第十四話 お前の知識は役に立たんがAndroidは役に立つ
天正十一年二月──新暦なら四月らへん。
「はいこんにちは、織田信長です。マントひらひら~」
いつものように坂本城から送られてきた転生者を面接する。今回転生者を引率してきたのはミカだった。ミカの顔をみると、今回の転生ガチャはハズレくさい。
ミカは二年前に転生してきた令和の女子大生。当時二十歳。可愛くて愛想がいい。
坂本城に配属して、光秀とうまくやっている。
ミカが転生者の略歴を述べる。
「令和の高校生のタケルくんです。下野国(※栃木らへん)の出身です。トラック転生ですね、はい。それから──」
ミカは言いにくそうに続ける。
「『戦国時代の内政チート小説を読み込んでいるのできっとお役に立ってみせます』というのが自己アピールです」
タケルが元気よくいった。
「僕の知識で、きっと信長さまのお役に立ってみせませす!」
はは、ありがとうと俺は渇いた声で言う。
しかし持ち込んだものが面白い。Androidにソーラーチャージャー。
すでにパネル式の携帯用ソーラーチャージャーは二十ほどあるが、いくらあってもありがたい。こんなもの持ち歩いている奴は少ないはずだが、転生トラックが選んで轢き殺してるとしか思えん。
で、Androidというのがいい。iPhoneと違ってAndroidは面白い機能を持つものがある。
これも、赤外線で温度が計れるやつだもん。面白いの持ってきたな。
タケルが一生懸命アピールしてくる。
「信長さま、実は硝石を作る方法があるんですよ。しかも原価はタダです!」
「ああ、はいはい」
俺は無視して村井貞勝と話す。このAndroidは伊勢のサトウキビ作りの助けになるかも知れない。
タケルは糞尿を集めてくれと言っているが取り合えず無視する。
令和の人たちは糞尿を廃棄物だと思ってるけど、戦国では売り買いするような貴重な資源なんだよね。
田畑に撒いて循環させなきゃいけない貴重な窒素資源を、火薬にして大気にばら撒くわけにいかんのよね。大気中の窒素からアンモニアを合成するハーバー・ボッシュ法は二十世紀のチート技術。
「君、窒素と水素を二百気圧くらいまで圧縮して、高温で反応させ続ける化学工場作れる?」
「え? は?」
「なんでもない」
取り敢えずスマホとソーラーチャージャーは織田家で回収して、伊勢サトウキビチームに貸与するという形で、タケルにそのまま持たせておく。
「え? これ僕のじゃなくなったんですか?」
「そういうこと。俺、第六天魔王なんだから文句言ったら首はねるよ」
適当に脅しておく。織田信長はすぐ首をはねるというイメージがあるらしく、これ言っておけばおとなしい。
「じゃあタケル、君はそれもって伊勢のサトウキビチームに配属ね。今あっちでサトウキビを育ててんのよ」
タケルの顔が輝いた。
「サトウキビ? 任せてください! 漫画でやっているのを読みました! 理論はバッチリです!」
「実際にやったことはある?」
「もちろんありません! でも出来るイメージはあります! 是非いかせてください! 頑張ってきます!」
うんうん、と俺は頷く。
こういうタイプが別に戦国にいないわけじゃない。人から話を聞いただけで、自分もできると勘違いするタイプ。
でも悪いわけじゃない。だって挑戦するから。
どうせ無理だろう、ではなく「自分もできる!」と思って実際にやるのは、それも大切な技能なんだよね。
タケルが退室してから貞勝が声をかけてきた。
「あんなの、役に立ちますかね?」
「立たないよ。多分、デバフ」
「そうですよね」
「でもまあ、現場に行くのを嫌がらなかったからね。『僕はここで知恵だけ出しまします!』だったら……ね?」
「ああ、いいそうですね。『織田家相談役にしてください』とか」
「そうじゃないしな。あとあのAndroidはシンジの役に立つんじゃない?」
シンジの種キビは、伊勢で実績のある品種だと言っていた。
だから伊勢なら、見込みはあるんじゃないかとは思うけど。
「なんつっても砂糖だもんな。投資価値はあるよ」
「来年、砂糖どのくらい出来ますかね? 1斤(約600g)くらいになるんですかね?」
「分かんない。そんなにはないんじゃない?」
砂糖1斤は堺でかえば大体銀2匁くらい。銀2匁は米にすれば四升~五升。
種キビを増やしていって、生産量を上げていけば──五年十年で採算が合うようになるのかなあ、と。
俺は甘いことを考えていた。砂糖だけに。




