第19話・一発K.Oとまではいかんやんみたいやな
「そのくらい、自分で考えなさい」
グリムリーパーの言葉を皮切りに、足元に光が差し込んできた。
俺らを取り囲んでいた黒い空間は、徐々に溶けるように消えていく。その隙間からは、さっきまでいた風景が見えてきた。
元の場所に戻ってきたとき、まず目に飛び込んできたのはマキの姿だった。その両隣には、リアムにケンもいる。
ずっと、この場で待っていてくれたのだろう。
そして、その後ろには、もう三人分の人影が。
――ツリィ、ヨイ、ホースだ。
「……え!?」
俺は状況が理解できず、ただ驚いた。
――だって、ツリィたちは魔法を解かれて死んでしまった状態に戻ったはずじゃあ……。
俺の疑問を察したのか、一歩前に出て俺の隣に立ったグリムリーパーは言う。
「〈制約の首輪〉は、条件付きで生き返らせる魔法なの」
グリムリーパーは三人を見つめながら話す。
「魔法が発動している限りは、わたしと命が繋がっている。ただし、わたし自身が魔法を解除に解放すれば、ただ彼女たちは生き返りを果たしたと同然になるのよ」
グリムリーパーは小さく笑い、
「わたしは、ハンドレディのように『操る』力はないからね。命を脅しに使って、従わせていたのよ」
と、淡々と語った。
「生き返った状態で……? そんなこと」
「できるわよ。わたしくらいの魔法力があれば」
この世界では死んだら終わりだったはずだ。……だが、そもそも 〈制約の首輪〉 で一度生き返らせているわけだから、その時点でおかしいといえばおかしいのだ。
ここはあくまでゲームの世界。生き返らせる――復活させる魔法があっても、呪文があっても、薬があったとしても不思議ではない。当たり前なのだ。この世界が変わって、ゲームのルールが改変されたせいで、すっかりそのことを置き去りにしていた。
〈プレイヤー〉側こそ、今は例外な立ち位置にいる。
――そうか。グリムリーパーは初めから、自分だけを犠牲にして、ツリィたちを生き延ばせようと……。
前回俺が死んだ時で、魔女の子だけを倒せていた……のか。
もし、俺が戻る選択をしなければ。
「ツリィ、ヨイ、ホース」
グリムリーパーは一人ひとりを見ながら、噛み締めるように名前を呼んだ。
「もう、あなたたちを縛るものはどこにもないわ。だから、ここから逃げなさい」
「っ、どうして……!」
さっきまで二人であんなに話したのに。まだ三人を突き放そうとするグリムリーパーに口を挟んでしまった。
グリムリーパーは「あなたに何がわかるの?」と、一蹴し、再度ツリィたちを見る。
「あなたたちは、もうわたしが死のうと、自分たちが死ぬ心配はないわ。あとは、勇者についていきなさい」
グリムリーパーは、そう冷たく突き放した。
「……な、何よ! それ!」
声を上げたのはツリィだった。
「さっきも話してたじゃん! わたしたちは、グリムと――」
「それは首輪が合ったからでしょう。もうあなたたちを縛るものはないのよ」
今度は、一連の様子見かねていたマキが口を挟む。
「……グリムリーパーさん。わたしたち、二人がいない間に話していたのです。ツリィさんたちが目を覚ましたとき、まずどんな行動を取ったか、わかりますか?」
マキはリアムとケンにも視線を送る。二人は同じタイミングで頷いた。
「――ツリィさんたちは、迷わず『敵』であるわたしたちに、攻撃してきたのです。首輪があろうとなかろうと、ツリィさんたちの想いは変わらずなのです」
グリムリーパーは、喉の奥から込み上げるものを抑えるように下唇を噛んだ。
「グリムリーパーさん、勇者様」
マキが言い、それを引き継ぐようにツリィが前に出て言う。
「わたしたちは戦いたい。戦って、決着をつけたい」
向かい合いに立つ六人の顔を見れば、もう覚悟を決めているようだった。
俺とグリムリーパーは互いに視線だけを合わせた。
「……決着をつける、ね。でも、あなたがやられれば、何度でもやり直せるんでしょう?」
「そもそもやられねぇよ。仮に負けたとしたら、潔く手を引く」
「……本当かしら」
「疑うなら、魔王様とやらに聞けばいい」
グリムリーパーはしばらく悩んで、ついに決意を固めたか、ツリィたちに向かって歩き出した。
「……本当に、言うことの聞かない駒と出会ってしまったわ」
そう言うグリムリーパーの声音には、うれしさが混じっていた。
ついに、俺らは対峙する。戦い、白黒ハッキリと勝敗をつけるんだ。
…………。
――俺も、もう覚悟はできた。
きっとこれが、俺らにとって――そして、魔女の子にとっても、望んでいる結末だ。
「ツリィ、ヨイ、ホース」
グリムリーパーは、また三人の名前を呼びながら、彼女らの元へ歩みを進める。
「……本当に、こんなわたしといてくれて、あり――ァガッ……」
言葉は突如途切れ、バタリ、とグリムリーパーが地面に倒れる鈍い音が鳴った。
彼女の背中には、切り裂かれたような大きな傷口があり、ドクドクと黒い血液が流れている。
「グリム!!」
ツリィは叫び、ヨイ、ホースも悲鳴を上げながら、グリムリーパーの元へ駆け寄った。
ホースはとっさに銃を取り出し、「〈ヒール弾〉!」と、背に銃弾を撃ち込んだ。
傷口はゆっくりであるが塞がっていく。しかし、今の一撃で半分以上減らされたHPは全回復とはいかなかった。むしろ、回復しても半分にも満たない。
「勇者! 油断させて、背後から斬ったか!?」
ヨイは俺を睨みつけながらそう言い放った。
「違う! 俺は何もやってねぇ!」
「だが、この傷をつけられるのは、お前のような剣士くらい……」
ヨイは言いながら、言葉を切り上げ、何かに気づいたように、俺から視線を外した。
ヨイの見つめる先を見る。
――あれは。
「んー、惜しかったわぁ。一発K.Oとまではいかんやんみたいやな」
剣の切先を地面に当て、キリキリと音を鳴らしながらこちらへ近寄ってくる人物がひとり。
「……セ、セイバー……」
「でも、勇者。だ〜いぶ殺りやすくなったで。このまま、みんなでやっつけましょか」
セイバーは剣を肩にかけつつ、そう言った。




