第7話・魔女の子と戦うか、戦わないか
「ぐおっ!?」
突然、扉が押し寄せてきたことにより、俺はそのまま尻餅をついた。
痛みを堪えながら扉を退かすと、目の前には片足を蹴り上げた状態で立つ、赤いフードを被った人物がそこにいた。
さっきの声とあの背格好にして――少女か。
「悪いね。すぐに開けてくれないから、我慢できなかったよ」
赤いフードの少女は言うと、ベッドのほうを指さした。
「あの二人、友人なんだ。返してくれないかな?」
「……お前が、本当の魔女の子なのか?」
「返してって言ったんだけど」
互いの間の、空気がピリつく。
緊迫する中、先に口を開いたのは少女のほうだった。
「……そうだよ。魔女の子だよ。これで満足?」
じゃあ二人を返して、と少女は言った。俺はそう簡単に引き渡すまいと、少女の前立ちはだかった。
「魔女の子なら、渡せない。俺はお前から守らなくちゃならない」
「守るって何? 魔女の子が何がするっての?」
「……それは」
「勝手なこと言うなブス。魔女の子は何もしない。するとしたら……ああ、勇者を殺すくらいかな」
少女は手首を回すと、同時に自分の背丈と同じくらいの杖が光のエフェクトとともに現れ、右手に握られていた。少女は威嚇のように、杖先でダンと床を叩く。
「勇者。もしお前が魔女の子に手を出さないというのなら、わたしたちは喜んで手を引く。お前を殺そうとなんてしない」
少女の持ちかけた案に、俺は胸が締めつけられる。
それを聞き、後ろで見守っていたケンは、一歩前へと出た。
「――それは、同時に魔王の命令に背くということになるぞ」
「黙れ裏切り者。勇者を殺さずとも、勇者を魔王様の元へ近づけなければいい話だ」
少女は語気を荒らげた。
そうだ。俺を倒さずとも――魔王に勇者を近づけないという面で言えば、戦わないという選択が一番リスクが低く、条件を満たせる。
魔女の子が倒されなければ、俺らは魔王城にすら入ることができないのだから。
「さあ、どうする勇者? 魔女の子と戦うか、戦わないか」
魔女の子を倒さないと鍵が手に入らない。
だが、その魔女の子は何をした?
「……勇者という奴は酷いやつだよなぁ」
魔女の子は、さらに追い討ちをかけるような言葉を吐く。
「突然出てきた魔王の手下にされただけの魔女の子を、ただ悪者と決めつけて殺そうとしてくるなんて」
少女はまた杖で床を叩き、苛立ちの音を立てた。
「……不本意なんだよ」
答えられない。なんて答えたらいいのかわからない。
俺は、何のために魔女の子を倒す?
「……戦わないって言ってくれたら、それでいいのに。あなたは何も言ってくれないのね」
少女は、杖を横に構えた。
「気持ちはわかるよ。でも――こっちも譲れない」
少女は「〈モヤ〉」と唱えた。
直後、視界が白く覆われ何も見えないまま、意識が途切れた。
◇
……意識が戻った時は、部屋に俺たちだけがいる状態だった。
頭が痛い。俺は何をしていたんだっけ。
――俺は、なぜここにいる?
「あれ……? 何をしていたのですっけ……?」
隣にいたマキも呟いた。
「どうして僕らはこんなところに……」
「……I can’t remember」
どうやら三人も何も覚えていないようだった。
――どこかでゲームオーバーしたか……? いや、それなら、俺の記憶もないのがおかしいし、何より最後に〈セーブ〉した地点はここじゃなかった気がする……。
「俺たちは温泉に行って……それから……」
俺は記憶を辿るように、独り言を言いながら周りを見た。
「ここにいる最後の魔女の子を……」
蹴破られた扉に、乱れたベッドを見て、俺はようやく思い出した。
「赤いフードの……魔女の子! それに魔女の子を名乗るプレイヤーもいたんだ! さっきまでここに!」
なんで俺はこんな大事なことを忘れてたんだ。
俺の言葉を聞いてか、三人も記憶が戻ったようだった。
「Where is she?」
リアムは窓の外を見るが、しかしすでに誰もいなかったようだ。
「魔女の子の魔法か……。僕らは全員意識を失い、ついでに一時的に記憶を失ってしまっていたようだな」
「この部屋の惨状を見て、なんとか思い出せたって感じなのですけれど……」
俺はベッドの上に座り込んだ。
「魔女の子は……あの二人を友人って言ってたよな」
誰に言うわけでもなく、そんな言葉が出てきていた。
そんな俺にケンは言う。
「魔女の子から戦いの話が持ち上がった時、ユータは何か悩んでいる様子だったな。あれはなぜだ?」
――そうだ。俺以外はまだ知らないんだったな。
「……魔女の子が、魔王城へ入るための鍵なんだ。必ず倒さないといけない。そうでないと先へ進めないんだ」
ケンは口を挟むことなく、耳を傾けてくれている。
「でも、そんな理由で魔女の子を倒しても――殺してもいいのかって」
俺は誰かに答えを決めてもらいたくて、縋るように三人に話をつづける。
俺の中の決意は揺らいでいる。最初こそ、魔王を倒してこの世界のプレイヤーを救うと言っていたのに。
「魔女の子はどうしてあの子を友人なんて言ったんだ? もしかして、あの二人にとって、俺らでいうケンみたいな存在なんじゃないか? ただ三人で平和で暮らしたいだけなのに。俺が邪魔してるんじゃないか?」
考え過ぎかもしれない。だけど、わかっていても、考えずにはいられない。
あのプレイヤーは、この世界にいつづけることを受け入れているのかもしれない。
――それを、俺なんかが否定してもいいのか。
思考が巡る中、ベッドが揺れた感覚が入り、俺の意識は外へと向く。
いつの間にか、マキが俺の隣に座っていた。
「勇者様は優しいのです。……だけれど、優しいあまりに、勇者様はひとつ見落としているのです」
――見落としている……?
「わたしたちを気絶させ、二人を連れ去ったあの少女は魔女の子じゃない」
マキは俺を見つめて言う。
「――あの子もまた、〈プレイヤー〉なのです」




