王子と初対面
馬車から降りると、目の前には大きな門がそびえ立っていた。
門番に手紙を見せると、重厚な扉が開かれた。開けた門の中は大きな噴水があり、左右には広大な青い芝生が見えた。
その奥には、白く輝く大きなお城。
「わあ」
ルオラが感嘆の声を漏らす。
「口が開きっぱなしですよ」
メイド長に注意され、ルオラはむぐっと唇を手で閉じた。
ルオラが門の中に入っていくと、扉はすぐに閉められそうになった。メイド長は扉の外にいる。
「め、メイド長様?!」
ルオラは一緒に中に入るものだと思っていたので、ルオラは驚いた。
「私はここまでです。習ったことをしっかりこなせば大丈夫です。どうか、背筋を伸ばして、行ってらっしゃいませ」
「……」
ぱたん、と扉が閉められた。
一つ一つの所作に注意をされてばかりだというのに、大丈夫だろうか。
ルオラは昨日の朝までただの畑仕事をする下人だった。まさか、たった一日でお嬢様にされてしまうなんて。
ルオラはドキドキと高鳴る胸を押さえて、先程メイド長の言われた通り背筋を伸ばした。
3センチのヒールにもプルプルと足を震わせ、何とか噴水の前を通る。
城に入る扉の前に、初老の男性がいた。燕尾服の彼はルオラが見えると、深々とお辞儀をしてきた。ルオラも慌ててスカートをちょんと摘まんで膝を曲げて、頭も下げる。
「お待ちしておりました、ティアナ・バレッティ様。私は執事のルドマンと申します。中で王様がお待ちです、ご案内致します」
「は、はい!!」
王様という単語を聞いて、ルオラは一気に体を強張らせた。
ルオラがカタカタと震えながら、王宮へ足を踏み入れた。
床は真っ白な大理石に、天井には大きなシャンデリアが煌々と光っていた。はじめて見る光景にルオラは顔を上に向けたままだった。
はっと意識を戻した時には口も開いており、すぐに手で口許を隠した。
ルドマンの後に続いて歩く。しかし、右にも左にもルオラの興味を惹くものばかり。
ブロンズの銅像に、陶器の壺、壁には金の華細工に歴代の王様の肖像画、シャンデリアも等間隔にぶら下がっていた。
ふらふらキョロキョロと、ルオラは初めて見る輝きに目移りしていた。
螺旋階段を登り、廊下を渡る。廊下には大きな窓がいくつも並び、外からは城下町が見下ろせた。
廊下の先に黄金の扉があり、脇に立つ兵士二人がその門を開けてくれた。
その先にいたのは、玉座に座る王様だった。
初めての光景に心踊っていたルオラだったが、一気に現実へと引き戻された。
謁見の間に入ってから玉座までは3メートル。玉座に座る眼光の鋭いに、ルオラは喉がきゅっと締められる思いだった。
なんとか王座の前まで歩き、お辞儀をした。
「お、おお、お初お目に掛かります…… てぃ、ティアナ・バレッティと申します……。 お招き頂き、光栄です」
……数秒の沈黙が流れる。
ルオラは頭をあげることが出来ずにいた。
「……はっはっはっ! そう緊張せんでよい。取って食べたりせんよ」
突然王様が盛大に笑いだし、ルオラは拍子抜けした。
「……は、はい……」
「くじ引きで決まった婚姻だ。信じられぬかもしれないが、それが運命。受け入れてくれるか?」
「お、王様のお言葉……、つつ、謹んでお受け致します……」
「うむ。ところでオリヴェートはまだなのか」
オリヴェート……。
ルオラはその名前にぴくっと肩を震わせた。
オリヴェート・アルフォンス・ネスティス。ティアナの結婚相手である第一王子の名前だった。
すると、謁見の間の扉が開いた。
「遅れて申し訳ありません、王様」
ルオラはひやっとした声に、悪寒を感じた。隣に立ったオリヴェートは、黒髪に鋭いつり目の青年だった。
刺々しいオーラを感じ、ルオラは視線を会わせるのが怖くなった。
「オリヴェート、挨拶しなさい」
王様に促されたオリヴェートは、ギリッと歯をくいしばってから低い声で言った。
「断ります」
「オリヴェート!」
「僕はこんな結婚、認めません」
「!」
ルオラは血の気の引ける思いだった。オリヴェートには結婚する気がない。
ルオラはキツくバレッティ卿に言われていた。
この結婚こそ、バレッティ家における二度とないチャンスなのだと。
「もし、破談にでもさせてみろ、お前の命はないからな」
そう言われて来たルオラにとって、この状況はとてつもなく悪かった。
おろおろと視線を泳がせていたら、ルオラはオリヴェートと目が合ってしまった。彼の鷹に似た獲物を狙うような眼光に、ルオラの緊張は頂点に達した。
ぷつっとどこかの神経が切れたような音がして、ルオラはばたん、と盛大に倒れたのである。
「侍医を呼んでこい!」
遠くでオリヴェートの声を聞きながら、ルオラは意識を失った。
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