第22話・ここで、絶対にアタシの手柄にするんだから
「ハッ。姫様がひとり増えようが、何ともないわよ!」
ハンドレディの叫びと同時に、エキドナは両手を広げた。
両の手の上に、黒紫色の渦が巻く。
エキドナは互いのそれをぶつけるように両手を合わせ、高く振り上げた。
「鷹尾太夫! 一旦ここは引くぞ!」
俺は大声で呼びかけ、鷹尾太夫を背負った。
「貴様! 鷹尾太夫に触れる身分か!」
「緊急時だ! 許せ!」
紫さんとそんなやり取りをしながら、俺らは遊郭の外へと飛び出す。
同時に、背後から大きな衝撃波が俺らを襲う。
俺はなんとか足を踏ん張り、ギリギリのところで倒れるのを回避した。
ほかのみんなも攻撃を食らうことなく、地面に立っていた。ひとまず、全滅は避けられた。
「あうっ」
マキだけは、勢いにやられて尻餅をついてしまっていたが、ダメージにはなっていないようだ。
俺は鷹尾太夫を背から降ろし、マキの手を取る。
「ありがとうなのですよ」
マキは少しばかり照れを見せた。
「しかし、まんまとハンドレディの誘いのまま出てしまったな。まあしかたなかったが」
ケンは遊郭を睨みつけながら言った。
「サソイって…? なんのことだ?」
リアムは首を傾げた。
やはりリアムは、戦闘は得意だが、戦闘を読むのは向いていない。
俺はケンの代わりに答える。
「あの巨大なモンスターだ。遊郭内で戦ったほうが、動きも制限されて、少しはこっちが有利だったって話だよ」
「I see」
リアムはふむふむと頷いていた。
「だから、ハンドレディは先制を取り、僕らを遊郭から追い出すような攻撃をした。本気の本気でやらないと、僕らはあっという間に食われてしまうぞ」
ケンは言いながら、両手に銃を持った。
「いつの間に神獣レベルのモンスターを使役していたか知らないが、彼女は今度こそ、この場で僕ら全員を殺すつもりだ」
――神獣レベル。聞いただけで恐ろしいぜ。
でも、ここで勝たなきゃ進まない。
この国の人たちは、鷹尾太夫は救われない。
俺は剣を抜いて構えた。
さっきの攻撃で、遊郭は入口の原形もなく破壊され尽くしていた。
ハンドレディに従わされて、エキドナは瓦礫の上を歩きながら俺らの前に立ちはだかる。
「あら、賑やかが売りの東の国も、ずいぶんと静かになったものねぇ」
ハンドレディは、すっかり静まり返った〈ユウカクガイ〉を見渡して言った。
「観客がないのは寂しいけれど、まあいいわ。さっさとケリをつけましょう!」
ハンドレディは挑発的に口角を釣り上げ、指を鳴らした。
エキドナはその合図に応えるように動き出し、一瞬で俺の目の前まで距離を詰めてきた。
――剣を振らないと! でも、この距離だともう……!
あまりの速さに脳が追いつかない。その気迫に手が震える。
俺はただ剣を構えたまま立ち竦んだ。
エキドナが俺に向かって手を振り下ろした時だった。
ギリギリのところで、エキドナは右に傾きバランスを崩す。
「ユータ! ビビるな! しっかり剣を握れ!」
ケンの声。
見れば、ケンが銃を抜いていた。
二丁の銃口からは、煙が立っていた。
「二発撃って、この程度か」
「アンタは、いつも邪魔をする!」
ハンドレディが声を荒らげるとともに、エキドナの長い尾を振り上げ、ケンにぶつけた。
ケンはあっという間に遠くへ吹き飛ばされてしまう。
「ケン!!」
ケンは、そのまま庭園に生える松の木へ激突。
マキは回復サポートをしに、すぐにケンのところへ向かった。
ここはマキに託し、俺は再び戦いに集中する。ケンを攻撃したあとも、ハンドレディは間髪入れず次の手を打ってくる。
呪術なのか魔法なのか知らねぇが、今度は、エキドナは見えない大砲を背に構えてるのかのように、次々と光の砲弾を撃ち込んでくる。
――攻撃のテンポが早い。少しでも気を抜けば、たちまち砲弾の雨に晒されてしまう。
「このくらいっ! 避けられる!」
