第10話・……面白いよね、魔法ってやつは
「――話は聞いたぞ」
赤いフードを被ったひとりの少女は、まるで待ち構えていたかの様に、宿の入口横に立っていた。
「……お前、さっき宿のドア壊したやつだよな」
「代わりに働いてくれて礼を言うわ。助かった」
すると少女はフードを外し、その顔を明らかにした。
茶髪の大きな瞳の少女。右腕で包むようにしっかりと杖は傍に置かれていた。俺に対する警戒心や敵対心がひしひしと伝わってくる。
「お前の仲間のひとり……デカい三角帽子から逃げてきた。たぶん今頃、わたしを見失って探し回ってる。ほかの二人は、わたしの友人二人が相手している」
三角帽子――マキのことだ。
リアムとケンは、残り二人の〈プレイヤー〉を相手取っているのか。
「お前、すでに〈シロケムリオンセン〉へ行ってたのね」
「ああ、そうだよ」
「店主、いたでしょ。いい人だった?」
「……な、なんだよ」
少女の意図が見えない、当たり障りのない雑談に、むしろ俺の警戒が強まるだけだった。
少女は俺と目を合わせることなく、真っ直ぐと遠くを見つめたまま話をつづける。
「そうだよ。あそこは元々無人宿……そこに店主なんていない。気づいてるんだろ、わたしも〈プレイヤー〉だって。あの三角帽子が言ってたよ」
少女はふぅと息を吐いた。
「本物の魔女の子は、あの温泉宿の店主だ。……でも、今は本当にただの温泉宿の店主。攻撃したって意味ないよ。そうでしょ?」
魔女の子は懇願するように言った。
そんな理由、納得できるわけがない。
魔女の子は、なぜあんなところで温泉宿の店主のフリなんかするのか。それに、なぜそこまでして、コイツらは魔女の子から俺らを遠ざけようとするのか……。
「勇者の……ユータ、だっけ。わたしはね、ツリィって言うの。あなたぐらいの女の子がヨイで、もうひとりの男の子がホースって言うんだ」
少女――ツリィは突然自己紹介を述べた。
話の突然な方向転換に、やや面食らってしまう。
「ユータはさ、確か西エリアで〈プレイヤー〉を救うとかなんとか、宣言してたよね」
「…………」
「あは。別になんもしないけど? 相槌くらい入れてほしいな」
少女は乾いた笑い声を立てた。
「……ユータはさ、〈プレイヤー〉を救うことは、この世界を元に戻し、〈プレイヤー〉を現実へ戻すことだと思ってるかもしれないけど、そればかりじゃないとわたしは思うんだよ」
少女は「頼むよ」と、それは切実に言葉を紡いでいく。
「わたしはこのままでいい。この世界に閉じ込められたままでいい。帰らなくていい。帰れなくていい――例えそれが、多数の想いとは反していても」
少女は持っていた杖を、身体に引き寄せ抱いた。
「どうしても、魔女の子から手を引いてもらえることは、できないかな?」
少女の願いに、俺はなんと答えたらいいのだろう。
少女の言葉を無下にして、俺は自分の正義を突きつければいいのだろうか。
「…………」
無言をつづける俺に、少女は諦めたようにため息をついた。
「……そりゃあそうだよね。みんな、現実に帰りたいよね。でも、それなら戦うのみだ」
少女は、寄りかかっていた壁から身体を起こし、俺の前に立ちはだかる。
そのとき、少女の首に何かついていることに気づいた――あれは、他の二人にもついていた、あの黒い首輪だ。
「なぁ。その首についているのは、なんだよ」
少女の首にまとう、その無機質な黒い輪について聞いた。
少女は「ああ、これかい」と言いながら、首輪を撫でると、答える。
「〈制約の首輪〉――永続魔法の一種だよ」
少女は自嘲気味に笑った。
「魔女の子の犬である証さ。これで繋がれたわたしたちは一心同体……魔女の子が死んだら、わたしたちも死ぬようになっている。……面白いよね、魔法ってやつは」
それを聞いて、俺は言葉を失った。




