第28話・こんな楽しい日々が続くのは悪くないよな
「本当にありがとうござりいす。ずいぶんと、遊郭も片づいたでありんすよ」
遊郭前。
鷹尾太夫と紫さん、それに遊女たちも集まっていた。
「せっかく手伝ってくれたなんし。魔女の子退治のお礼も兼ねて、わっちらよりおもてなしさせていただきたいでありんすが……今晩は、泊まっていくでありんすか?」
鷹尾太夫は、そう提案した。
思ってもみない提案に、俺は「え!? それじゃあ……」と誘いに乗りかけるが、しかし、
「大丈夫なのです。わたしたちは、まだ魔女の子のいる北の国へ行かなくてはならないのですから」
と、先にマキがハッキリと断ってしまった。
「そうなんしか。やはり、勇者一行様は立派でありんすなぁ」
俺は内心泣きながら、「え、ええ。そりゃあ勇者ですから」と口では言った。
「ふん。残念だったな、勇者。かわいいガールフレンドに邪魔されて」
紫さんは俺の内心を見透かした上でそう揶揄した。
鷹尾太夫はそんなやり取りを見て微笑んだ。
「ふふふ。では、ここでお別れなんしね」
鷹尾太夫は言って、地面に膝をついた。紫さんと遊女もそれに倣って膝をつく。
「最後は、花魁らしく見送らせていただくでありんす」
鷹尾太夫は乱れのない所作で、手をついた。
「それでは、いってらっしゃいませ。ご武運を」
鷹尾太夫は言い、続いて紫さん、遊女たちも深く頭を下げた。
「――ああ。必ず、この世界を元に戻すよ」
俺はそう言って、仲間を引き連れてその場を去った。
鷹尾太夫たちは、俺らを見送る最後まで、頭を下げつづけていた。
◇
〈ユウカクガイ〉を出て、俺らはいよいよ残すところ最後となった、北の国――〈シロケシキノチ〉 へ向かっていた。
以前、東エリアから〈ニードル王国〉まで行くに利用したあの地獄のフライト――あれを使うのもひとつの手かと考えたが、どうやら、俺らが行ったことのない場所へは行けないらしい。「どこだそこは?」と、言われてしまった。
そこはゲームらしいというかなんというか。
「次行くところは、どんな感じなのですかねー?」
「僕は情報だけなら知っているが――」
「No! ケン! それはネタバレってやつだ!」
「ネタバレ……?」
そんな感じで、三人は楽しく会話している。
俺は、あることがひとつ気になり考えていた。
ハンドレディとの戦いの時こと。最後〈エキドナ〉によって、最悪の事態から救われた。
あのとき聞いたエキドナの声、あれは。
――魔王の声に、似ていた。
偶然か、それとも必然か。
あれはもしかして、魔王だったのか?
だとしたら、魔王はどうして……。
―― 『お主はもうわかっているのじゃろう?』。
テオドロス王女に言われた言葉。
わかっているなんて、よく知ったような口を聞いてくれる。
――俺はそんなの……わからない。
「――勇者様は、どっちなのですか?」
考え事の中にふと、そんなマキの声が割り込んできた。
俺は考え事を中断し、三人を見た。
「……ごめん、聞いてなかった。なんの話?」
「Oh well……ユータはすっとこちょいちょいってやつだな〜」
「リアム。おそらくだが、その『すっとこちょいちょい』は『すっとこどっこい』と『おっちょこちょい』が混ざってないか?」
ケンの冷静な指摘に、リアムは「そうか!」と元気に答えていたが、たぶん頭に入っていない。
マキはそんな男二人の会話を聞き流しながら、こう答える。
「鷹尾太夫さんとテオドロス王女、どっちのお姫様派かって話をしていたのです! 勇者様はどっち派なのですか?! ちなみに、ケンちゃんとわたしが鷹尾太夫さん派で、リアムさんがテオドロス王女派なのです!」
いつの間にそんな話になっていたのか……と思いつつ、俺は少し考えた。
鷹尾太夫は、美人だし、大人な魅力もあって、その色気に惹き込まれるし……。テオドロス王女だって、負けずに美形だし、その喋り方もさることながら、全体的に小動物みたいでかわいらしい。
うーん、としばらく真剣に悩み、俺は答える。
「テオドロス王女かな」
「「「やっぱり〜〜〜」」」
予想どおりだったのか、三人は声を合わせて言った。
「やっぱり、ユータはロリコンってやつだ」
「もうわかっていたがな」
「変態さんなのです!」
口々にそう言いながら、みんなは笑った。
「お前ら、ホント言ってくれるよな。俺は一応、勇者なんだぜ?」
俺もそう言って、みんなに混じって笑った。
――ゲームの世界から出られなくても、こんな楽しい日々が続くのは悪くないよな。
そんなことを思ったりして。




