第12話・魔王様の仰せのままに
――ツリィ、ヨイ、ホース……この三人は、元々は知り合いでも、ゲームの中でもパーティを組んでいたわけじゃなかったらしい。
各々この世界を楽しんでいたが、ゲームに閉じ込められた事実を知って、みんな複雑な気持ちになったという。
「わたしたち、いわゆる社会不適合者って奴なんだ。現実世界なんて楽しくないし、辛かった。このゲームの世界にいるほうが楽でいいやって思った。だけれど……どうしてかな、やっぱりどこかで現実世界に戻れないのはマズイと思っていた」
そんなとき、勇者の存在を知ったという。
いつか勇者が何とかしてくれるという安心感がどこかであり、再びゲームを楽しんでいたそうだ。
「わたし、実はあのとき……勇者が……ユータが、高らかに勇者を受け入れていたの、見ていたよ。バカだなーって見てた。でも、安心した」
その後、ツリィはソロプレイでこの世界を満喫していたという――しかし。
「次は 〈ヨシワラトウゲンキョウ〉 にでも行ってみようと、向かっていたときだった。道中で、めちゃくちゃ強いモンスターとぶち当たっちゃって」
ツリィは懸命に戦ったが、その強さと数にとても敵わず――。
「ゲームオーバー。超しんどかった」
それから、次に目を覚ました時。
あの温泉宿――〈シロケムリオンセン〉にいたという。そこにはすでに、ヨイとホースもいたという。
そして――魔女の子、グリムリーパーも。
「目が覚めたら、この黒い首輪があった。んで、いきなり言われたのさ、『勇者を倒すのに協力しろ』ってさ」
俺はそこまで話を聞き、ひとつ疑問が浮かび、聞く。
「今のルールだと、確か生き返りなんてできなかったと思うんだが……」
「ね。わたしも死ぬまで知らなかった。魔女の子に言われたんだ。 『わたしが転がっていた死体を生き返らせてやった』って……。だから、駒として協力しろってさ。身勝手だなって思った。勇者を倒せなんて……そんなことしたら、いよいよ現実世界に戻るための希望がなくなってしまうって」
最初は無視しようとしたらしいが、そのとき、グリムリーパーに言われたという。
『魔女の子が勇者に倒されれば、あなたたちも道連れで死ぬわよ? その首輪はあなたたちの生命維持装置そのものなんだから。わたしが死ねばもちろんその魔法は解けて、あなたたちも死体に戻るわ。協力しなくてもいいけれど、今後、何があっても文句は言わないでほしいわね』
――そう、言われたという。
その迫力も相まって、ツリィたちはグリムリーパーに従うことにしたという。
「そんな感じで、駒にされたと言ってもさ、死んだときのレベルのまま止まってるから、大して使い物にならなくて。ヨイとホースなんてわたしよりもレベル低いんだよ? だから、まずはグリムに鍛えられたんだ」
俺は、黙ってツリィの話を聞く。
「そのへんのモンスターを倒せど、わたしたちに経験値が入ることはなかったけれど……ゲームの動き方はどんどん上達していった。レベルは低くても、レベル以上の戦いはできるようになったんだ。なんだかんだ楽しかったよ。ずっとひとりの多い人生だったから、こうして誰かと過ごすことなかったんだ」
ツリィは思い出を振り返るように遠くを見つめながら話す。
「なんだかんだ楽しく過ごしてて……気づいたら、みんな大切な仲間になっていた。もちろん、グリムのことも。グリムは強くて優しくて、話してみたら悪い人っぽくなくて……」
仲間意識が強まれば強まるほど、グリムリーパーは、ある言葉を言うようになったという。
――『ごめんなさい、巻き込んでしまって。あなたたちのような素敵な人を……こんな気持ちになると知っていれば、わたしは……』。
そんなある日、グリムリーパーは話があるとツリィたちを呼んだらしい。
――『もう少ししたらこの温泉宿に勇者たちが来ます。だから、あなたたちはわたしたちに脅されたと言って、勇者たちに助けを求めなさい。きっと、勇者なら道を開いてくれるはず』。
「魔王様? から聞いたんだって。魔王様の未来予知は絶対だからって……。わたしたちは拒否した。言い争いになったよ」
「言い争い……?」
「わたしたちは、グリムの犬だ。勇者に助けられようなんて、そんな裏切り行為はしない! ……って」
