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【完結済】神風勇太はたった一人の勇者となる  作者: みおゆ
第四章・シロケシキノチ
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第2話・元に戻してしまったら

「あ〜ごくらくごくらくぅ〜」


 そんな俺の寛ぎの声が、寒空に木霊した。


「オラ、オンセンはちょっとテイコウあったけど、入ってみるとめっちゃNiceだなー」

「僕も実際に入るのは初めてだ。中々よいものだな」


 俺ら男三人は今、仲よく露天風呂を満喫中だ。


 露天風呂(ここ)から眺める雪原なんて最高だ。

 まるで旅館に来た気分だ。


 しかもほかのお客さんもいない。完全に貸切状態だった。


「いっい湯〜だな〜なのです〜♪」


 竹垣の向こうからマキの歌声が聞こえた。マキもちょうど今、隣の女湯で露天風呂を楽しんでいるんだろう。


「マキは上機嫌だな」


 ケンは微笑みながらそう言った。


「久々の風呂だからな。ホントだったら、毎日風呂に浸かりたかったはずだ。女の子だし」


 ちょっと前まで魔女の子との戦いがあったんだ。少しくらいのんびりしよう。


「そーいや、最後のひとりの魔女の子って、どういう奴なんだ?」


 俺はケンにそう聞いた。


 以前、ケンから名前だけは聞いているが、ソイツがどんな奴かはまったく知らない。

 ハンドレディのように毎度姿を現すような奴とは正反対で、北エリアの魔女の子に関してはまったく情報がない。


 ケンは申し訳なさそうに目線を下げ、水面に映る自分を見つめた。


「……それが、僕も知らないんだ。ドンキーフールも、ハンドレディもまだ面識があったのだが、アイツだけは会ったことがない。僕が知っているのは、奴が『〈死神〉・グリムリーパー』だということくらいだ」


「し……死神?」


 恐ろしい呼ばれに、俺は思わずそんな相槌を洩らした。


「Grim Reaper……そのまんまってやつだ……」


 リアムは怯えた表情で呟いた。


「奴の攻撃スタイルは一切知らない。誰とも関わろうとしない奴だったから。ただ、一番魔王には気に入られていた。北の国に彼を配置したのも、最後の砦としてだろう。ここを破られれば、そのすぐ先は魔王城だからな」


 つまり、簡単に言っちまえば今までより、一番強いってわけか。


 相手が見えないって言うのは結構怖いが……だが、幸い俺は何度もやり直しができる。


 〈リセット〉せざるを得ない状況にさえならなければ、勝機を失うことはない。


 確実に平気な時にだけ 〈セーブ〉をしよう。とりあえず、風呂に上がったら……だな。ここまでの雪道を、またやり直すのは勘弁だぜ。


「――ユータ。今までもそうだったが、今後も負担をかけるかもしれない。見えない敵な分、よりユータに頼らざるを得ないかもしれない。だが、ひとりで請け負わずできる限り僕を利用してほしい」


 ケンは真っ直ぐ俺を見つめながら言った。俺は恥ずかしさやうれしさも感じつつ、口角を上げる。


「利用って……言い方卑下しすぎだぜ」

「すまない。ほかの言い方が思いつかなかった」

「ははは。お前らしいけどさ。ま、頼りにさせてもらうぜ、ケンちゃんよ」


 俺は笑いながらそう言った。


「ユータ! オラもBattleなら任せてくれ!」


 リアムは腕を上げながら言った。


「ああ。バトルに関しちゃ、全力で頼らせてもらうぜ」


 言って、改めて、ゆっくりと肩まで湯に浸かり、目を瞑る。


 ――コイツらと出会えて、本当によかった。こんな絶望的な状況でも、困難がぶつかってきても、こうして楽しく笑える。


 絶対にやり遂げなきゃな。魔王を倒して、ゲームをクリアするんだ――現実世界に戻るために。


 この世界の崩壊は、今も隣り合わせなのだから。

 崩壊を迎えてしまったら、それこそ魔王の思う壷だ。


 ――でも。エンディングを迎え、すべて元に戻してしまったら。


 ふと、リアムとケンを見つめた。

 マキの顔が脳裏にチラつく。


「…………」


 ――何考えてんだ、俺。


 エンディングを選ばなきゃ、みんなここでゲームオーバーだ。それこそ、一番最悪のシナリオだろう。


「ユータ!」


 突然リアムに呼びかけられ、俺の心臓が小さく跳ねた。


 リアムのほうを見れば、何やら竹垣に視線をやっている。


「? どうしたよ、リアム?」


 俺は考え事をすぐに止め、聞き返した。


「どーしたじゃないってやつだ。ユータこそ、気になってるだろ?」


 俺はリアムの視線の先を見つめた。隙間なく竹が立ち並ぶ竹垣だが、一箇所だけ小さな隙間が空いていた。


 竹垣の向こうは女湯が広がってるはず――はっ! つまりはっ!


「…………」

「…………」


 俺とリアムは互いに黙り、見つめ合い、そしてその場で立ち上がった。


「……『漢』として、あの深淵を覗くことは恥ずべき行為だけどよ……」

「Yes……だけど、ひとりの『男』として、気になるってやつだろう?」


 俺はふっ、と鼻息を鳴らして、リアムの肩に手をかけた。


「本能には逆らえない……よな!」


 俺とリアムは竹垣の方へ身体を向けた。そして、その未知の世界を覗き込もうと湯から足を踏み出した、そのときだった。



「〈ライデンマ〉!」



 温泉に向かって、一直線に雷が落ちた。


 電気は水をよく通す。そのせいあって、一瞬で俺らの身体に電撃が走った。


 全身が白い光に包まれ麻痺し、激痛に支配される。


「「ギャァァァァァ!!」」


 俺とリアムの悲鳴は、この白い雪原いっぱいに響き渡ったのだった。

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