表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

3.庇護と信仰の檻

ヨハン・ヤコブ・チュディ医師の邸宅は、処刑場の土埃とは無縁の、清潔で秩序だった世界だった。その高い石造りの外壁は、外界の喧騒と冷たい世間の目を遮断する防壁のようにそびえ立ち、冷たく、威厳に満ちていた。邸宅の内部、分厚い絨毯が敷かれた廊下は、まるで音を吸い込むかのように静まり返り、人々の囁きさえも微かな影のように消えていった。この静謐な空間こそが、八歳のララの新たな世界となった。

チュディ医師は、彼女を「改心のための模範例」として引き取った。世間に対しては、魔女の罪を清め、神の無限の慈悲を体現する慈悲深き医師を演じ、裏ではララに聖教の教えを徹底的に叩き込んだ。その教えは、ララの心を形作るための唯一の規範となった。

「お前の母は、悪魔の誘惑に負けた哀れな魂だ。その罪は重いが、神は無限の愛を持っておられる。だが、お前は神の無限の慈悲によって、この光の中にいる。決して、その救いを疑ってはならない。この邸宅を出た瞬間、お前は再び闇に引きずり込まれるだろう。お前を救えるのは、神の教えと、そしてこの私だけだ。」

チュディの言葉は、ララにとって絶対的な真実として、幼い心に深く刻み込まれた。彼女は、自らが「救われた」存在であり、その救いを維持するためには医師の言葉に従い続けるしかないと信じた。

しかし、邸宅の庇護は、外の世界の容赦ない現実からララを完全に守ることはできなかった。「魔女の娘」という烙印は、彼女の影のように付き纏った。

邸宅の使用人たちは陰でささやき、ララが廊下を歩くだけで、視線は地面に落とされ、その囁きはさらにひそかになった。「あの子の目が、あの女にそっくりだ」「魔女の血は、いつか必ず災いを持ち込む」といった言葉が、静寂な邸宅の隅々から聞こえてくるようだった。

さらに辛辣だったのは、街に出たときだった。チュディの馬車に乗っているララを見かけた人々は、忌々しそうに顔を背け、十字を切る者もいた。特に、同年代の子どもたちの言葉は容赦がなかった。

「魔女の子め!」「悪魔の呪いだ!」

石を投げつけられたり、罵声を浴びせられるたびに、ララは本能的に「恐怖に怯える無垢な被害者」を演じた。彼女はすぐにチュディの袖に顔を埋め、声を押し殺して震えた。彼女の震えは恐怖から来るものだったが、それは世間の目を欺き、チュディの庇護を確固たるものにするための、幼いながらに身につけた生存戦略でもあった。

チュディ医師は、民衆の批判を鎮めることに奔走した。彼は自らの権威と名声を用い、「神の教えがララを清めている。彼女は慈悲の証である」と説き続けた。この権威ある医師の執拗な擁護と、ララの完璧なまでの「改心した被害者」の演技により、徐々に、民衆の露骨な罵倒は影を潜めていった。人々は、チュディの慈悲深さに感嘆し、ララの存在を、神の偉大さを示すための「生きた証拠」として受け入れざるを得なくなった。

邸宅の書斎は、ララの唯一の「自由」だった。チュディ医師が患者の診察や学術研究で不在の折、彼女は人目を盗んで医学書を手に取った。彼女が熱心に研究したのは、薬草学や病理学に強い興味を示した。聖教の教えを学び続ける一方で、彼女の理知的な心は、世界の謎を解き明かすための、より具体的な知識を求めていた。

彼女が特に熱心に研究したのは、病気のメカニズム、そして緩効性の毒物や、当時「呪い」と誤認されやすかった神経系に作用する植物の成分だった。人体はどのように病に侵され、どのように死に至るのか。神の力ではなく、薬学や医学の力で数多の病から人々を救えるかもしれないという知的な好奇心と知識欲に溢れていた。

 

12歳になる頃、ララの外見と態度は、非の打ち所のないものになっていた。控えめで、聡明で、そして常に深い悲しみを秘めた彼女の姿は、誰もが認める修道女になりつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