第13話・嘘つきは、お前じゃねぇか
「わたしのやることはただひとつ――魔王様の仰せのままに」
刹那、グリムリーパーは一気に踏み込み、俺を攻撃範囲に捉えた。
その首元に目がけて真っ直ぐに鎌を振るう――俺はとっさに剣を引き抜いたお陰で、ギリギリのところで鎌の餌食にならずに済んだ。
――早い! 今までの魔女の子よりも、動きが早くて、防ぐのだけで精いっぱいだ!
グリムリーパーよりも大きな鎌では、次の攻撃までのリーチも長いかと思われたが……小柄な体格ゆえ、リーチの間は鎌を盾に防御の型を取り、こちらの隙を見て瞬時に攻撃の手に切り替えるといった、一切隙のない動きでこちらを攻め立てられる。
「どうしたの、勇者! ほかの三国を切り抜けたと聞いていたけれど、腕はその程度!?」
「……っ!」
「ふん。なら、少しハンデをあげましょうか」
突然、グリムリーパーは鎌を空高く振り上げた――直後、素手のまま俺に向かって突進を開始した。
思わず、剣を握ったままの俺はそのままそれで防御してしまう。グリムリーパーはその刃に腕を食い込ませるが、痛みなんてまるで感じていないというふうな涼しい顔で、ダメージを受けていないもう片方の腕を振り切り、俺を殴った。
「たかがその程度の剣でわたしは斬れないわ。本気出さないと、そのままわたしになぶり殺されるわよ?」
「……俺だって!」
俺は剣を地面に投げ捨て、グリムリーパーに右フックをかました。しかしあっさりと拳を防がれてしまっだが、彼女の顔から動揺しているのが伝わってくる。
「な、何してるのよ!」
「何って、俺だってやれるとこ見せてるんだろ!」
「嘘をおっしゃい! 本気を出しなさい! あなたがどこかで戦闘を避けようとしているのが、見え透いているのよ!」
グリムリーパーは言うと、今度は殴りつけるのではなく、俺の頬に平手打ちをした。
「わたしはあなたの仲間を殺した! あなたの仲間…… 〈プレイヤー〉だって、目の前で死なせてみせたでしょう! そんなことをされて、黙っているのが勇者なの!?」
グリムリーパーは俺の両肩を掴んだ。
「恨めしいでしょう!? だったら、本気でわたしを殺しにかかりなさい!! 知らないの?! あなたはわたしを殺さないと、魔王城へは行けないのよ――」
グリムリーパーは突如言葉を切り、俺の身体を自身に引き寄せた。
直後、背中にゾワリとした空気を引き裂く感覚が走る。俺はゆっくりと後ろを向くと、さっきグリムリーパーが宙へ放り投げた鎌が地面に深々と刺さっていた。
グリムリーパーが俺を引き寄せてくれなかったら、確実にあの刃物が俺の脳天を直撃していた。
「……お前こそ、わかってんのかよ。お前が今俺を引き寄せてくれなかったら、俺をそのまま始末できていたのに」
俺は言って、視線をあの鎌へ送った。
「………腹に蹴りでも入れようと思ったの。……だ、だから、たまたまよ」
「……たまたま…ね」
気まずく、重苦しい沈黙が流れる。
「どうして、魔王はこんなシナリオを作ったんだろうな」
その空気に耐えきれず、俺は言葉を吐き出していた。
「……試しているのよ、あなたを」
グリムリーパーは言いながら、掴んでいた俺の肩をそっと離した。
「魔王様はいつも言っていたわ、今回はどんな結末を見せてくれるのかって。わたしは、魔王様が何を言っているのか、何を望んでいるのかわからないけれど……」
グリムリーパーは、俺がさっき投げ捨てた剣に向かって歩き出す。
「ああ。あと、拳銃使いの時から制御が利かなくなってきた……とかも言っていたわね。魔王様、しっかり目をつけているみたいだから気をつけてね」
グリムリーパーは剣を拾い上げ、横になるツリィを見つめた。
「ツリィたち……いえ、あなたたち〈プレイヤー〉は、別世界の人たちらしいわね。魔王様が眠りにつけば、みんな元の世界へ戻れて、失った命も再生されるのだとか」
それから、グリムリーパーは俺を見た。
「わたしがこんなことを言うのもなんだけれど……ツリィたちを、よろしくお願いできないかしら」
グリムリーパーは剣を持ち上げ、その刃物を確かめて。
「わたしとあの子たちは、いっしょにいれない存在だから」
――その刃物を、自身の首に当てると。
「ッ、やめてくれ!」
「頼んだわよ、勇者」
直後、彼女の細い首が赤く染まり、グラりと自立力を失い倒れる。
俺は、回復魔法なんて持っていない。
再生もされず、みるみると失っていくHPを、ただ見ていることしかできない。
「勇者様!」
遠くから、聞こえるはずのない声が聞こえた。
振り向けば、マキにリアムに……そしてケンがいた。
「マ、マキ、どうして!?」
「魔女の子が現れて……魔法で眠らされていたのです。でもついさっき目覚めて……!」
俺はまたグリムリーパーを見た。マキたちもその姿に気づき、事態を飲み込んだようだ。
「ユータ、魔女の子倒した……?」
「……倒したというよりは、これは……」
グリムリーパーのHPは、いよいよ『0』を迎えようとしていた
「ダメだ、こんなのダメだ。きっと、別の……」
俺は、溺れる者は藁をも掴む想いで、メニュー画面を立ち上げていた。
〈SKILL〉を開き、指を滑らせながら、〈ロード〉を起動する。
周りの景色が白い光で満たされていく――いや、逆かな。この場合、俺が光に包まれているのかもしれない。
――嘘つきは、お前じゃねぇか。
心の中で吐き捨てながら、段々と視界も白く覆い尽くされていく。
「……勇者様」
意識が徐々に消えていく最中、最後にマキの声が聞こえた。
「…ん……は、…き………」
――なんだ? なんて言った?
しかし、もうそれを確かめようもなく、視界は暗転し、意識は急降下するように闇に吸い込まれていった。




