第3話・赤いフードを被った人
「ごめんなさいなのです……。ケンちゃんまで雷撃に巻き込んでしまって」
「いや、僕も二人を見逃していたから同罪さ……すまない」
温泉から上がった俺らはロビーの小休憩スペースにて寛いでいた。テーブルの上には、温泉宿にあった販売機で購入した三本のコーヒー牛乳と一本のいちご牛乳が置いてある。やっぱり風呂上がりにはコーヒー牛乳だろう。一本だけあるいちご牛乳はマキの分だ。こっちのほうが好みらしい。
マキはケンを癒すようにていねいに〈ヒール〉をかけていた。
「マキー、俺らにもあとでかけてくれよー」
「二人は自力で回復するのです!」
マキは頬っぺを膨らませてそっぽを向いてしまった。いちご牛乳だけでは完全に機嫌を直せなかったらしい。しかし、うん。何も言い返せない。今回は俺らが悪い。
「さて、ここからどうするか」
ケンは窓の外を見ながら言った。
「そうだなー」
俺は言いながら、『セーブ完了画面』をただボーッと見つめていた。
「手がかりすらないってやつだ〜」
リアムは言って、コーヒー牛乳を一気に飲み干した。
「ビビ! 温泉はどうだったラビか?」
寛ぐ俺らを見兼ねてか、ラビさんは大きな耳をヒョコヒョコと動かしながらそう聞いてきた。
「最高だったのです! 久しぶりにお風呂に入れてリラックスできたのですよ!」
マキはにこやかにそう答えた。
ラビはうれしそうに頷くと、
「それはそれはよかったラビ。途中落雷みたいな音がしたから何事かと思ってたけど……特に何もなさそうならいいラビ!」
俺とリアムは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「お客さんたち、なんだか見ない顔ラビけれど、どこから来たんラビか?」
どうやらラビは、俺らのことを知らないらしい。
「俺らは……まあ自分で言うのもなんだけど、この世界を取り戻しに参上した勇者たちってところだ」
「へぇ〜! ちなみにさ、剣持ってる普通の顔した君が勇者なの?」
「そうだぜ! ……って、普通の顔ってなんだ、普通って」
――そんな悪くない顔してると思うけどなぁ。
と、そんな俺の内心を察したのか、マキは小声で、「勇者様はカッコイイのですよ」と言ってくれた。天使である。
「それじゃあ、君たちは勇者御一行様ってわけラビか! いいなぁ、仲間とともに冒険なんて」
ラビはそう言いながら、羨ましそうな視線を送った。
「Will you come along with us?」
そんなラビの表情を汲み取ってか、リアムが突然そう誘うと、ラビは「……ふぇ?」と固まってしまった。
「急にそんなこと言われたら、相手も困るだろう」
ケンに言われ、リアムは「そうか!」と笑った。本当、リアムは思いつきのまま話すんだから。
「……そ、そうラビか。急にビックリしちゃったラビ」
ラビは耳をひょこひょこ動かしながら言った。
「うちのリアムさんが失礼しましたなのです。というか、そもそも温泉宿の店主なんだから、ここから動けないと思うのですよ……」
マキはリアムを見ながら言った。リアムは「そうか!」とまた言ったが、首を傾けていた。多分その意図を完全に理解していない。
マキが言いたいのは、相手は〈NPC〉なんだから自由に動けないだろうと言うことだろう。
まあ、そんな話は置いておいて。俺は別の話題を振ることにした。
「……ま、いいや。そんなわけでさ、実は俺たちは今、魔女の子ってのを探してるんだけど、ラビは何か知らないか?」
「魔女の子……ああ、各国に現れたって噂の……だよね?」
「そうそう。ま、その魔女の子もようやくここで最後のひとりになったわけだ」
「……! へぇ〜すごいラビね、勇者は!」
ラビは言って、何か考えるように口元に手を当てる仕草をした。
「魔女の子……ラビねぇ」
「些細なことでもよいのです。何か知っていることはないですか?」
ラビはしばらく悩むような仕草をしたあと、答える。
「そういえば最近、〈ピエリス市〉で不審者が現れたという噂があるラビ」
「不審者?」
「赤いフードを被った人……その人は街ゆく人に聞くらしいラビ。『勇者はどこだ?』……って」
俺らは一度顔を見合せた。
「……勇者様を狙っているのなら、そうかもしれないのです」
俺らはその〈ピエリス市〉に行ってみようという話になった。
「〈ピエリス市〉はあそこに見える塔に向かって真っ直ぐ歩くラビ。でも気をつけるラビ、怪しい奴は何をしでかすかわからないラビ」
「大丈夫さ、むしろ返り討ちにしてやるぜ!」
俺は言うと、ラビは小さく笑った。
「返り討ちラビか。さすが勇者ラビ!」
新たな情報を掴んだところで、温泉宿をあとにすることにした。
――今回の敵は全く素性を知らない。慎重に挑まないとな。
俺らはラビと別れ、〈ピエリス市〉を目指した。




