第5話・死ぬべき運命の者をすぐに黄泉に送るのが、死神の仕事だ
「――貴様は勇者か?」
赤いフードを被ったソイツは、そう問うた。
フードを深く被っていて、その顔は伺い知れない。背格好は俺と同じくらいであるが、その声は中性的で、性別さえも見た目だけではわからなかった。
「……この格好を見て、どう思うよ?」
「それは、貴様が勇者だと見て取ってよいということ……だな!?」
フードを被ったソイツは、突然手の平の内にモーニングスターを出現させると、話終えるとともに、俺目がけてその棘だらけの球体をぶん投げてきた。
寸でのところでそれを躱し、球体は地面に深々と突き刺さる。
「お前が魔女の子か!」
「そうだ。魔王様の命により、お前を殺す!」
球体を引き抜くや、すぐにモーニングスターを構え直し、魔女の子――グリムリーパーは攻撃を図った。
「死神と聞いていたが、ずいぶん威勢のいい死神だな!」
俺は言いながら、グリムリーパーとの距離を取り、剣を構えた。
「死ぬべき運命の者をすぐに黄泉に送るのが、死神の仕事だ」
グリムリーパーはモーニングスターを振り上げ、遠心力をかけながら、球体を投擲した。
しゃがんで球体を避けつつ、今度はグリムリーパーとの距離を詰める。
――当たった時のダメージはデカそうだが……攻撃の間隔は大きい。奴が次の攻撃を仕かける前に、こちらからも攻撃する!
俺はグリムリーパーの領域まで踏み込み、剣で斬ろうとした。
――しかし。
「甘いな」
グリムリーパーは空いていた左手に、もう一本のモーニングスターを出現させ、チェーンの部分で剣を防いだ。
――二本持ちかよ!?
奴との距離が近づいたことで、フードの中の顔が少しだけ見えた。口元や手元を見て、もしかすると女性かもしれないと、俺の中で推測が立つ。
「ボーッとしてていいのかな? すぐ頭上には鉄球が落ちてきているぞ」
「なっ!」
俺の意識が、一瞬上に向いたときだった。グリムリーパーは素早く俺の顎を膝で蹴りあげ、俺の視界は曇り空に切り替わる。
だが、そこに鉄球などなかった。
「失礼。頭上じゃなくて、背後だったか」
蹴られた衝撃でそのまま後ろへ倒れていく途中見えた――俺の攻撃を防いでいる間に、もう一本のモーニングスターをこちらへ引き寄せていることに。
棘の球体が、今にも俺の顔面に直撃しそうだった。
「……っ!!」
「死ね、勇者」
俺は反射的に目を瞑った。
「――I'm here!!」
刹那、リアムの声が聞こえ、俺はすぐに目を開けた。
地面に仰向けに倒れた俺はすぐに身体を起こす。
目の前には、ギリギリのところで球体を地面に突き刺し、動きを止めてくれたリアムがいた。
直接手で防いだからだろう。リアムの手は棘で傷ついていた。
「――リアム!」
リアムは魔女の子を睨みつけながら言った。
「Found you!」
グリムリーパーはリアムの加勢に舌打ちを鳴らしつつも、
「……仲間がひとり増えたところで関係ない。一瞬で片づけてやろう」
と言い、モーニングスターを自身に引き寄せ、再び構えた。
「……助かったぜ、リアム! ……ってか、二人は?」
「それは……っ!」
リアムの言葉は、グリムリーパーの攻撃によって中断された。
「……まずはコイツを止めねぇとな」
俺とリアムは二手にわかれ、グリムリーパーを挟み撃ちにする作戦へと出た。
グリムリーパーは、瞬時にこちらの動きに反応し、自身を軸にし回転し、両手それぞれに持った二本のモーニングスターを振り回しはじめた。
――防御も兼ねた攻撃態勢か…?! だが、中心のグリムリーパーに攻撃すれば……!
俺が予測しながら、奴に斬りかかろうとした――しかし。
「《狙い撃つ鉄球》!」
回転するモーニングスターから、無数の棘が俺らに向かって飛んできた。
俺は攻撃を止め防御に切り替えるが、防ぎきれなった棘が俺の皮膚を切り裂いていく。
――それより、リアムは平気か!?
俺は横目でリアムを確認した。リアムは棘の攻撃に怯むことなく、
「気合拳!!」
攻撃を受けながら、グリムリーパーへ直進しつづけていた。
「普通は突っ込んでこないだろ、バカが!」
グリムリーパーはそう吐き捨てた。リアムの猪突猛進さには、想定外だったらしい。
リアムの拳が奴の顔面寸前まで入るが、グリムリーパーもとっさの動きで拳を掴み防いだ。
そのとき、持っていたモーニングスターが奴の手から離れる。同時に攻撃もやみ、そこに大きな隙が生まれた。
俺は地面を蹴りあげ、一気に間合いを詰める。
「しまっ……!」
グリムリーパーはもう片手に握り締めていたモーニングスターで俺を攻撃しようとするが、リーチの長いその武具ではもう追いつかない。
俺はグリムリーパーの後ろに回りこみ、その首に、剣の柄の部分を叩き入れた。
グリムリーパーは意識を失い、そのまま地面に倒れた。
「……とりあえず、なんとか事は収まった、な」
グリムリーパーが完全に気を失っているのを確認し、そう呟いた。
「リアム、怪我は平気か?」
リアムはさっきの攻撃で全身切り傷を追っていたが、本人は気にしていない様子で、笑顔で「I'm great!」と答えていた。
よかった。リアムの受けたダメージは致命傷とまでならなかったようだ。あとでマキと合流したときに、回復魔法をかけてもらおう。
「ユータこそ! 倒したのか!?」
リアムは聞いてきたが、俺は首を横に振って答えた。
「気絶させただけだ……。そういえば、さっきの話の続き、聞かせてくれ。どうして二人はいないんだ?」
リアムは「Actually…」と言うと、困惑した顔を浮かべた。
「市役ところに向かっていたとき、二人赤いフードの人が見えて…マキとケンは追いかけたんだ」
「赤いフードが二人……?」
どういうことだ?
――俺の目の前にもいるわけだが……魔女の子は、三人いるというのか?
「それで、オラは一旦ユータのところに戻ってきたんだ! 危なかったってやつだ〜」
一体何が起きているのだろう。
今までは魔女の子がひとりずつしか存在していなかったわけだが……ここにきて、複数人なんてことがあるのか。
ケンから話を聞いた限りでは、どうもひとりにしか思えないのだが……。
「状況はわかった。……となれば、とりあえず、まずはコイツがどんな奴だか知らなきゃならねぇ」
俺は言って、目の前で横になっている魔女の子に視線をやった。
俺は顔を見るため、慎重にそのフードを脱がす。
リアムも俺の向かいに座り込み、奴の顔を覗き込んだ。
俺が推測していたとおり、その人はショートカットの女性だった。見たところ、二十代前半くらいだろうか。首には、黒い首輪をつけていた。
「……この人……」
俺はそっと女性の肩に触れながら、相手の〈STATUS〉を閲覧した。
名前は――『ヨイ』。〈JOB〉は〈女騎士〉。
――これって、つまり……。
「――魔女の子じゃない、〈プレイヤー〉だ」




