第27話・遊郭が完璧に直るまで、まだまだ時間がかかりそうでありんすなぁ
「……庭園損害費一千万、建造損害費八千万、建造修復費及び装飾費二億三千万――色々込みで、六十億ゴールドってところでありんすな」
鷹尾太夫は言って、一枚の請求書を俺に差し出した。
「……え? これなんスか?」
「賠償金でありんす。散々遊郭を荒らしてくれたでありんすからなぁ。魔女の子もいなくなった今、次に請求を求める先と言ったら、勇者だと思ったなんし」
「……え? え? でも桁が小学生が考えたみたいな数字になってますよ? これマジっスか?」
俺は請求書を握り締め、鷹尾太夫に訴える。
「ってか! 俺だって、魔女の子倒すのに必死だったンスよ! それなのに賠償しろなんて酷い話じゃないッスか〜!!」
そう言わずにはいられなかった。
鷹尾太夫は口元に手を当てながらお上品に笑い、それから「裏を見るなんし」と言うので、請求書の裏を見た。
『ドッキリ大成功! でありんす。』
と、裏にそう書かれていた。
「うふふ。本物の請求は〈ニードル王国〉のほうへしているでありんすよ。魔女関連の被害は全部あっちが引き受けてくれる約束なんしから」
「あー……そうなンスね。俺はてっきりガチで取り立てられるかと思いましたよ……」
鷹尾太夫もお茶目である。下手したら心臓が止まりかねないドッキリをしてくれる。
でも、テオドロス王女はこんな高額な請求書を見てどう思うんだろう。さすがの王女様でも、あんな多額の請求書を見てビックリするんじゃないだろうか。
鷹尾太夫はふと、ポッカリと穴の空いた天井を見上げた。
あのとき、紫さんがハンドレディを攻撃した際にできた穴である。
「遊郭が完璧に直るまで、まだまだ時間がかかりそうでありんすなぁ」
屋根が直るまで、雨は降ってほしくないでありんす、と言って、鷹尾太夫はまた笑った。
その美しく魅力的な笑顔を見て、ああやっぱり遊郭一の花魁なんだなぁと思いつつ見蕩れていると、背後からピシャリと襖の開く音がした。
「おい、勇者! 貴様も手伝え! 貴様の仲間たちは積極的に働いているというのに!」
紫さんだ。
「あーはいはい。俺も行きますよ」
「『はい』は一回だ! まったく、本来だったら、そこに座るには十億払ってもらうのが道理なんだからな!」
「あれ?! なんか倍になってません?! 俺が最初聞いたときは五億だったンスけど!?」
「うるさい! 足を動かせ!」
紫さんに尻を蹴られ、俺は階下へと移動する。
魔女の子も消え、平和の訪れたこの国だが、それでも日常がすぐに戻るわけではない。
ハンドレディとの戦いで損傷した遊郭は、戦いの終わりと同時に元通りに直ることはなく、今も遊女たちは片づけに勤しんでいた。
――そして、なぜか勇者一行である俺らも手伝わされている。
ゲームなんだから、そのくらい一瞬で片づいてくれないかと思うのだが、なぜかこういうところは現実的だ。
「あ! 勇者様! どこに行ってたのですか!?」
一階のメインロビーまで降りると、ホウキをはいていたマキがこちらに気づき、腰に手を当てながらそう声をかけてきた。
「ちょっと鷹尾太夫のところにな」
そう答えると、ゴミを運んでいたリアムがそれを聞きつけ、こちらへと近づいてきた。
「Come on! ユータ! なんかイイコトでもしてきたのか?」
リアムがからかい気味にそう言う。マキが「イイコト……?」と不機嫌なオーラを出し、ホウキを握り締めはじめたので、俺はすぐに、「違う! 普通に話をしてきただけ! 業務連絡!!」と慌てて説明した。
そのとき、遠くから色めき立つ声が耳に入った。
遊郭内で花魁道中か? と思いながら声のするほうへ行くと、遊女に囲まれたケンが見えた。
「あの! 遊郭が再開したら呼ぶので、ぜひわたしと付き合ってくれませんか?」
「わたしも! ぜひをわたしのところについてほしいです!」
「ひと目見たときから素敵だと思ってました! 一時間だけでいいんです、付き合ってくれませんか?」
ケンは、遊女たちに囲まれて黄色い声援を浴びせられていた。
「いや……あの、僕はあまりこういったのに興味は……。それに、今はこれを片づけなくてはならないから」
ケンはそう断り、遊女たちの間をすり抜け、こちらへと歩いてきた。
「あ、ユータじゃないか。ちょっとあっちの片づけを手伝ってくれないか? 結構散らかっていて……」
「そんなことより羨ましいな、お前はよぉ!!」
――めちゃくちゃ遊女からモテてるじゃねぇか! なんだ、顔か!? 顔なのか!?
そんな俺の気持ちを受け止めるかのように、リアムは肩に手をかけた。ありがとうリアム、味方はお前だけだぜ。
「あ、いたニャ! おーい!」
そこへ、また別の方向から声をかけられた。ムギちゃんが元気よくこちらへ駆け寄り、その後ろをソラちゃんがついてきていた。
昨日とは違い、もう二人は黒いローブに身を包み、普段の時の格好をしている。
「ウチらもそろそろ帰るからさ、最後に挨拶をしに来たニャ〜」
「東の国のメインである遊郭も、しばらくは遊べなさそうだしね」
「ソラちゃんは遊郭で遊ぶ歳じゃないでしょうが」
俺はそうツッコミを入れてから、改めて二人を見た。
「ありがとうな、二人とも。二人の協力のおかげで助かったよ」
「いえいえ〜! 困った時はお互い様だニャ! ウチら、『超仲間』だもんね!」
「超仲間?」
「超絶仲良しの仲間! 超仲間! ニャ!」
若い子のノリはイマイチわからないが、まあ仲よしと思ってくれているならいいだろう。
「じゃ! またね、みんな! 次も何かあったら呼んでよね!」
「それじゃあ、また。ユータ、どうせいくら積んでもモテないんだから、遊郭遊びは程々にしなさい」
二人はそう別れの挨拶をして、遊郭を出ていった。最後のソラちゃんの言葉は、相変わらずソラちゃん流の毒が込められていたが……もう結構耐性はついた。むしろ毒を浴びたいくらいだ。
二人を見送ってから、俺は思い切り背伸びをする。
「さて、いっちょ気合い入れて頑張りますかな。雑巾がけレース一位の実力をみせてやるぜ」
そんなこんなで、その日は丸一日かけて遊郭の片づけに励んだ俺たちなのだった。




