第23話・ここで、終わらせてやる!
ハンドレディは、一斉にモンスターを動かしはじめた。
まずは同時に三体を、一番近くにいる紫さんに対する攻撃へ回す。
――あんなの、ひとりじゃ絶対受け切れない!
「勇者様! ここはわたしが!」
マキは一歩踏み出し、呪文を唱える。
「〈ホムラマ〉!」
モンスター三体は炎に包まれる。
倒しきるまでにはいかなかったが、紫さんを守ることには成功した。
しかし、グランドスネイクが倒れないのはおかしい。前回は、マキの魔法で倒せていたのに。
「アタシのモンスターは、もうアンタの魔法如きじゃ簡単に死なないわよ」
マキは紫さんの横に立ちながら、ハンドレディを睨みつけた。
三体のモンスターを見れば、それぞれ紫色のオーラをまとっていた。
各モンスターの〈STATUS〉を見れば、盾のマークが付与されていた。
――強化呪術で、モンスターを強くしているのか。
マキも同様に察しがついたようだ。マキはモンスターたちに視線を向けながら叫ぶ。
「わたしたちはモンスターたちの相手をするのです! だから、勇者様は魔女の子を!」
「オーケイ、任せろ!」
俺は、ハンドレディに向かって走りながら答えた。
エキドナのほうは、リアムと、復帰したケンが戦ってくれている。
――みんながモンスターを食い止めてくれている間に、俺はハンドレディの始末をつけねぇと!
まだ、〈凍結呪術〉の影響で〈SKILL〉は使えない。大技に頼らず、ここはなんとか自分の戦闘スキルだけで切り抜けていくしかなさそうだ。
剣を振り上げ、ハンドレディに攻撃を仕かける――まずはハンドレディの脳天目がけ、剣を縦に振り下ろす! しかし、そんな簡単に上手くはいかず、その触手よって防御されてしまう。
俺はすぐに剣を引き、続けて首に向かって横に振り切ろうとしたが、その動きは読まれ、ヒラリと避けられてしまう。呆気なく剣は空を斬ることになった。
「アンタって同じ動きしかしないわよね。自覚してる? センスがないってこと!」
ハンドレディは嘲笑しながら、俺の横腹に向かって、その触手で攻撃した。ギリギリのところで、俺は剣で防ぐ。
「そう言うお前も、動きが読めるぜ!」
虚心を張り、そう言い返すが、ハンドレディはニヤリと笑うだけだった。刹那、もう一方の触手で足首を掴まれてしまう。
「すぐ調子に乗るんだから、クソガキが」
足首を引っ張られ、身体が持ち上がる。突如、前回宙吊りにされた記憶がフラッシュバックした。
俺はぎゅっと目を瞑り、記憶を振り払うかのように、剣を握りその触手を斬った。
足首が解放される。
俺は手を付きながら地面に着地し、すぐに立ち上がった。
「〜〜〜〜〜〜!!」
ハンドレディは斬られた触手を引っ込めながら、声にならない叫びを上げた。
ハンドレディは怒りを滲ませながら、同時に三本の触手を伸ばし、攻撃を仕かける。
俺は攻撃を受け流しながら、斬られた触手を見る。
――さっきよりも回復が遅い。
斬られた触手はまだ完全に再生せず、ハンドレディの足元でうねっていた。
ハンドレディは三本の触手を、それぞれ左右、そして頭上から俺を挟み撃ちにするように繰り出した。
俺は身体を回転させながら、同時に三本の触手を斬り落とす。
――動きが鈍い。明らかに弱くなっている。
ハンドレディと攻防を繰り返しながら、考える。
――奴の息も上がっている。この様子じゃ、たぶん……。
剣を横に斬りながら、奴の顔を見る。ハンドレディの額には、一筋の汗が伝っていた。
――いつも以上に、強いモンスターを何体も従えて、体力が奪われているんだ。
その上、複数のモンスターを操りながらとなると、脳内のキャパシティも多く使うことになる。思考と体力の減りも通常の比ではないだろう。
墓穴を掘るとはこのことか。
