このままじゃ帰れない……!
ルオラの記憶にある母親は、優しい人だった。ルオラに読み書きを教え、鳥や動物について教えてくれたのである。
「ルオラ、世界はとっても広いのよ。大人になったら旅をしましょう」
寝る前、世界の風景が描かれた絵本を開きながら、母親がそう言った。
「する!」
ルオラが元気よく答えると、こほこほ、と母親が咳をした。ルオラは心配そうに母親を見つめた。
彼女の瞳は、青く、絵本に出てくる海の色にそっくりだった。
「ふふ、大丈夫よ。必ずこの病気を治すわね」
「絶対だよ! 早く治してね! 母さんが治るように毎日お祈りして、母さんの分も畑仕事もするから!」
「私は良い子を持って幸せよ」
頭を撫でてくる母親の手の平は、太陽のように温かかった……。
目を開けたルオラは、見知らぬベッドの上にいた。すると、メイド長がぬっと現れた。
「おや、起きましたか?」
「め、メイド長様!」
「しっ!」
メイド長は、口の前で人差し指を立てた。すごく、怖い顔だった。
「ここは、城の中なのですから、私に様など付けてはいけません!」
「す、すみません……」
ルオラは起き上がり、額に乗せられていた濡れタオルを剥がした。
「全く、貴方が倒れたと聞いた時には肝を潰しましたよ……」
「……色々あったもので……」
「そのようですね。大体の事情は聞きました。まさか、破談一直線とは……」
その言葉に、ルオラはメイド長にしがみついた。
「で! でも、俺、王子様と一言も言葉を交わしてないんですよ! それなのに、それなのに……!」
「一人称は『私』! 落ち着いてください。貴方が何か粗相をしたわけでないのなら、旦那様だって責めたりしませんよ」
「……ほ、本当ですか……?」
「本当です。だから、ちゃんと旦那様に事情を説明しましょう」
「はい」
「起きたら帰って良いとの事でしたから、さ、早く帰りましょう」
「……はい」
ルオラはベッドの端に置いてあるヒールに足を入れた。
そこへ、コンコンと部屋のドアがノックがされた。メイド長がドアを開けると、執事のルドマンがいた。
二人が一言二言交わすと、メイド長が振り返った。
「ティアナ様、ルドマン執事から話があるとの事です」
「は、はい……」
すると、ルドマンが頭を下げてきた。
「ティアナ様、先ほどはお見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ、そんな……」
「オリヴェート様は、ティアナ様の事を思ってあのような進言をされたのです」
「……えっ」
「オリヴェート様は、本当はお優しい方なのです。王家に嫁ぐというのはとても大変な事でございます。
貴族同士の結婚より遥かに不自由の身となり、民や貴族からのプレッシャーも計り知れません。
オリヴェート様は、貴女様のような純粋な方を国の犠牲にしたくないのです」
ルオラはそれを聞いて、へぇ、と思って聞いていた。
「そうはいきませんよ」
すると、メイド長が厳しい口調で切り出した。
「そもそも、婚姻破棄など聞いた事がありません。前代未聞です。
それに、我が土地の者はすでにティアナ様が選ばれたのを知っております。これでは良い笑い者。オリヴェート王子に結婚破棄されれば、ティアナ様に傷が付き、貰い手は居なくなるでしょう。
その責任をどう取るつもりですか?」
流石はメイド長。ティアナの事をよく考えている。
「……責任は、別の形で考えております」
ルドマンは苦し紛れで返答した。
その言葉に、メイド長は更に言及しようと口を開いた。
「あの、ルドマンさん……」
その時、メイド長を制するようにルオラが言った。
「な、何でしょうか」
「あの、ひとつお願いがあるのですが……」
ルオラは、彼にあるお願いをした。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
頑張ります! おねしゃす!




