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【完結済】神風勇太はたった一人の勇者となる  作者: みおゆ
第四章・シロケシキノチ
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第15話・すべてを生かすことが正解じゃない。大切なのは、本人たちが何を望んでいるかなのですよ

「……勇者様。わたし、別にこの世界から出られなくても、いいのですよ」



「……え?」



 予想していなかった言葉に、そんな間抜けな声が漏れた。


「この世界にいると選択したのなら、ずーっと勇者様といられるのです。リアムさんも、ケンちゃんもいっしょに」


 マキは話しながら両腕を広げた。この世界を見上げるように。


「だって、この世界からみんな出ることになったら……」


 マキはそこで口を噤んだ。


 この世界が元通りに戻ったら、何もかもが元の世界の時の状況に戻る。だけど、そうなったらどうなるんだろう。

 魔女の子だったケンは、きっと――。


「……でも、ダメでしょう? 勇者様は言ったでしょう。この世界を元通りにして、みんなを現実世界に帰すって!」


 マキは「それとも」と複雑そうな瞳でこちらを見つめる。


「勇者様は、気持ちが変わったのですか?」


 ――違う。変わってなんかない。


 俺の目的はこの世界を元に戻すことで、ゲームの世界から抜け出すことだ。

 それを多くの〈プレイヤー(みんな)〉はそれを望んでいるし、俺だって戻りたいと思う内のひとりだ。

 ……だけど。


「勇者様。わたしたちに話してほしいのです。何があったのか」


 マキに言われ、俺は今までのことを話した。

 今回の件を話すと、みんな一様に難しい顔を浮かべていた。


「魔王城へ行くためには、鍵である魔女の子の心臓が必要なんだ。でも、魔女の子は大事な仲間がいて……。もし、今回と同じ理由でケンが倒されなければならないのなら、俺は全力で抵抗する。反対する。ケンを失うのは……仲間を失うのは、嫌だ」


 みんなのために大切な仲間を犠牲にするなんてできるわけがない。

 もちろん、ツリィたちだって同じ気持ちだ。全力でその状況の中で抗いつづけるに決まっている。


「However……ユータ。そんなこと言ってたら先へ進めない。魔王を倒すのがオラたちの目標(goal)だ。Right?」


 そう言うリアムにつづき、ケンも、


「ユータの気持ちもわかるが、リアムの言うとおりだ。それに、悪さなんてしていないというが……この世界を元に戻そうと動くユータの足止めをしようとすること事態が、もうすでに悪手なのだから、戦うこと自体にそこまで罪悪感を抱かなくともよいとは……思う。考えようの話だが……」


 と、話した。


「ツリィたちは、俺が魔女の子を倒そうとしなければ、邪魔なんてしようと思わなかったはずだ。俺が、魔女の子を倒さなくてよかったら……」


 俺はそこまで話して、ケンを見た。


「なあ。ケンは元々魔女の子だろ? だったら、魔王城の行き方だってわかるんじゃないか? 鍵なんてなくても、どうにかして魔王城に――」

「それはできない。鍵が必要だというのなら、そうなのだろう」


 縋るように聞いた俺に、ケンは切り捨てるようにそう答えた。


「僕らは魔女の子の言えど、魔王城を自由に行き来などできないんだ。魔王が与えた場所にいるだけ。その場所で命令を遂行するだけ。ハンドレディこそ、国を跨いで行動していたが、魔王城へは戻れてなどいないよ」


 これは僕の推論だが、とケンはつづける。


「今回、こうした鍵の条件を出したのも、魔王はユータがこの状況に陥るのを予想してでのことではないだろうか。ユータが悩めば悩むほど、魔王城へは来れない。その時間を稼げば稼ぐほど……魔王は力を増幅できるし、世界征服だってできるかもしれない」


