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【完結済】神風勇太はたった一人の勇者となる  作者: みおゆ
第三章・ヨシワラトウゲンキョウ
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第25話・倒せたと思った?

「ミンナ! ミンナ! アタシの邪魔スるのネ!!」


 ハンドレディは怒り、声を荒らげた。


 それに呼応するように、十本の触手が伸び、俺に向かって伸びてくる。


「――させるか!」


 紫(むらさき)さんは十手を使い、すべての触手を跳ね返した。


 さすが〈ユウカクガイ〉の番人、その強さは伊達じゃない。


「ヤめてよ! アタシはソイツをコロスの!!」


 ハンドレディは、一旦標的を切り替え、紫さんに攻撃を向ける。


 うねりを上げる触手が紫さんを襲う。だが、一方の紫さんは落ち着いた様子で、その一本一本の攻撃に対して、確実に捌いていく。

 流れるような動きで、すべての攻撃を防ぎ切った――そう思ったが。


「紫! まだ来るなんし!」


 鷹尾太夫(たかおだゆう)が声を上げた。


 紫さんはすぐに顔を上げたと同時に、触手の隙間から、ハンドレディが顔を覗かせた。


 目と鼻の先で、二人の顔が合う。


 ハンドレディは紫さんに掴みかかり、そのまま地面へと押し倒した。

 その衝撃で、紫さんの手から十手が離れてしまう。


「しまっ……!」

「アンタをコロして! それから勇者を殺すワ!」


 ハンドレディはその両手で紫さんの首を締めはじめた。


「紫さん!!」


 紫さんはもがきながら、ハンドレディの腕に爪を立てるが、それも虚しく、ハンドレディの力が緩むことはない。


「やめろ! 紫さんを離せ!!」


 俺は叫びながら、必死で身体を動かそうとした。手を伸ばそうとした。だが、身体はまったく動かない。動かせない。


 ――ダメだ。ひとりも死なせるわけにはいかないんだ。せっかく一度は奴を追い詰めたのに、これじゃあ……!


 抵抗していた紫さんの力が弱まっていく。このままじゃ、紫さんも時間の問題だ。


 ――まだ三分経たないのか!? 時間は、とっくに……!


「クソ! クソ!! 誰か、誰でもいいから……!!」



 ――助けてくれ。



「アハハハハ!! さ! このまま無様に死になさイ!!」


 ハンドレディは笑い声が響かせていたが、突然ピタリとその声はやんだ。


「アハ、ハ……?」


 ハンドレディは動きを止めて、ゆっくりと顔を上げた。


 ハンドレディの上半身には、痛々しいくらい無数の矢が突き刺さっていたのだ。


「……何、アンタら」


 ハンドレディは周りを見ながら呟いた。


 遊郭を取り囲む塀に立つは、避難しているはずの遊女たちだった――よく見れば、そこにはムギちゃんとソラちゃんの姿もあった。

 彼女たち全員の手には、弓が握られていた。


「みんな、〈ユウカクガイ〉の一員として立ち上がりたいって言うから、連れてきたの」

「大正解だったニャ! なんとか間に合ったみたいだし!」


 塀の上から、ソラちゃんとムギちゃんはそう言った。


 ハンドレディは紫さんから離れ、ヨロヨロと立ち上がった。

 ゆっくりと覚束ない足取りで、俺の元へと歩いてくる。


「……こんな矢、どうってことないのよ」


 言いながら、ハンドレディは背に刺さっていた矢を一本抜いた。


 全身から青い血を流しながら、それでもハンドレディは俺を捉えて離さない。


 いよいよ目の前まで来ると、ハンドレディは俺を見下ろして、矢を持つ腕を振り上げた。


「……アンタは、絶対に」


 ハンドレディはニヤリと口角を上げた。


 俺は、それでも目を離さない。


 ――もう、結果は決まっている。


「勇者は…………アタシ……が」


 ハンドレディは言い、矢を振り下ろそうとしたところで、そのまま横へ倒れた。


「……ヒヤヒヤしたぜ。三分過ぎても動いていたんだからよ」


 ――ハンドレディの勝ちへの執着心。それは呪術の効果時間を無視するまでに強かったらしい。


 ムギちゃんたちが最後駆けつけてくれなかったら、本当におしまいだった。


 また俺は、仲間に救われたんだ。


「……一時はどうなることかと思ったが、無事、魔女の子を退治できたみたいだな」


 紫さんはハンドレディを覗き込みながら言った。


「ああ。ホント、みんなのおかげだ」


 ふと俺は身体を動かしてみる――ハンドレディを倒し、呪いが解けたのだろう。今はすっかり身体を動かせるようになっていた。


「勇者様ー!」


 マキたちも呪いから解放されたようだ。うれしそうに走り、俺の元へと駆け寄ってきた。


「勇者様! もうダメかと思ったのです! やったーなのです!」


 マキはバンザイしながらピョンピョン跳ねていた。ここへ来て、一番のかわいさである。


「Great! 今回もCleared the level! だな!」


 リアムも歯を見せて笑った。


 しかし、ケンだけはまだ警戒している様子で、ハンドレディを見下ろしていた。


「どうしたんだよ、ケン? まだ何か気になってることでもあんのか?」


 俺が聞くと、ケンは口元に手を当てながら答える。


「……ああ。倒せた……はいいが、さすがに長いと思わないか? いつまで、ハ(・)ン(・)ド(・)レ(・)デ(・)ィ(・)の(・)死(・)体(・)が(・)あ(・)る(・)?」


 ケンに言われ、気づく。


 ここはゲームの世界。倒した敵は、本来すぐに消えていくのがルールだ。そのはずなのに、ハンドレディはまだこの場に倒れていつづけている。


「……そう、ですね。ケンちゃんの言うとおりなのです。それに、倒したはずなら……」


 マキは言って、俺を見つめた。


 ――そうだ。倒したはずなら、経験値が入ってくるはずだ。


 〈リザルト画面〉は未だ表示されていない。


 俺は試しに、〈SKILL〉から〈ロード〉を立ち上げてみるが、そこに出てきたのは、〈戦闘中・操作不可〉の文字だった。


 俺らは、まだ倒せてないのか? まだ、ハンドレディは――。




「――勇者は、アタシが倒すのよ」




 それは間違いなくハンドレディの言葉だった。だがそれは、紛れもなく別の者の声だった。


 俺らは、声のしたほうへ視線を集中させる。その先に立っていたのは――花魁、鷹尾太夫。


「……本当に、忌々しい魔女だ」


 紫さんは呟いた。


 鷹尾太夫――否、も(・)う(・)鷹(・)尾(・)太(・)夫(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)ソ(・)イ(・)ツ(・)は、気持ち悪い笑い声を上げた。


「What happened?」


 リアムは言ったが、リアムだけでなく、薄々みんな察しがついていた。


「花魁の身体も別にいいってもんじゃないわねー。やっぱり自分の身体が一番だわ。ま、もうアンタらのせいで使えないのだけれど」


 鷹尾太夫――ハンドレディは、ほくそ笑んだ。


「倒せたと思った? 残念、アタシって保険に保険をかけておく主義なのよ」


 鷹尾太夫は自身も呪われたと話していたが、そうか、こういうことだったのか。


「……保険ってのは、これのことだったのかよ」


 俺は奥歯を噛み締め、もう鷹尾太夫ではなくなったハンドレディを睨みつけた。

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