第24話・この〈ユウカクガイ〉を踏み荒らした罪、しかと受けてもらおうか――魔女の子よ
「アハハハハハハ!!!」
ハンドレディは甲高い笑い声を上げて、俺に向かって一直線に駆け出した。
距離を詰めると、すっかり再生したその触手で、俺を叩き潰そうとする。
俺は剣でその触手に斬りかかるが、触手は斬れず、むしろ刃が跳ね返された。
――〈呪療解放〉 の効果だ。自身の限界以上に強化されているから、今はもうどの攻撃も通用しねぇ!
ハンドレディは、続けてもう一本の触手で俺を突き飛ばした。
身体に、重い衝撃が走る。
――やべっ、モロにくらっ……!
俺はされるがまま、地面の上を転がった。
「勇者様!」
マキはそんな俺を回復させようと、こちらへ走ってくる。
その後ろには、狂ったようにこちらへ近づくハンドレディが見えた。
「マキ! 今こっちに来ちゃダメだ!」
俺は言ったが、遅かった。マキはハンドレディに背中から体当たりを受け、地面に倒れた。
「マキ!」
「……っ、平気……なのです! それよりも、勇者様!」
マキは杖をつきながら叫んだ。
同時に、ハンドレディは一直線に俺に飛んできた。
俺はすぐさま身体を起こし、攻撃を剣で受ける。
――さっきまでのハンドレディだったら、間違いなく、マキを倒していたが……。
互いの力が拮抗する中、俺は目の前の魔女の子を睨みつけた。
――〈呪療解放〉 の効果は三分間しか持たない。何がなんでも俺を殺すつもりだろう。……でも!
笑いながら俺を殺そうとするハンドレディに問う。
「ハンドレディ! お前わかってるのか!? 仮に俺を倒したとしても、三分後には死ぬんだぞ!?」
――〈呪療解放〉 は、三分間一時的に強くなる代わりに、効果が切れた時はその反動で自身も死んでしまう。
ハンドレディがやっていることは『自滅』そのものだった。
「アタシは! アンタに勝ちたいノ!!」
――ダメだ。もう勝ちにいくことしか見えていない!
ハンドレディはそう答えると同時に、触手をヌルりと伸ばし、俺の首に巻きつけた。
「……ッ!」
――しまった。完全に油断して……!
そのとき、パァンと破裂音が響いた。
一瞬、ハンドレディの力が緩む。
「ユータ! 今のうちに!」
ケンが触手を撃ってくれたおかげで、俺はなんとか触手から抜け出すことに成功する。
「アンタ……邪魔!!」
ハンドレディはケンに向かって触手を伸ばした。
「I’m not gonna let you do that!!」
リアムはとっさに間に入り、ケンを触手の攻撃から守った。
意識が俺から離れ、生まれた隙。そこに切り込むように、
「〈ザライゲイン〉!」
と、マキが魔法攻撃を繰り出した。
ハンドレディに稲妻が落ちる。だが、強化状態の今では何のダメージにもならず、ほんの一瞬だけ動きを止めるだけにしか過ぎなかった。
「あーもう! こっちは時間がナいんだかラ!!」
ハンドレディは、指を鳴らした。また新たなモンスターを召喚するのかと構えたが、違う。
「……っ!?」
――身体が、動かせない。
俺だけじゃない。マキもリアムも……ケンも同様のようだ。
動きを拘束された。これじゃあ、俺たちは――。
「ザンネン! アタシすごいでしょ! 今だったらこういうこともできちゃうんだかラ!」
ハンドレディは笑いながら、俺にトドメを刺しに触手を伸ばした。
俺は必死に身体に力を入れるが、全く動かない。
このままじゃやられてしまう。
頼む! 動いてくれ!
――動け、動け、動け!!!
触手が、眼前まで迫った時だった。
ふっと身体が軽くなり、空を舞う。
俺の願いが届いたのか?
一瞬そう思ったが、違う。
「……紫さん!」
「呪い如きで動けなくなる勇者とは、情けない」
触手は、俺の立っていた地面に突き刺さっていた。
あのまま紫さんが助けに来てくれなかったら、やられていた。
紫さんは俺を抱えながら――具体的にはお姫様抱っこの状態で、次々と迫るハンドレディの攻撃を避けていく。
ようやく攻撃が止んだところで、紫さんは俺を下ろした。
「男のわりにずいぶんと軽いな。ちゃんと筋肉付けているのか?」
「紫さんは、ほんっと男前ッスね……」
お姫様抱っこされる日が来るなんて、思いもよらなかったぜ。
でも、本当に助かった。
今身動きが取れなかったのも、やはりハンドレディの呪術らしい。しかし、呪術――呪いに耐性のある〈クノイチ〉効かなかったようだ。おかげで、なんとか難を逃れることができた。
「使えない勇者だ。おい、今は動けそうか?」
紫さんは俺に背を向けながら問うた。
「……すみません。まだちょっと動けないみたいです……」
情けないが、まだ呪術の効果で動かなかった。俺がそう答えると、紫さんはため息をついて、懐から十手を取り出しながら言う。
「なら、しばらく休んでいろ。あとのことはわたしが引き受けよう」
紫さんは十手を構え、ハンドレディを睨みつけた。
「この〈ユウカクガイ〉を踏み荒らした罪、しかと受けてもらおうか――魔女の子よ」




