第21話・今だけ、限定協力プレイだ
「これは失敬。正解やのに、間違えたわ」
生暖かいものが口の端から垂れてきた。
HPがどんどん削れていくのが目に見える。
「〈プレイヤー〉のトコの世界やと、こんなんひと突き食らったら即死らしいやん? 残念やなぁ、ここはゲームの世界やけん。アンタが強くなればなるほど、すぐに死ねずに長引いてしもうて」
セイバーは、「やっぱり、世界を変えるには限度があるなぁ」と呟いた。
「お……お前は、誰なんだ」
絞れるだけの力で、俺はそう問うた。
セイバーは口を開こうとしたが、一斉に俺からセイバーを引き離そうと動き出したマキ、リアム、ケンに遮られ、その答えは聞けなかった。
ケンはセイバーの脳を撃ち抜き、リアムは剣を引き抜き払い、セイバーの手から離れた俺をマキに渡した。マキはそんな俺に素早く〈ヒール〉をかけた。
反射的に身体を強ばらせたが、不思議と痛みは感じなかった。ヒールの力があったからだろうか。回復が優先され、その間は痛みを感じるシステムは作動しなかったのかもしれない。
「早く! 早く元気になってなのです!」
マキは涙を浮かべながら、必死に〈ヒール〉を唱えつづた。
傷口はゆっくりと塞がっていくが、HPが満タンになるまでは程遠い。
――セイバーはたぶん、強い。俺の回復を待って、このままここにいたら、俺だけじゃなくみんなもやられてしまうかもしれない。
一旦、ここはみんなには逃げてもらって、俺は 〈ロード〉してセーブ地点まで……。〈ロード〉が使えなければ、この剣で自決しかない。
そう思い、みんなに逃げるように言おうとしたが、直後、針を突き刺されたような感覚が胸に走り、言葉は引っ込んだ。痛みは一瞬で、その部分は内側からじんわり温かくなり、傷口はみるみると塞がっていく。
何事かと思い顔を上げれば、ホースがこちらに銃を向けていた。
「たかが知れた回復量だと思うけど……」
どうやらホースが〈ヒール弾〉を撃ち込んでくれたらしい。
HPは微量だが、少しずつ回復しはじめている。ある程度の回復さえすれば、俺もまた戦えそうだ。
ありがとう、と礼を口にしてみて気づく。周りを見れば、俺らの仲間だけでなく、ツリィやヨイ――グリムリーパーも、俺を守るようにして、セイバーの前に立ちはだかっていた。
「わたしらの敵を、こんな奴に倒されてはたまらんからな」
ヨイは言った。
「よくわからないけれど、お前がわたしたちの敵だってことはよくわかった!」
ツリィは怒りの声をぶつけた。
「あなたには勇者を殺させない。勇者を殺すのは――魔女の子の役目よ」
グリムリーパーはさっきまでのダメージがなかったかのような力強さでそう言った。
「どう……して……」
――いや、今はそんなことどうでもいい。
みんな、逃げずに立ち向かっている。
俺たちの目標は、ひとつに定まった。
この展開を、逃してはならない。
「――今だけ、限定協力プレイだ」
俺は言い、HPもだいぶ回復したところで立ち上がり、改めて剣を構えた。
「気を引き締めていけ、ユータ。コイツは、今までの敵とは違う」
「He is so a crazy guy!」
「勇者様! もうあの人は、〈プレイヤー〉なんかじゃないのです!」
マキたちも、すでに腹は決まったようだ。
セイバーは怠そうに剣を担ぎながら、俺らを見据えた。
「はぁ〜めんどくさ。こんなん初めて見たで」
次に薄く開かれた彼の目は、右眼だけが赤く光っていた。
「しゃーない。せっかくやし、相手してやるわ」
セイバーかも定かではない彼は、興味深そうに口角を吊り上げた。