リアムは言って、砲弾を避けながらエキドナへ距離を詰め始めた。
右手に魔力を込めながら駆け抜け、エキドナの近くまで来たところで、思い切り地面を蹴り上げる。
「〈全・力・投・球〉!!」
リアムは、エキドナのその胸に思い切り技を決め込んだ。
仰け反るエキドナ。肩に乗っていたハンドレディもぐらりと姿勢を崩す。
紫さんはその隙に素早く駆け出し、ハンドレディに攻撃を仕かけた。
ギリギリのところで躱されてしまうが、お陰でハンドレディはエキドナから降りることになる。
――地面に落ちた今がチャンスだ。
俺は直感的に、ハンドレディの元へ走り出した。
結局、この攻撃もエキドナの意思じゃなく、すべてハンドレディが操っている。
エキドナは、やはり今までと違うモンスターだ。リアムの攻撃を受けてよろついた動きを見せたが、ダメージとしては皆無だ。俺たちのレベルじゃ、まだまだ倒せない。
こうなった以上、操縦士であるハンドレディを倒さないと――せめて、エキドナの操りを解除させないと。
距離を詰めながら、狙いを定め剣を振り上げる。
ハンドレディは、頭で考えながら他者を操っていると話していた。
だったら、その脳にダメージを与えてやればいい。
上手くいくかはわからない。でも、今はとにかくやってみるしかない。
ハンドレディは俺の動きに気づき、目を丸くした。
俺は剣を真っ直ぐに突き出し、その額に目がけて剣先を伸ばした。
「――ちっ!」
その結果に、俺は舌打ちした。
ハンドレディは頭を横に倒し躱しつつ、触手で剣先を握り締めていた。
「アンタって本当にムカつく。わざわざ女の子の顔を傷つけようとしてくるなんて」
「女の子の歳じゃねぇだろ、くそババア」
ハンドレディは苛立ちを全面に出し、握っていた剣ごと俺を持ち上げ、遠くへと投げ飛ばした。
現実じゃありえない力技に、俺はされるがままに飛ばされ、瓦礫の上に身体を打ちつけるハメになった。しばらくしてから、全身に酷い痛みが駆け巡る。
「……マジ、この機能は勘弁してほしいぜ」
言いながら俺は剣を支えに立ち上がる。
ハンドレディは、すでに俺を殺しに真っ直ぐにこちらへ向かってきていた。しかし直後、突然煙幕に包まれ視界が奪われる。
――一体、誰が?
続いて、耳元で「 〈ヒール〉 」と声がした。煙幕が晴れていく中で、俺はその姿を確認する。
「勇者様。大丈夫なのですか?」
マキは、〈ヒール〉をかけながらそう聞いた。
俺は頷き、煙の向こうへ視線をやる。
「男にチヤホヤされるだけのボンボンが! このアタシに手ぇ出すんじゃないわよ!!」
ハンドレディの標的が、鷹尾太夫へと移り変わっていた。煙幕で目眩しをしたのは、きっと鷹尾太夫なのだろう。
――だが、早く立ち上がらないと! このままじゃ、鷹尾太夫がやられてしまう!
「鷹尾太夫には、指一本触れさせない!」
ハンドレディの触手が、鷹尾太夫に伸びたその時、紫さんが間に入り、十手でその触手を断ち切った。
悲鳴を上げるハンドレディ。
紫さんは鷹尾太夫を護るように前に立ち、再び十手を構えた。
ハンドレディは怒りを顕にし、切断された触手で地面を叩いた。切断面から黒い繊維がうにょうにょと生え、それらは絡み合っていき、あっという間に元通りの形へと再生する。
「揃いも揃って、勇者の周りはウザイ奴ばっか」
ハンドレディは指を鳴らした。
地面から〈グランドスネイク〉 が現れ、触手から吹き出された黒い煙からは、さらにモンスターが二体現れた。
狼のような風貌の魔獣に、骸骨の剣士――〈魔獣〉に〈ゴースト〉か。西エリアの森で、初めてハンドレディと出会った時も、この二体を使役していたな。
エキドナを召喚させちゃあ、もうほかのモンスターは出せないと思っていたが、そういうわけじゃないらしい。
ハンドレディはモンスターたちを背に従えながら、言う。
「ここで、絶対にアタシの手柄にするんだから」




