10.聖人の誕生と黒幕の断罪
その一言が、全てを決定づけた。
ララの行動は、人間がなし得る献身と慈愛の限界を超越していた。自分を殺そうとした者に対し、怨嗟ではなく、赦し(ゆるし)を与えたのだ。この瞬間、ララは「悲劇のヒロイン」から「生きながらの聖人」へと変貌した。民衆にとって、彼女の血は、キリストの血と同じく、彼らの罪を洗い流す聖なる象徴となった。
民衆のパニックは、すぐに「聖女を傷つけた者への、集団的な怒り」へと転じた。ハンスは、群衆の手によって瞬く間に拘束された。彼の自白は、怒りに燃える民衆によって、あっさりと引き出された。
そして、黒幕の名が叫ばれた。
「チュディ医師が、私を唆した!」
この告白は、民衆の怒りを頂点に達させた。彼らにとって、チュディは最初、ララを救った「善良な医師」だったが、今や「聖女を妬み、神の救済を妨害しようとしたサタンの代理人」に他ならなかった。ララの赦しの言葉は、ハンスに向けられたものであっても、黒幕であるチュディの罪をさらに重くする効果を持った。
チュディ医師は、即座に捕らえられた。彼が最後の瞬間に、「ララこそ魔女だ!」と叫んでも、誰も耳を貸さなかった。彼の声は、熱狂的な信仰と、自らを救ってくれた聖女への崇拝という、巨大な波に完全に呑み込まれた。
チュディ医師は、かつて自らが断罪したアンナ・ゲルディと同じように、民衆の狂気によって断罪された。彼の処刑は、迅速に行われ、民衆は「聖女の敵」が排除されたことに、再び熱狂した。
傷を負ったララは、静かに修道院に戻った。命の危機は脱したが、傷は深かった。ララはただゆっくりとベッドで瞳を閉じた。




