「知っての通り、僕と兄は母親が違います。兄の産みの母親は、くじ引きで決まった天涯孤独の平民出身の女性でした。兄を産んで体を弱くしてしまった母親は、兄が三歳の時に亡くなってしまったのです。肉親が王様だけとなった兄は、誰にも心を開けずにきました。だから、ティアナさんには、兄と仲良くしてもらって、兄の支えになってほしいんですよ……!」
「え、ええ!」
「兄は、オリヴェート兄さんは……本当はとっても優しいんです……ずっと一人で、可愛そうな人なんです……う、うぅ」
突然ヨハエルは泣き出してしまった。目を押さえながら、ポケットを探るヨハエル。
どうやら、ハンカチを探しているようだ。
「……あれ、ハンカチがない……」
ヨハエルは、服の胸ポケットから腰のポケットまで探りだした。
「あ、これ良かったらどうぞ」
「す、すみません」
ルオラはヨハエルにハンカチを渡した。そのハンカチでルオラは目元を拭った。
「……とにかく、僕が言いたい事はそれだけです。もし、兄に関して相談がありましたら、いつでも乗りますら」
「はい、ありがとうございます」
「うぅ、涙が……すみませんが、これお借りしても?」
「はい、どうぞ。返さなくても大丈夫ですから」
「ありがとうございます。それでは、また……」
ヨハエルは嵐のように帰って行った。
ルオラは彼が馬車に乗ったのを見届けると、くたぁっと腰が抜けてしまった。
「き、緊張した……」
それからルオラは夜中まで待ったが、バレッティ卿からの連絡はなく、朝に届いた手紙にはルオラが女装して行くように、と書かれていた。
読んで頂き、ありがとうございます!
今後もよろしくお願いしゃす!!




