18.狂気の残響
聖王祭の舞台は、地獄の窯に変貌した。ララの告白がもたらした衝撃は、単なるパニックでは終わらなかった。それは、自らが信じた全てが裏切りであり、救済の光こそが永遠の呪いの種であったという、人類の精神が耐えうる限界を超えた絶望であった。
広場に集まった群衆は、ララを聖女として崇めた熱狂と同じ強度で、今度は彼女への憎悪と、自分たちを騙した「聖なる存在」への怒りに駆られた。人々は互いに押し合い、叫び、罵り合った。もはや誰もが、隣人が呪いの毒を共有する共犯者であるという事実から逃れられなかった。彼らはララを捕らえようとしたが、その前に立ちはだかったのは、彼ら自身の狂乱だった。
法皇と高位聖職者たちは、護衛に守られながら、この地獄から文字通り逃げ去った。彼らにとって、この事件は隠蔽すべき、教会史上最大の醜聞となった。彼らが祝福を与えた「聖女」は、ヨーロッパ最後の魔女の娘であり、自らの権威が、最も巧妙な復讐の道具として利用されたという屈辱は、言葉にできないほど大きかった。
ヴォルフ博士は、混乱の中、懐の分析結果を広げた。彼の理性が証明した真実が、今、目の前で感情的な狂気によって裏打ちされていた。彼は、科学が信仰と狂信の前でいかに無力であるかを悟った。彼は真実を叫んだが、その声は、毒によって蝕まれた人々の叫び声と、自らの子孫に呪いをかけた罪悪感による慟哭の嵐に、完全に呑み込まれた。
そして、ララ。
彼女は、引き裂かれた法衣と、腹部の傷から滲む血を厭わず、祭壇の上で笑っていた。その笑いは、勝利の笑いであると同時に、狂気の解放でもあった。彼女の復讐は完遂された。彼女の内に潜んでいた憎悪と計画は、今、グラールス全土の血統に植え付けられた。彼女は、もはや母の無念を晴らす「娘」ではない。彼女は、集団を支配し、破滅に導く真の「魔女」として、自らの存在を完成させたのだ。




