第五話 週刊少年安土(創刊)
令和のトラックは、今日も日本のどこかで元気に高校生を撥ね飛ばしているらしい。本当にご苦労なことである。
「中高生の知識って、マジで役に立たないんだよね。覚えてるのなんて本能寺の変と、理科の実験の『凹凸レンズで火を起こすやつ』くらいじゃん。もういいわ、あいつらには漫画描かせてろ。うろ覚えの知識を持ち寄って、ワンピースをこの時代で再現させようぜ」
ということで、俺は『週刊少年安土(創刊)』と筆で書き殴り、JIRA掲示板にチケット木札をバシッと貼り付けた。
すかさず、デスクワーク担当の明智光秀が血相を変えて飛んでくる。
「お館様、それ現代の著作権法的に完全にアウトなやつです! コンプライアンスという概念はどこへ行ったのですか!」
「うるさい光秀! 四百年後の法律なんて知るか! ここは十六世紀、すべてがパブリックドメインの無法地帯だよ! 著作権法が制定される前に天下取っちまえば勝ちなんじゃ! ほら、暇そうにしてる童貞高校生を五十人集めて大部屋に監禁しろ! 和紙と墨と筆はいくらでもある!」
「まあ、和紙も墨も本当はめちゃくちゃ高級品なんですけどね……お館様は天下人なんで湯水のように使えますけど……」
ブツブツと愚痴をこぼす光秀の耳元に、俺はそっと顔を近づけて囁いてやった。
「……本能寺」
「ヒィッ!?」
光秀は全身に蕁麻疹を出しながら、悲鳴を上げて廊下をダッシュで逃げていった。
数刻後、現場監督に行かせていた秀吉が、げっそりした顔で「ワンピース制作部屋」から戻ってきた。
「上様、とんでもない問題が発生しております」
「なんだ、もうインペルダウンまで描き終わったか?」
「いえ、『空島編』のストーリー展開と、『ワノ国』の伏線回収のディテールを巡って、令和組と平成組のオタクが『解釈違い』で殴り合いの戦争を始めてます。すでに流血沙汰です」
「なんだそのしょーもない派閥争いは! 本能寺の変より不毛だろ!」
「あとですね、絵心のあるやつが全体で二人しかいなくて、残りの四十八人が全員『ネーム担当(うろ覚えのセリフを叫ぶだけ)』になってて現場のリソース配分が完全にバグってます。『ゴムゴムの〜!』って叫びながら畳の上でゴロゴロ転がってるだけのやつが三十人います」
「人件費の無駄遣いすぎるだろ! 全員長篠の最前線に送るぞ!」
もういっそのこと、尾田栄一郎本人が転生してきてくれねえかな。
大体、俺は続きが気になって夜も眠れない漫画が山ほどあるのだ。
「なぁ秀吉、カイジのさー、『24億脱出編』の続き知ってる奴、まだ転生してこねえの?」
「来ないですねぇ。ハンターハンターも、暗黒大陸行きの船がまだ着いてない頃の奴しかいません」
「コナンも黒幕の側近が分かったあたりで止まってるしよぉ。名作の結末を誰も知らんのはどういうことだ。なぁ、なんで令和十年以降の転生者が一人も来ねえのかなあ。昭和から令和初期までは幅広く揃ってんのにさ」
俺が顎に手を当てて首を傾げると、秀吉がふと何かに気づいたように目を見開き、ごくりと唾を飲み込んだ。
「……上様、もしかしたら」
「なに? なにか分かったのか?」
「……トラックの『自動運転』が、完全に実用化されたのでは……?」
「!!」
うっわーーーー! それだーーーー!!
技術の進歩が! 交通事故をゼロにして! 異世界転生トラックの供給を完全に断ち切ったんだ!!
人類の安全への祈りが、俺たちのエンタメの供給を止めていたのである。素晴らしいことなんだけどさ、えー、続き気になるんだけど。
それから俺は、静かに立ち上がる。
髑髏の形をした特注のガラスに南蛮渡来の赤ワインを注ぎ、『少女漫画再現部屋』の襖をガラリと開けた。
「おいお前ら、もうオチを聞くのは無理そうだ。今から俺たちだけで『ガラスの仮面』の紅天女に決着をつけるぞ」
部屋の中で紫のバラを握りしめていたオタクたちが、一斉に俺を振り返った。




