第4話・それを聞いてお前はどうする?
――〈ピエリス市〉。
ヨーロッパ風の街並みが広がり、所々には雪が積もっている。市の中央に位置する広場では楽器を奏でる者がいたり、ベンチに座り読書をする人、駆け回って遊ぶ子供など様々な人の憩いの場となっていた。
その周りにはオシャレなカフェやバーなどの店もあった。ゲームに閉じ込められた状況じゃなければ、ゆっくりと回りたいものである。
「このどこかに魔女の子が……」
赤いフードを被った人物というのはまだ見られない。
「この先を真っ直ぐ歩くと、〈ピエリス市役所〉というのがあるらしいのです。もしかしたら、そこへ行けば何か手がかりをつかめるかもしれないのです」
マキの意見に同意し、俺らはひとまず〈ピエリス市役所〉まで行くことにした。
「えーん、えーん」
その道中、ひとりの女の子の泣き声が。
その女の子の近くの木に、風船が引っかかっているのを見つけた。風船を失くしてしまって泣いているんだ。
「ゲームでいう、ミニイベントってやつかな?」
リアムは言った。そうかもしれない。彼女は小さな子供の 〈プレイヤー〉 ってわけでもなさそうだし。
特に、魔女の子探しには、関係があるようにも思えないが……。
「……見逃すなんて、そんな冷たい大人になった覚えはないぜ」
俺は三人に言う。
「俺、ちょっくらあの風船を取ってくるからさ、みんなは先に行っててくれ」
三人は、やっぱりそう言い出すと思った、というような顔をした。
「了解なのです。ここは勇者様に任せるのです!」
三人は市役所へと向かっていった。
木はそんなに高くない。俺は少し助走をつけてからジャンプし、風船を掴んだ。
「よっと」
俺は、泣いている少女に、風船を手渡す。
「ほら、ちゃんと風船は戻ってきたぜ。よかったな」
少女は泣きやみ、風船を受け取ると、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう! おじちゃん!」
「おじちゃんって歳に見えるかなぁ」
俺は苦笑いしつつ答えて、三人を追おうとしたときだった。
「ね、おじちゃん」
「なんだ?」
少女は俺に近づき、再び顔を上げた。
「……っ!」
すでに、その目は赤色の目に変化していた。
「……ま、魔王……!」
「――ひとつ、教えておくことがある」
言って、魔王は手にした風船を手放した。
風船は、あっという間に空高くへ飛んでいってしまった。
「魔王城へはなぁ……『鍵』が必要なんだよ」
「か……鍵?」
魔王は話をつづける。
「元々この世界には魔王城なんてものもないしな。我が魔王城を作るにあたって、この世界の裏側に作ることにしたんだ」
「……裏側?」
「お前らの目には普段見えない部分だよ……舞台の裏だ。我はそこでいつもお前らを見ている。そこへ行くには条件があってな」
少女に扮した魔王は自分の胸に人差し指を突き立てた。
「この地にいる最後の魔女の子――『グリムリーパーの心臓』が必要だ。アレがないと、まず我が城に入ることは叶わない」
――グリムリーパー心臓……!?
あまりにも俺の表情が引いていたのだろう。魔王はけらけらと笑って、言う。
「心臓と言ってもお前の想像するようなリアルなものではないよ。ただの赤い玉だ。アレが我が城の鍵になる」
「……その心臓を取るには……魔女の子を倒せばいいってことだよな?」
「ああ、そうだ。だが、お前わかっているのか? 魔女の子を倒すということは――言い換えれば、魔女の子を殺すということなのだよ」
「そんなことわかりきって……」
俺が言い切る前に、魔王はさらに顔を近づけてきた。
「お前は、何も罪を犯していない魔女の子を殺すのか?」
その言葉は冷たく鋭く耳に突き刺さった。背中にいきなり刃物を突き立てられたような錯覚に陥るほどに。
「言っておくが、鍵を使う以外の方法で、我の元には来れない。このまま魔王城の前で立ち往生するか、魔女の子を殺し鍵を手に入れ、我の元に来るかの二択だ。我はそれ以外の道を用意する気はない」
魔王はニヤリと口角を上げた。
「ま、魔女の子は勇者を殺そうとしてくる存在だから……そう考えれば、魔女の子を殺す理由にはなるだろうがな。さて、それを聞いてお前はどうする?」
「今……までの俺は、どうしてたんだ?」
魔王はじっと俺を見て、それから目を逸らした。
「過去は関係ない。今は、今のお前の選択で決まるのだから」
魔王はそのまま俺に背を向けた。
「今回も楽しませてもらうぞ、勇者。お前がどんな物語を見せてくれるのか」
そう言って、歩いて行ってしまった。
なぜ、魔王は突然そんなことを言ってきたんだ。言われなければ、俺は……俺は、何も疑うこともなく、魔女の子を手にかけていただろうに。
そういえば今までも、ケンは例外として、ドンキーフールの時も、ハンドレディの時も、俺の敵だからという理由で倒してきた。
でも、ドンキーフールもハンドレディも、この世界の住人を巻き込んでいたのは確かだ。俺はそのためにも戦った。
――なら、今回の魔女の子、グリムリーパーは?
「…………」
俺は一度思考を止め、再び市役所へと向かおうとした。
「――貴様は勇者か?」
そのとき、背後から声をかけられた。
振り向いた先には――赤いフードを深く被った人物がそこにいた。