俺らに勝ちたいあまりに、モンスターを召喚したが、当然として、モンスターの数を増やせば、その分、各モンスターを操らなければならない。
自分で編み出した策で、自分自身を追い詰めている。
ハンドレディは、自分の力の限界を考えず、後先を考えずに動いてしまったのだ。
「――自分の力量を見誤ったな、ハンドレディ!」
攻め立てるなら今しかない。
俺は素早く剣を動かし、連続で斬りかかった。
ハンドレディは即座に触手で防御するが、俺は構わず手数を増やし攻撃していく。
徐々にハンドレディの顔に焦りが見えはじめる。体力も減り弱ってきているのか、防御として構えた触手も、あっさりと一振りで断ち切れた。
――この勝機を逃しちゃならねぇ。
俺は剣を振るうことだけを考えて、ひたすらに攻めつづけた。
「まったく、ちょこまかウザいのよ!!」
ハンドレディはいよいよ危うくなったか、振り下ろされた剣を右手で掴んだ。
右手から青い血液が流れる。ハンドレディは顔を歪ませながらも剣を振り払い、後方へと飛び、距離を取ったかと思えば、次に十本のその触手を大きく広げた。
刹那、それぞれの触手は、俺を殺そうと勢いよく飛んできた。
――大丈夫。よく見ろ。今の俺なら、全部躱しきれる!
そう自分を鼓舞し、迫り来る触手を目で追う。
――落ち着け。焦って剣を振るな!
触手はスピードを緩めることなく、俺の息の根を止めようと伸びくる。怖い。だけど恐怖に負けるな! まだ待て。ギリギリ近くまで引きつけるんだ。そして――。
「今だ!!」
攻撃が一点に集中した時に剣を振り、そのすべての触手を斬った。
ハラハラと切断された触手が舞い、やがて消えていく。
「まっ、まだ!」
ハンドレディは声を上げた。
いよいよ、俺の仲間と戦わせていた全モンスターを、俺へと仕向けた。
モンスターは俺に向かって突進してくるが、俺は構わず、ハンドレディに焦点を合わせつづけた。
ふと、手元が軽くなったのを感じた。
試しに、〈SKILL〉を起動する。
それを見て、俺は笑みを浮かべた。
「――ラッキーなことに、お前にかけられた呪術の効果は終わったようだぜ」
俺は剣を構えた。
――絶対外すな。この一発を当てれば、きっと!
「アンタが攻撃を出す前に、アタシがモンスターで叩き潰して上げるわ!」
ハンドレディは右手を振り上げた。
モンスターが一斉に俺に向かって攻撃をしてきたが、そんなのピンチだとは、微塵も思わなかった。
「モンスター? そりゃ、俺の相手じゃないから関係ないね」
――だって。
「〈ジホエンジャ〉!」
「〈気合拳〉!」
「〈ロックダン〉!」
――仲間が、絶対に守ってくれる。
俺に向かうモンスターたちを、三人は見事に食い止めた。
エキドナ以外のモンスターは、ここですべて倒れた。
「……クソ!」
ハンドレディは唇を噛んだ。
ハンドレディは拳を握り締めた。エキドナは動かない。それを使役するまでの力はどうやら残っていないらしい。
俺は息を吸う。この一瞬に力を込める。
――ここで、終わらせてやる!
「〈風切剣〉 !!」
剣から魔力の衝撃波が放たれる。
それはハンドレディに命中し、そのまま奴は仰向けに地面に倒れた。
シン……と場が静まり返る。
――倒……せたのか?
俺はじっと奴を見つめ、目を凝らした。
HPはもう――。
「――『1』、残ってるのです」
マキは声を震わせて、呟いた。
瞬間、ハンドレディの身体がピンと硬直し、糸に引っ張られるかのように立ち上がった。
「アンタ……って、ホント、マヌケ」
立ち上がったハンドレディは、狂気に満ちた笑い声を上げた。
腹の底からケタケタと笑い、やがてハーっと深く息を吐くと、その呪術を口にした。
「――〈呪療解放〉、ジブンにもかけておいて、セイカイだったワ!」




