第8話・変なところは、ゲームの設定を残したままにしやがって
「プレイヤー……? あの子も魔女の子じゃないのか?」
俺が聞くと、マキは首を横に振った。
「揚げ足取りのような推測なのですけれど……覚えていますか、勇者様。あの少女の言葉を」
どの言葉を指しているか分からず、俺はただ頭を捻った。
「――『突然出てきた魔王の手下にされただけの魔女の子を、ただ悪者と決めつけて殺そうとしてくるなんて』……あの子はそう言ったのです。でも、もし本当に魔女の子だったら、その言葉は出ないのではないですか?」
俺はそれを聞いてもまだ理解しきれなかった。
「どういうことだ? そりゃあ言うとおりだろ、魔王は突然現れたんだから」
「それは 〈プレイヤー〉から見てなのですよ。魔女の子の視点に立ったら、違うのです」
マキはケンへと視線を向け、「そうでしょう?」と聞いた。
「……ああ。以前、ユータたちに話したとおりだ。突如として生まれたのは魔女であって、魔王ではない。魔王は一度勇者に封印され、やがて復活した時に、僕らを生み出した」
それを聞いてようやく納得する。
もし本当にあの子が魔女の子だったら、魔王が突然現れたなんて言い方をしない。
魔女の子にとって、魔王の起源は、魔女なのだから。
ただ、さっきマキが言っていたように、少々強引な推察に過ぎない。魔王の始まり――魔女自体は、突如生まれたという認識なのだから。
「ケッショク……魔女の子は、ここにいないってこと?」
リアムは言った。
そうだ。三人目の赤いフードも〈プレイヤー〉の可能性が強まってしまっただけで、肝心の魔女の子の情報は一切ないことになった。
赤いフードはほかにもいる……? いや、そんなこともないだろう。
「とにかく、あのプレイヤーたちは何か知っているのは間違いねぇ。あの三人を探さないと……!」
今できることは、赤いフードの行方を追うこと。街の人の目撃証言でもなんでもいい。情報を集めるんだ。
俺たちは早速部屋を出た。しかし、廊下で待ち構えていたのは、受付にいた女性だった。
「お客様。当宿屋の規約により、あなた方には修繕分の働きをして頂きます」
「修繕分って、一体なんの……!」
と、そこまで言って、扉を――否、扉があった場所を見た。
さっきの一悶着で扉は破壊され、部屋も荒れているんだった。
「……これは俺らじゃない。ここへ来た赤いフードがやったんだ。俺らはソイツを探さなきゃならねぇ! だから頼む、事が済んだら戻るから!」
言って、俺は彼女の横を通ろうとしたが、なぜか彼女の前に見えない薄い壁があり、先へ行けなかった。
「……えっ?」
「当宿屋の規約にありますとおり、部屋の損傷があった場合、原因が何であろうとご契約者様自身が損害分を働いて返してもらう決まりになっております。よろしいですね」
「そんな理不尽な……!」
「もう一度お話を聞きますか?」
話も融通も通じない女性に苛立ちが募る。「勇者様」と、マキはそんな俺の肩を叩いた。
「ゲーム上のルールなのですよ。彼女はルールに基づいて決まったことしか言わないのです。こちらから何を言っても無駄なのですよ」
マキに言われて気づき、ようやく諦めがついた。
――クソ、魔王め。変なところは、ゲームの設定を残したままにしやがって。
マキは「ここはしかたがないのです。あとはわたしたちに任せるのです」と言って、マキは――それにリアムもケンも女性の横を通り過ぎていき、先を歩いた。
「え!? どうしてみんなは行けるんだよ!」
俺は慌てて声を上げた。
「ユータ! その人、ケーヤクシャサマって言ってた!」
「おそらく受付をしたユータだけが対象なんだろう。悪いが、先に行かせてもらう。何かわかればこの宿へ戻ってくる」
「勇者様! 今度こそわたし、捕まえてみせるのです!」
三人はそれぞれ言い残して行ってしまった。
取り残された俺は、改めて女性のほうを見た。
女性は変わらない口調で言う。
「もう一度お話を聞きますか?」
俺は深いため息とともに答えた。
「……いえ、働いて返します」
女性はにこやかに笑むと、「ではついてきてください」と、歩き出した。
ようやく先を歩けるようになったが、さっきまでいた部屋に戻ったりはできなかった。システム上、仕事から抜け出すことはできないらしい。
ここは三人に任せるしかない。俺は仕方なく働くことになったのだった。




