第16話・たとえ、その結果がなくなってしまおうとも
〈ピエリス市〉につき、俺たちは中央広場まで移動していた。
「一人目の不審者さんと出会うのは、ここから市役ところのほうへ向かっている途中なのですね」
「ああ。俺が出会ったのがそのひとり……ヨイだ。マキとケンもそれぞれ出会っているが、別行動だったからな。どのタイミングでどう出会ったまでかはわからない」
こういうとき、ほかの三人の記憶も共有できたら便利なんだが、現実はそうもいかない。
「Anywayその道を歩こう! そしたらゼッタイ会えるし!」
リアムは言って、俺らの返事も待たずにすぐに歩き出そうとする。
ここにいたとしても事態は進展しなさそうなので、俺らも移動しようとしたが、
「あらー? もしかしてだけど、アンタ勇者ちゃうんか?」
関西訛りの男性に呼び止められ、俺らは足を止めた。振り向き、彼の顔を見る。
「……セイバー!」
まさか、こんなところで会うなんて。
いや、でも待て――前回はこんなことなかった。セイバーと出会ったのは、宿で働かされている最中だったはず。
ピエリス市へ来る前に、マキたちと話したから、前回と訪れる時間がズレたために、ここで出会うようになったのか?
この小さなズレで、状況が前回と変わってきている――ここまで、影響するものなのだろうか。
「あ〜…えーっとごめんなぁ。俺とアンタって会うたことありました……?」
セイバーは申し訳なさそうに頭を捻らせている。しまった。思わず名前を言ってしまったけれど、向こうからしたら俺とは初対面のはずだ。
「えーっと……まあほら! 以前どこかで会ってましたってやつだよ。なんせ俺は有名な勇者様だからな! 勇者一行、ユータとマキとリアムに、そしてケンだ!」
俺はムギちゃん、ソラちゃん相手にも使った、困った時の『勇者様だから論法』で、とりあえずごまかした。
「お、おう。そうやな! さすが勇者様やで〜! って、自分で言うなはれや!」
セイバーは右手をちょいと払ってツッコミをいれた。これが本場のノリツッコミってやつか……!
……まあそれはそうと。
「急に話しかけてきてどうした? 勇者様のサインが欲しいならやるけど」
「いらへんわ。たまたま歩いてたら、噂の勇者様いうんを見かけたから茶化しに話しかけただけやわ」
「茶化しにかよ!」
俺が言うと、セイバーはケラケラと笑った。
マキは、そんなやり取りの間に入って、「ここで会ったのも何かの縁なのです。セイバーさんは、赤いフードさんを見かけなかったですか?」と質問した。
宿で聞いた時点では見かけてない……むしろその噂すら聞いてないと言っていた。今思えば、その噂は噂として出回っておらず、ツリィたちがグリムリーパーに吹き込んだものだったのだから、当然と言えば当然なのだが。
「んー。ああ、そういえば見かけたなぁ。派手な格好だから目ェについたわ」
「! 見たのか!?」
まさかの回答に、俺は驚きを隠せない。
なぜだ? 前回……宿の時点で見ていないはずなら、宿で出会う前のこの時間も、見かけていないに決まっている。
前回と、展開が違う?
「ど、どこで見かけたんだ?」
「あっち歩いた、宿よりも先のほうや」
セイバーは指で方向を指しながら言う。
「三人おったな、あとひとり対照的に黒いスーツの女ひとり」
黒いスーツ……グリムリーパーだ。
三人は、ツリィたちのことだろう。
おかしい。グリムリーパーがピエリス市へ来たのはもっとあとの時間だ。それなのに、もうすでにここへ来て、三人とも接触している。
――待てよ、そしたら三人は……!
「ありがとう、セイバー! あっちのほうだな!」
「ああ、ほんとついさっきやから、もしかしたらまだおるのかもしれんな」
セイバーの言葉を聞き、俺は走り出した。
マキたちも慌てて俺のあとつづいて走り、ついてくる。
「ユータ! 何をそんなに焦っている!?」
走りながら、ケンはそう聞いた。
「前回と違うんだ……! こんなことなかった。流れが、まったく違っている!」
「ユータ、違うことしたとか?」
リアムはそう言ったが、納得のいく答えではなかった。確かに前回と行動は異なっていたかもしれないが、それは小さなことで、ここまで来るのに、大方は同じ流れを歩んでいた。
ピエリス市までの道中の会話が影響するとも思えない。それにそこまで時間はかかっていないはず……。
「どっちにしても早く行かないと! グリムリーパーがツリィたちの魔法を解いて、終わらせてしまう前に!」
――それは、ツリィたちが望んでいることじゃない。
「あの、勇者様」
マキは俺の隣を並走しながら聞く。
「わたし……ひとつ疑問なのです。そもそもツリィさんたちは、どうして勇者様たちと戦おうと思ってるのかなって」
「えっ?」
マキはだって、そうでしょう? と言って、話をつづける。
「魔女の子さんを守りたいなら……自分たちが犠牲になろうとはせず、勇者様から逃げればいいのです。そりゃあ、この世界を逃げ回りつづけるにも限界があるのかもしれないですけれど……」
確かにそうだ。ツリィたちはただでさえ、俺たちとレベル差がある。それなのに、どうして戦うことを選んだんだ?
何か戦わなくてはいけない理由があるのだろうか。
グリムリーパーが逃げることを拒否したのか、それともほかに理由が――?
「理由を知るためにも、とにかく急ごう! 俺は、せめてみんなが納得いく終わらせ方にしたい」
たとえ、その結果がなくなってしまおうとも。




