第9話・本当に、ずいぶんな役押しつけてくれたよな
「ここで受付をやってもらいます。しっかり働いて返してくださいね。わたくしはお部屋を片づけて来ますから」
女性はそう言い残して、部屋へと行ってしまった。
「受付しとけたって……とりあえずここに立っておけばいいのか?」
働いて返せというわりに、仕事に関する説明は一切なかった。まあ現実でもそういうことはありそうではある。
「ふっ。だがやり切ってみせるぜ。伊達に現実世界で社会人なんてやってないしな」
――ま、接客業なんてやったことはないんだけどな!
しばらくすると、ひとりの青年が現れた。腰に剣を携えている。もしかして、あの人もここへ泊まりに来た〈プレイヤー〉だろうか?
「いらっしゃいませー」
「えっ、宿屋へ来て、『いらっしゃいませ』なんて初めて聞いたわ〜。……ってなんや、アンタ宿屋の者やないな!?」
青年は言って、剣を抜いて構えた。俺は慌てて「待て待て待て!!」と宥めた。
「ちょっとわけあって、強制的に働かされてるだけの 〈プレイヤー〉 だよ! たぶんそっちもそうだろ?」
「あー。宿屋のルール破ったんかいな。アンタ、アホやなー。あ、もしかして彼女と激しい夜でも過ごしたんか?」
「違ぇよ! やめろいきなり!!」
「アハハー。冗談やて。アンタに彼女がいるとも思えへんしな」
「……くっ」
――最後の言葉は否定できねぇ。
関西出身の人なんだろうか。訛りが特徴的な青年は剣を収めるとカウンターに寄りかかった。
「そうや。俺もこの世界に閉じ込められた 〈プレイヤー〉や。〈JOB〉は〈剣士〉! かっこええやろ?」
「あーそッスね」
「なんや、興味なさそうに! ……って、よく見るとアンタ、あのユータって奴かいな? ……ほら、〈勇者〉 の!」
青年の耳には、どうやら俺のことが届いているらしい。
青年は顎を擦りながら、ジロジロと俺を見てくる。
「いや〜猫ちゃんたちから聞いたとおりやなぁ。普通の顔してるわ。でもいい人ってのは伝わってくるな」
「猫ちゃん?」
「ん? ああ俺さ、とりあえず気ままにこの世界をフラフラしててな、途中で猫耳姿の姉妹と出会ったねん。そこで、ユータの話色々と聞かせてもろうてなぁ」
その姉妹はムギちゃんとソラちゃんのことだろう。聞いたとおりの普通の顔ってなんだ、二人は、一体俺のどんな話をしたんだ。
「……と、挨拶が遅れたな。俺はセイバーっちゅーもんや。ま、この世界での名前だけどな」
名前もかっこええやろ〜? ヒーローみたいで。ま、実際知ってるヒーローから名前取ったんやけどな! ……と、セイバーは笑った。賑やかな奴である。
話をしながら、俺はこれはチャンスかもしれないと思った。もしかしたら、セイバーは赤いフードの人を見かけているかもしれない。プレイヤー相手のセイバーなら、何か情報が聞き出せるかもだし。
「なあ、セイバー。知ってたら教えてほしいんだ。セイバーは、赤いフードについて何か知ってるか?」
「……? 赤いフード?」
「最近この市に現れた不審者の……勇者を狙う怪しい奴らだ。どうやら三人いて、どれも俺らと同じ〈プレイヤー〉らしいんだが……見かけたりしてないか?」
セイバーは「ごめんな。俺、特に見てないわ」と答えた。赤いフード、すでにどこかで身を潜めているのか。
「そんな奴らがおるんやなぁ。俺さ、しばらくここにおるけど、街の人とかと話しする中で、そんな話まったく聞かんかったで」
「ああ。俺もその赤いフードの話を聞いたのは街の人じゃなくて、温泉の店主に聞いたんだ。ここから少し離れたところにある、〈シロケムリオンセン〉ってあるだろ?」
セイバーは、途端に訝しげな顔をした。
「温泉があるのは知ってるけど……店主? そんなんおったっけ?」
「……え?」
その言葉を皮切りに、胸がザワつき出した。
「あそこは確か、無人の温泉宿だったと思うけど……」
「……無人?」
――なら、あの子は……ラビは?
「……ありがとう。セイバーのおかげで、一歩進んだ」
俺は、受付にある引き出しから適当に部屋の鍵を取り出してセイバーへ渡した。
「部屋の鍵だ! 俺は〈シロケムリオンセン〉へ向かう!」
「お、おおきに。だけど、もう行けるんか?」
俺はカウンターを出ようとして止まる――そうか。損害分働くまでは、ここから動けない。
そのとき、ちょうど受付の女性が戻ってきた。
「お部屋の片づけが終わりました。あなたもしっかり働いたようですし、もういいですよ。今後はお気をつけください」
女性の言葉を受け、俺はとりあえずカウンターから出てみる。
出口のほうへ向かってみるが、特に隔てるものもない。解放されたんだ。
長丁場とならなくてよかった。これで俺も動き出せる。
「それじゃ、失礼します! セイバー、ありがとよ、お前のおかげで何とかなるかもしれねぇ!」
「ええんやで! ……って、一体なんのこっちゃ?」
後半はボヤいていたセイバーだが、宿を出ようとした俺の背に向けて、さらにこう言った。
「〈プレイヤー〉のこと頼んだで、ユータ!」
改めて、俺の気持ちが引き締まる。
そうだ。この世界は俺しか終わらせれないんだ。
それができるのは、〈勇者〉だけなんだから。
「本当に、ずいぶんな役押しつけてくれたよな」
俺は誰にも聞こえないくらいの小さな声で、独り言を呟いた。




