第二十話 十歳のタイムスリッパー
「子供……?」
転生トラックが撥ね飛ばすのは高校生以上という世界の約束だと思っていたが、よくよく考えるとそんな約束は誰ともしていない。
ミカは、まずは連れてきてくれたミノルとアキに礼を言った。比叡山の本坂を、子供を連れてくるのは大変だっただろう。
「いやいやしっかりしたもんだったぞ」
ミノルはそう言って、少年にランドセルを渡した。
アキも頷く。
「大人のほうがやいのやいのうるさいくらいさ。じゃあな、坊主。またどこかで会おうな」
そう言って、アキとミノルは日吉社をあとにした。
ミカは二人に頭を下げて見送ってから、少年に向き直る。
「ぼく、何歳?」
「十歳」
「自分の住所、あと生年月日言える?」
その小学生──ヒロくんは、しっかりと自分の住所を答えた。東京出身、昭和五十年生まれの十歳。
(私よりずいぶん年上ね。お父さんと同じくらい。いま十歳だから昭和六十年からタイムスリップしてきたのね)
ミカは2006年、平成生まれである。二十歳でタイムスリップしてきた。
まだ日は高い。坂本城まで連れて行きたいが。
「あと、一時間くらい歩かないといけないけど、歩けるかな?」
坂本城までは二キロ強の道のりだが、子供の足を考えて少し多目に言う。
ヒロくんはコクリと頷いた。
しっかり歩いて着いてくるヒロくんに、ミカは何度も声をかける。
ヒロくんは「大丈夫」と言って、両手でランドセルの肩ひもを持って歩いていた。
(こんな小さな子まで……ちょっと残酷なんじゃない?)
自分のことを棚に上げて心配しているが、ミカも残酷な目に遭っている一人だ。
二十歳というのは確かに成人している大人だが、それでも親兄弟や友人たちから切り離されていることに変わりはない。
しかしあれから二年ほど経つ。織田信長はちゃらんぽらんだけど、なんだかんだ言って未来人をこの世界に「参加」させてくれる。
客としては扱わないが、民として扱ってくれる。ミカも仕事を貰い、坂本城で働けている。生活は安定している。この時代、多くの人々が不安定な生活をしている中で、恵まれているし幸せなことだと思う。
「ヒロくん大丈夫?」
ヒロくんはコクリと頷いた。この見知らぬ土地、見慣れない時代の建物に、泣いたり喚いたりということもせず、無言でついてきていた。
坂本城についた。すぐに水分補給をさせる。
汗もかいているので、光秀様に頼んで塩をほんの少し分けてもらう。
涼しいところを探し、少し休ませてから光秀様に謁見に行く。
「ねえ、ヒロくん、ここのこと、少し説明していい?」
そしてミカは言葉を選びながら、ここが十六世紀の過去であることを説明した。
「分かった?」
ヒロくんは首を振った。そりゃそうよね、私だってわかんなかったもん。
「でも……」
ヒロくんが口を開く。
「なんとなくわかる。もうお母さんには会えないんだよね?」
ヒロくんはそう言ってミカの顔をじっと見た。
どう言っていいか分からなかった。
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