ツリィは声を荒らげ、こちらを睨んだ。
「聞き入ってもらえなかったけれどね……。だから、わたしは〈モヤ〉を唱えて、グリムの記憶を消した。ホースの 〈催眠弾〉で温泉宿の店主……なんて役を作ってもらってね」
ホースは色んな魔法弾が使えるのよ、とツリィは話した。
「わたしたちは、『ピエリス市に不審者が出ている』――という情報だけをグリムに……いえ、ラビに伝えて、その場から去った。温泉宿に来た勇者をピエリス市まで誘導するためにね」
――三人の意志は同じだった。
「『わたしたちが魔女の子になって代わりに勇者を倒そう。それが無理でも、グリムの代わりに犠牲になろう』」
「…………」
「グリムは勇者たちが温泉宿に来ると言っていたけれど、本当に来てビックリしたよ。ま、でも上手いことピエリス市まで誘導できたからよかったけれど」
ツリィは深いため息をついてから、話をつづける。
「そんなわけで、〈ピエリス市〉へ来た勇者を叩き潰す。その予定だった。でも、アンタが話を聞いてくれそうだったから、今こうしてすべてを話した」
グリムが言ってたんだ、とツリィは言う。
「勇者なら道を切り開いてくれるって、グリム言ってたから。だからさ、全部話したんだから、グリムのこと見逃してよ」
――そんなことを言われても、俺は。
「……わたしたちは現在世界へ戻れなくていいからさ。ほかのみんなが救われるような、そんな道を選んでよ」
……いいのか、彼女たちをこの世界に置いていくことは。
そんなことよりも……あるのか、そんな道が。
『鍵』がなくても、魔王の元へ行けるような、それか、みんなが救われるような、そんな道が……。
…………。
……例え道があっても、俺は魔王を倒さなくちゃならない。倒さなければ、この世界は破滅するだけだろう。
「……わから、ない」
「……なんだよ、それ」
ツリィは明らかに落胆した様子で吐き捨ててから、何かに気づいたように顔を上げ、俺より向こう側を見た。
俺はツリィの視線の先を見る。
「――そんな話をしたって、運命は変わりませんよ」
そこに立っていたのは、ラビだった。
「……違う。グリムリーパー……だな」
「ご名答……と、言いたいところだけれど、あなたはツリィに答えを聞いているのよね、きっと」
もう語尾に『ラビ』なんて付けていなかった。今、目の前にいる現状こそ、あるべき魔女の子の振る舞いだった。
「グリム!」
ツリィはグリムリーパーの姿を見るなり駆け寄った。
グリムリーパーはそっとツリィの頬を撫でると、微笑んだ。
「魔法は……やっぱり長続きしなかったか。ほかのみんなはもう会った!? それよりダメだよ、ここへ来ちゃ……!」
話したいことが沢山あるんだろう。ツリィは早口で話しはじめるが、グリムリーパーがそっと首輪に手を触れると急に口を閉ざして、グリムに寄りかかった。
首輪が消え、ツリィの手から杖が離れ落ちる。杖が地面に落下した音とともに、ダラりの彼女の両腕が下がった。
「おやすみ」
グリムリーパーはそっとそう告げた。
あまりにも突然の出来事に、俺はただ一連の様子を眺めていることしかできなかった。
「な、何して……」
やっと絞り出した俺の言葉に、グリムリーパーは悲しそうに微笑んだ。
「戦いの結果は見えています。だから、この子たちにはなるべく苦しんでほしくなかったの」
「ほかの二人……ヨイとホースは……?」
「眠ったわ。そばにいた人たちも、いっしょに」
――そばにいた人たちって……まさか。
「マキたちも……!?」
「初めからわたしが出てくれば早かったのでしょうけれど。ついつい現を抜かしていたわ」
グリムリーパーはそう話しながら、右手を伸ばし手のひらを広げた。同時に、突如その空間に大きな鎌が姿を現れ、それをしっかりと握りしめた。
そのまま自分の前に大きく鎌を振るうと、次の瞬間には、黒いスーツ衣装に着替えていた。
――これが本来の、魔女の子の姿だったといえよう。
「さあ、あとはあなたひとりだけ。さっさと倒すといたしましょう」
「…………ッ!」
グリムリーパーは悪役らしく口角をあげた。しかしそれは、どうみたって表面上の敵意でしかなかった。
「わたしのやることはただひとつ――魔王様の仰せのままに」




