19.魔女の行く末
狂乱の後に、人々はララを捕らえようと試みた。しかし、その行為は遅すぎた。
民衆は、魔女を処刑することで自らの罪を清めようとしたが、ララは抵抗しなかった。彼女は、自ら縛めを受け入れた。その行為すら、彼女の復讐の最終章であった。
しかし、グラールスの当局は、ララを公然と処刑することができなかった。彼女を処刑すれば、法皇が与えた「祝福」と、チュディ医師の処刑が「無意味な狂気の連鎖」であったことを公式に認めることになる。それは、グラールス州という社会そのものの崩壊を意味した。
結局、当局は、ララを「狂人」として扱い、人里離れた山中の隔離施設に幽閉する道を選んだ。この措置は、彼女の「魔女」としての力を否定し、彼女の恐ろしい告白を「狂気の戯言」として、歴史から消し去ろうとする試みだった。
ララは、その幽閉された独房で、残りの生を過ごした。彼女の独房には、窓からアルプスの冷たい空気が流れ込む。彼女は、もはや誰にも会おうとしなかった。しかし、その瞳だけは、常に外界に向けられていた。
彼女の復讐は、彼女自身の死をもって終わるものではない。それは、世代の継承の中で、ゆっくりと、しかし確実に実現していく。
数十年後、グラールス州では、原因不明の神経疾患、集団的なヒステリー、そして生まれつきの奇形を持った子供たちの報告が、周辺地域に比べて異常に増加した。人々は、その病を口にこそ出さなかったが、その病が「ゲルディの呪い」であることを知っていた。彼らは、希望の救世主と信じた女性によって、永遠に呪われたのだ。
ララの孤独な死の瞬間、彼女の心に去来したのは、安堵でも、後悔でもなかった。彼女の復讐は、もはや彼女個人の意志を超え、この社会と血統の中に組み込まれた、冷徹な現実となっていた。
彼女は、母アンナが処刑された広場の方角を見つめた。
「お前たちが私を作ったのだ。お前たちの愚かさが、お前たち自身を永遠に呪ったのだ。」
ララ・ゲルディ。彼女は、ヨーロッパ最後の魔女の娘としてではなく、集団心理の欺瞞と復讐の連鎖を体現した、真の魔女として、歴史の暗部にその名を刻んだ。そして、グラールスの人々は、子孫の絶望的な顔を見るたびに、自らが犯した罪の代償を、未来永劫払い続けることとなった。




