第十話 本能寺の変の真相は?
「朕、分かった」
暫く考え込んでいた帝──正親町天皇──が静かに沈黙を破った。
「これやっぱり、朝廷が黒幕だよ」
そういって帝は何度も頷く。俺は聞き返した。
「陛下が光秀をそそのかして俺を殺させたんですか?」
「うん、多分そうだ。ほら、信長ちゃん、かなりブイブイ言わせてたでしょ? 暦を変えさせようとしたり、朕に譲位を迫ったり。蘭奢待も持ってっちゃったし」
「あれは陛下がくれるって言うから」
「で、それに腹を立てた朕が、光秀に信長を殺せ、と──」
タイムスリッパーが持ち込んだ『本能寺の変・朝廷黒幕説』という本をみんなで読んでいたのである。
ただ──事件が起きたとされる六月二日、俺は転生者の面接をやっていた。そして光秀も坂本城で勤務していた。
だから実際には本能寺の変は起きていないんだけど。
「やっぱ朕だったかー。いや、朕、マジ策士!」
帝はご満悦であった。ピースサインとかしている。
なるほどストーリーとしては実に面白い。
「でも陛下、そんな指示してないんでしょ?」
「うん、してな……いや、した! したした! 朕、そういう黒いとこあるもん!」
「草」
「でもこれ圧倒的に他のよりストーリーが面白いと思うんだよね。朝廷と信長ちゃんの確執が回収されてるし」
「別に確執とかないじゃないですか。譲位の話だって、陛下側が『譲位するから費用カンパしてくんない?』って話ですやんか」
俺と帝は顔を合わせてゲラゲラ笑う。
その傍らで、秀吉が不満そうな顔をしていた。
「そうですかねえ、実はそれがしが黒幕という説も面白いと思うんですけどねえ……」
なんでみんな黒幕になりたがるんだ。
「じゃあそろそろ、答え合わせと参りますか」
俺たち三人は部屋の隅っこで、無表情で体操座りをしている光秀に向き直る。
「ねえ光秀、答え教えてよ?」
三人が光秀の顔を覗き込む。
光秀は三人の顔を見渡して、おもむろにパンシロンを破って口に流し込んだ。
俺たち三人は顔を見合わせた。
秀吉が水の入った湯飲みをそっと差し出す。
光秀はそれを受け取ってゴクゴクと喉を鳴らした。
そしてパンシロンの袋を開ける。
三人で顔を見合わせた後、今度は俺が水の入った湯飲みを差し出す。
光秀がそれを受け取ってゴクゴクと喉を鳴らす。
さらにパンシロンの袋を開けようとする光秀に、正親町天皇が湯飲みを差し出していた。




