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【完結済】神風勇太はたった一人の勇者となる  作者: みおゆ
第四章・シロケシキノチ
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第12話・魔王様の仰せのままに

 ――ツリィ、ヨイ、ホース……この三人は、元々は知り合いでも、ゲームの中でもパーティを組んでいたわけじゃなかったらしい。


 各々この世界を楽しんでいたが、ゲームに閉じ込められた事実を知って、みんな複雑な気持ちになったという。


「わたしたち、いわゆる社会不適合者って奴なんだ。現実世界なんて楽しくないし、辛かった。このゲームの世界にいるほうが楽でいいやって思った。だけれど……どうしてかな、やっぱりどこかで現実世界に戻れないのはマズイと思っていた」


 そんなとき、勇者(俺)の存在を知ったという。

 いつか勇者が何とかしてくれるという安心感がどこかであり、再びゲームを楽しんでいたそうだ。


「わたし、実はあのとき……勇者が……ユータが、高らかに勇者を受け入れていたの、見ていたよ。バカだなーって見てた。でも、安心した」


 その後、ツリィはソロプレイでこの世界を満喫していたという――しかし。


「次は 〈ヨシワラトウゲンキョウ〉 にでも行ってみようと、向かっていたときだった。道中で、めちゃくちゃ強いモンスターとぶち当たっちゃって」


 ツリィは懸命に戦ったが、その強さと数にとても敵わず――。


「ゲームオーバー(死んだ)。超しんどかった」


 それから、次に目を覚ました時。

 あの温泉宿――〈シロケムリオンセン〉にいたという。そこにはすでに、ヨイとホースもいたという。


 そして――魔女の子、グリムリーパーも。


「目が覚めたら、この黒い首輪があった。んで、いきなり言われたのさ、『勇者を倒すのに協力しろ』ってさ」


 俺はそこまで話を聞き、ひとつ疑問が浮かび、聞く。


「今のルールだと、確か生き返りなんてできなかったと思うんだが……」

「ね。わたしも死ぬまで知らなかった。魔女の子(グリム)に言われたんだ。 『わたしが転がっていた死体(あなたたち)を生き返らせてやった』って……。だから、駒として協力しろってさ。身勝手だなって思った。勇者を倒せなんて……そんなことしたら、いよいよ現実世界に戻るための希望がなくなってしまうって」


 最初は無視しようとしたらしいが、そのとき、グリムリーパーに言われたという。


『魔女の子(わたし)が勇者に倒されれば、あなたたちも道連れで死ぬわよ? その首輪はあなたたちの生命維持装置そのものなんだから。わたしが死ねばもちろんその魔法は解けて、あなたたちも死体に戻るわ。協力しなくてもいいけれど、今後、何があっても文句は言わないでほしいわね』


 ――そう、言われたという。


 その迫力も相まって、ツリィたちはグリムリーパーに従うことにしたという。


「そんな感じで、駒にされたと言ってもさ、死んだときのレベル(強さ)のまま止まってるから、大して使い物にならなくて。ヨイとホースなんてわたしよりもレベル低いんだよ? だから、まずはグリムに鍛えられたんだ」


 俺は、黙ってツリィの話を聞く。


「そのへんのモンスターを倒せど、わたしたちに経験値が入ることはなかったけれど……ゲームの動き方はどんどん上達していった。レベルは低くても、レベル以上の戦いはできるようになったんだ。なんだかんだ楽しかったよ。ずっとひとりの多い人生だったから、こうして誰かと過ごすことなかったんだ」


 ツリィは思い出を振り返るように遠くを見つめながら話す。


「なんだかんだ楽しく過ごしてて……気づいたら、みんな大切な仲間になっていた。もちろん、グリムのことも。グリムは強くて優しくて、話してみたら悪い人っぽくなくて……」


 仲間意識が強まれば強まるほど、グリムリーパーは、ある言葉を言うようになったという。


――『ごめんなさい、巻き込んでしまって。あなたたちのような素敵な人を……こんな気持ちになると知っていれば、わたしは……』。


 そんなある日、グリムリーパーは話があるとツリィたちを呼んだらしい。


 ――『もう少ししたらこの温泉宿に勇者たちが来ます。だから、あなたたちはわたしたちに脅されたと言って、勇者たちに助けを求めなさい。きっと、勇者なら道を開いてくれるはず』。


