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9.聖堂での凶行

事件は、グラールス大聖堂で行われた、病の終息を感謝する盛大なミサの最中に起こった。

教会は、信者たちで身動きが取れないほどに埋め尽くされていた。中央祭壇の脇、白い法衣をまとったララは、穏やかな表情で信者たちを見つめていた。その表情は、疲弊しきった民衆に、真の平安と救済をもたらす光そのものに見えた。

その時、チュディに扇動されたハンスが、群衆の陰から飛び出した。彼の顔は、信仰的な狂信と、恐怖とが入り混じった、異様な表情に歪んでいた。

「魔女め!神の秩序を乱すな!」

彼は絶叫し、手に握りしめたナイフを、ララの腹部めがけて、迷いなく突き刺した。

鈍い肉を裂く音。

一瞬の静寂の後、大聖堂は地獄の釜がひっくり返ったような大パニックに陥った。女性たちの甲高い悲鳴、将棋倒しになる人々、そして血の匂い。ララは、白い法衣を瞬く間に真っ赤に染め上げ、その場に崩れ落ちた。

しかし、ララは倒れなかった。

彼女は、口から血を吐き出しながらも、震える手で祭壇の縁を掴み、ふたたび立ち上がった。その顔は、痛みと出血で青白くなっていたが、瞳だけは、澄み切った水のように、深く、強く輝いていた。

ハンスは、自分の行為に慄然とし、その場に立ち尽くした。群衆は、怒りと驚愕、そして純粋な恐怖で、言葉を失っていた。

その時、ララは、死に瀕した体から、奇跡のような力を振り絞り、静かに、しかし聖堂の隅々まで届く清澄な声で、言った。

「…あなたを、許します。この魂に、神の慈悲があらんことを。」

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