 否定はできなかった。

 ケンの言うとおり、俺はまんまと魔王の策略に嵌っていると言っていいだろう。


 だけど、もしかしたら鍵が必要なんて発言も嘘かもしれない。

 俺を弄んで悩ませておいて……本当の答えは別であるのかもしれない。

 そのためなら、俺は何度だってやり直して見つけ出すのに。


「……ケン。魔王城へはどうやって行くんだ。入れないとしても、魔王城の前までなんとかしていけないか。実際に見てみれば……鍵なんてなくても先へ進める手立てが思いつくかもしれない」


 諦め悪く俺がそう聞いたが、ケンはただ首を横に振るだけだった。


「ハッキリと言う。魔王が鍵が必要だと言ったのなら、それは絶対だ。魔王城へ戻れてないと言ったが、それは魔王城がこの世界に存在していないからだ。魔王城への道はこの世界のどこにもない。その道を開くのは、その鍵を手にする(条件を満たす)のみなんだ」

「道を……開く」


 ケンは俺の肩を掴むと言う。


「魔女の子(グリムリーパー)を倒す(殺す)。これが鍵であり、魔王城への道(入口)だ。これ以外に魔王と相見える術(すべ)は、ない」


 マキもリアムも反論せずにその言葉を受け入れていた。


 重苦しい空気の中、「今回はしかたがないのです」と、マキは静かに決定づけるような言葉を告げる。


「――時には、犠牲も必要なのですよ」


 犠牲も必要って。


 ……なんでその言葉を、マキが言うんだよ。

 ……いや、マキだから……言ってくれるのか。


「覚悟を決めないと行けないのです」


 マキは畳みかけるように言った。まだ揺らいでいる俺の心を見透かしているかのように。


「……今回は、どちらか決めるしかないのですよ。彼女たちの望むままに、その他大勢のプレイヤーのことを見捨ててゲームのクリアを放棄するか、その他大勢のプレイヤーのために、彼女たちには犠牲になってもらうか」


 マキは俺の手を握った。


「選んで」


 ――選ぶ。


 そのとき、両手にまた別の温もりを感じた。リアムが、そっと手を重ねていた。


「ユータ……。〈プレイヤー〉を救う道なら……ある。You know……死んでしまっても、現実世界では目が覚めるかもって可能性が、まだ残ってる」


 可能性……そうか。リアムたちは、ハッキリと情報は知らないのか。


 だが、確かにそうか……。ツリィたちはすでにゲームオーバーしている〈プレイヤー〉 。

 グリムリーパー自身も、俺に希望を託してくれた。


「……でも、でも……」


 繰り返すうちに、世界は変わるかもしれない。


 ――いや、そんなのは希望的観測だ。


 〈リセット〉を使えば、この状況を阻止できる?


 ――ダメだ。〈リセット〉は使えない。使ってしまったら、それこそこの世界の崩壊が起きて誰も救われないし、それに、仮にできる状況だったとしても、〈リセット〉をしたら、俺の記憶もなくなってしまう。


 過去(今まで)の俺は、どうしていたんだ?

 ……違う。過去は関係ない。魔王も言ってたじゃないか。


「勇者様は優しいのです。……だけれど、優しいあまりに、勇者様はひとつ見落としているのです」

「えっ」


 たぶん、目を丸くしているであろう俺に対し、マキは言う。


「すべてを生かすことが正解じゃない。大切なのは、本人たちが何を望んでいるかなのですよ」


 ――何を望んでいるか。


「マキの言うことも一理あるかもしれんな」

「Same here」


 ケンとリアムも同意見のようだった。


 だけど、そうだよな。ここでウジウジしていてもしょうがない。

 ここで立ち止まるようじゃ、俺はきっとエンディングを迎えられない。


「うん、行こう」


 答えは決まった――これ以上は、戻らない。

 俺は〈セーブ〉をして、再び〈ピエリス市〉を目指す。


「……前へ踏み出しはじめたようでよかったのです」


 歩きながら、マキはそう呟いて、先を見つめたまま微笑んだ。

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