「魔王様? から聞いたんだって。魔王様の未来予知は絶対だからって……。わたしたちは拒否した。言い争いになったよ」

「言い争い……?」

「わたしたちは、グリムの犬(味方)だ。勇者に助けられようなんて、そんな裏切り行為はしない! ……って」


 ツリィは声を荒らげ、こちらを睨んだ。


「聞き入ってもらえなかったけれどね……。だから、わたしは〈モヤ〉を唱えて、グリムの記憶を消した。ホースの 〈催眠弾〉で温泉宿の店主……なんて役を作ってもらってね」


 ホースは色んな魔法弾が使えるのよ、とツリィは話した。


「わたしたちは、『ピエリス市に不審者が出ている』――という情報だけをグリムに……いえ、ラビに伝えて、その場から去った。温泉宿に来た勇者をピエリス市まで誘導するためにね」


 ――三人の意志は同じだった。


「『わたしたちが魔女の子になって代わりに勇者を倒そう。それが無理でも、グリムの代わりに犠牲になろう』」

「…………」

「グリムは勇者たちが温泉宿に来ると言っていたけれど、本当に来てビックリしたよ。ま、でも上手いことピエリス市まで誘導できたからよかったけれど」


 ツリィは深いため息をついてから、話をつづける。


「そんなわけで、〈ピエリス市〉へ来た勇者を叩き潰す。その予定だった。でも、アンタが話を聞いてくれそうだったから、今こうしてすべてを話した」


 グリムが言ってたんだ、とツリィは言う。


「勇者なら道を切り開いてくれるって、グリム言ってたから。だからさ、全部話したんだから、グリムのこと見逃してよ」


 ――そんなことを言われても、俺は。


「……わたしたちは現在世界(そと)へ戻れなくていいからさ。ほかのみんなが救われるような、そんな道を選んでよ」


 ……いいのか、彼女たちをこの世界に置いていくことは。

 そんなことよりも……あるのか、そんな道が。

『鍵』がなくても、魔王の元へ行けるような、それか、みんなが救われるような、そんな道が……。

 …………。

 ……例え道があっても、俺は魔王を倒さなくちゃならない。倒さなければ、この世界は破滅するだけだろう。


「……わから、ない」

「……なんだよ、それ」


 ツリィは明らかに落胆した様子で吐き捨ててから、何かに気づいたように顔を上げ、俺より向こう側を見た。


 俺はツリィの視線の先を見る。


「――そんな話をしたって、運命(エンディング)は変わりませんよ」


 そこに立っていたのは、ラビだった。


「……違う。グリムリーパー……だな」

「ご名答……と、言いたいところだけれど、あなたはツリィに答えを聞いているのよね、きっと」


 もう語尾に『ラビ』なんて付けていなかった。今、目の前にいる現状こそ、あるべき魔女の子の振る舞いだった。


「グリム!」


 ツリィはグリムリーパーの姿を見るなり駆け寄った。

 グリムリーパーはそっとツリィの頬を撫でると、微笑んだ。


「魔法は……やっぱり長続きしなかったか。ほかのみんなはもう会った!? それよりダメだよ、ここへ来ちゃ……!」


 話したいことが沢山あるんだろう。ツリィは早口で話しはじめるが、グリムリーパーがそっと首輪に手を触れると急に口を閉ざして、グリムに寄りかかった。


 首輪が消え、ツリィの手から杖が離れ落ちる。杖が地面に落下した音とともに、ダラりの彼女の両腕が下がった。


「おやすみ」


 グリムリーパーはそっとそう告げた。

 あまりにも突然の出来事に、俺はただ一連の様子を眺めていることしかできなかった。


「な、何して……」


 やっと絞り出した俺の言葉に、グリムリーパーは悲しそうに微笑んだ。


「戦いの結果は見えています。だから、この子たちにはなるべく苦しんでほしくなかったの」

「ほかの二人……ヨイとホースは……?」

「眠ったわ。そばにいた人たちも、いっしょに」


 ――そばにいた人たちって……まさか。


「マキたちも……!?」

「初めからわたしが出てくれば早かったのでしょうけれど。ついつい現を抜かしていたわ」


 グリムリーパーはそう話しながら、右手を伸ばし手のひらを広げた。同時に、突如その空間に大きな鎌が姿を現れ、それをしっかりと握りしめた。

 そのまま自分の前に大きく鎌を振るうと、次の瞬間には、黒いスーツ衣装に着替えていた。


 ――これが本来の、魔女の子(死神)の姿だったといえよう。


「さあ、あとはあなたひとりだけ。さっさと倒すといたしましょう」

「…………ッ!」


 グリムリーパーは悪役らしく口角をあげた。しかしそれは、どうみたって表面上の敵意でしかなかった。


「わたしのやることはただひとつ――魔王様の仰せのままに」

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