第20話・これが最後のゲームなんやで
――どうして、セイバーがここにいる? どうして、セイバーが魔女の子を斬ったんだ?
俺は状況が飲み込めないまま、とにかく剣を引き抜いた。
「やめてぇや〜。俺は勇者の仲間やで? みんなで、さっさと魔女の子を倒そうや」
セイバーは変わらない笑みを浮かべながらそう言った。
しかし、今はその薄ら笑みが不気味としか思えない。
目の前の〈プレイヤー〉からは、恐怖しか感じない。
「……なた」
グリムリーパーはヨイに抱えられながら、セイバーを見据えた。
「……あなた、何も感じない。誰なの、何が目的なの?」
セイバーはその質問に「んー?」と唸ってから言う。
「何も感じないときたんね……。グリムリーパーは、命があるかないかでしかわからんようやな」
グリムリーパーは眉を顰める。俺らは、何も言えずこの状況についていくのに必死だ。
「『魔女の子の匂い』――みんなはそれを頼りに、相手が魔女の子であるかどうかを見分けているんやけど、それが判別できるのは、限られた人物だけなんや。どういう基準かわかるか?」
セイバーは言いながら、俺へと視線を向けた。
魔女の子の匂い――それを理解できたのは、今まで、ソラちゃんを除く〈プレイヤー〉以外の特定のゲームキャラクターだった。
「――答えはな、『女』や」
「……は?」
思わずそう言ってしまった――女が理解できるって?
ツリィとヨイだって、初めから魔女の子に気づけているわけじゃなかった。今だって、目の前のセイバーを理解しきれていない。
出会ってきた女性キャラクターだけを振り返ってみても、当てはまらない人が多すぎる、否、当てはまる人が少数だ。
「いやいや、そんな困った顔せんといて。女って言っても、『その匂いに敏感』な人だけや」
補足されても、疑念は晴れずに深まるだけだった。『その匂い』って……だから、なぜ魔女の子の匂いに気づけるのかが気になるのだが……。
……いや、そもそも、だ。
「……セイバー、お前は一体誰なんだ? 〈プレイヤー〉……じゃないよな」
魔女の子なんて、プレイヤーが知っているわけがない。俺だって、ケンの話を聞くまでは、そんなキャラクターが存在していることすら知らなかったんだ。
「俺はセイバー。この世界に閉じ込められた 〈プレイヤー〉や。〈JOB〉は〈剣士〉! かっこええやろ?」
ヘラヘラと笑うそれに既視感を覚えながら、正体のしれない相手に不信感しかなかった。
「違うわ! あなたはセイバーなんかじゃない!」
否定を挟んだのは、グリムリーパーだった。
「なんやねん。アンタはセイバーを知ってるんか?」
「……知らない。でも、セイバーではないことはわかるわ! だって、あなたは空っぽだもの!」
グリムリーパーは自身の怪我なんて気にせず、さらに声を上げた。根拠はないが、強い確信を持っているようだ。
コイツは一体誰なんだ? 魔王と関係する誰かなのだろうか。セイバーは――。
「はぁ〜。まあええやんか、そのセイバーって奴のことは」
その投げやりな物言いが鼻につく。
そんな俺らの不快感を無視して、セイバーは自分の調子で話す。
「今大事なんは、勇者がどちらを選択することや」
セイバーは肩にかけていた剣をグリムリーパーへと向ける。
「さあ勇者。同じ目的の〈プレイヤー〉として、目の前の魔女の子、倒そうやさかい」
「……っ」
「――させるわけないでしょ!」
ツリィが叫ぶと同時に、グリムリーパーを守るようにヨイとホースはツリィの前に出て、それぞれ武器を構えた。
セイバーは目を細め、三人を睨んだ。
「……馬鹿な人間やな。わざわざ敵に回るなんて」
次の瞬間、ドン、とセイバーの手が重く俺の肩にのしかかる。
「決まりや。あの三人もまとめて始末する」
「ッ! そんなことっ…!」
「黙れ。今は俺が話しとる」
セイバーの冷たく鋭い声に、グリムリーパーは汗を浮かべながら押し黙った。
「さあ勇者、選ぶんや。俺ら〈プレイヤー〉のために、目の前の邪魔する敵を片づけるか、どうしようもない〈キャラクター〉 のために、戦いから目を背けるか」
その声ひとつだけなのに、首元に指を這わせられたような嫌悪感を抱いた。
……俺が、選ぶのは。
声を出そうとすると、喉が締めつけられるような感覚になる。頭ではしようとしていても、身体はそれに対して拒否するような、そんな感覚。
きっと今までの俺は、荷が重いこんな選択を迫られて、〈リセット〉をして繰り返していたのかもしれない。
逃げていたんだ。
それを忘れて、俺はまた同じ窮地に陥って。
「これが最後のゲームなんやで」
セイバーの言葉にハッとして、改めて俺は崖っぷちに立たされているのだと認識する。
選ばなければ、待つのは軟禁。
選び間違えれば、待つのは死だ。
「……俺は」
――もうウジウジ悩んだりしない。
俺はセイバーの手を振り払い、右手の剣を握り締め、セイバーの首元目がけて振り上げた。
「――俺は、魔女の子を倒して、お前も倒す!」
セイバーの顔から笑みが引き、俺の剣が入るよりも早く、自身の剣を突き出した。
その動きを目で追い切れないうちに、胸に激痛が走る。
俺の手から剣は離れ、地面に落下し、悲しく金属音だけが響き渡った。




