第21話・何があっても頼むなんしよ。勇者
「――今から、アンタら全員まとめて消してやるわ」
刹那、ハンドレディは二体のグランドスネイクをそれぞれ駆使し、俺とマキたちに向けて攻撃を仕かけた。
俺は剣を素早く構え攻撃を防ぎ、そのまま縦に斬るようにして押し切った。
マキたちも確認する。リアムがモンスターに一発蹴りを入れ、しっかりとカウンターを決め込んでいた。
「勇者様! これを!」
マキは言って、瓶を宙に放り投げた。瓶は空中で弾けて消え、同時に俺の身体に光のエフェクトがまとう。
エネルギーが満ちるのを感じ、〈STATUS〉 見れば、MPが満タンに回復していた。
「ムギちゃんからのプレゼントなのです!」
――MP回復アイテムか。こりゃあ感謝だぜ!
俺は剣を握る手に力を込めた。
「カザキ――」
「回復しようが、アタシにはこれがあるのよ!」
ハンドレディは俺に向かって、「〈凍結呪術〉」と、呪文を唱えた――だが、効果はすぐには現れなかったようだ。
「――〈風切剣〉!!」
俺は剣を横に大きく振った。
剣から魔力の波動が伝わり、グランドスネイクを斬り裂き、その先のハンドレディまでも衝撃波が突き抜けていく!
ハンドレディは油断していたか、俺の攻撃は奴の頬を掠った。
その白い肌からは青い血液がうっすらの滲み出る。
「――俺のほうが、動くのが早かったみてぇだなぁ!!」
ハンドレディは呆然とした表情で頬を押さえ、ワナワナと肩を震わせ出した。
二体のグランドスネイクは砂状になり消えていく。
「前回といい……今回といい……このアタシに傷をつけて……!」
ハンドレディは血管を浮き立たせるほどに怒りを滲ませていた。
「勇者様! こっちに!」
マキがそう叫んだ。
俺らはすぐさま、マキたちの元へ移動する。
「勇者様。嫌な予感がするのです。すぐにここを離れるのです!」
マキの言葉に従い、俺らは大広間を出る。
「――顔だけはッ! 絶対に許さないッ!!」
俺らが階段を降りはじめた直後だった。
背後に物凄い音と衝撃を感じ、振り向けば巨大な何かが壁を貫いていた。
あと一歩遅ければ、あれに刺され死んでいた。
あれは一体なんだ? ハンドレディの触手とはまた違う。あれは、全体が深緑で鱗をまとっていた。
新たなモンスターを召喚したか。
全体像が見えないから、どのくらいの相手なのか、まだ何とも言えない。
だが、今は考えている場合ではない。とにかくこの場から逃げないと。
紫さんは鷹尾太夫を背負いながら、一番先を走り、俺らも続いて階段を駆け降りていく。
その間も、俺らを追うように鱗を持つ巨大なそれは、壁も階段も破壊しながら追ってきている。
次々と現れるトラップをかわしながら進めるゲームとかがあるが……ゲームの中のキャラクターはこんなにも肝を冷やしていたんだな――って、考えている場合じゃねぇ! 追いつかれる前に、地上まで降りないと!
なんとか被害に遭わずに、一階へと辿りつく。一旦、地上まで逃げることはできた。
俺は自分の手元を確認する。剣を握る手には、紫色の煙状のエフェクトがまとっていた。
――〈凍結呪術〉のせいで、しばらくの間〈SKILL〉は使えない。なんとか通常攻撃だけで凌がねぇと。
ドンドンドン、と重い音が頭上から聞こえる。その音は徐々に大きくなり、やがて、何かが天井を突き破った。
粉塵が舞う。俺は鼻と口を腕で覆いながら、粉塵の先の奴を捉えようと視線をやった。
深緑色の鱗をまとった長い何かが見える――とぐろを巻く姿を見て、俺は思い当たった。あの姿は、まるで蛇だ。蛇の胴体だ。
粉塵が晴れ、いよいよその全貌が明らかになる。俺は徐々に視線を上にやった。
その上半身は、赤い髪の美しい女性だった。蛇だと思っていた俺は、思わず目を見開いた。
女性は、その三白眼で俺らを睨みつけている。
天井に届くほどの大きさも相まって、気圧されてしまう。
「……〈エキドナ〉」
隣で、ケンが息を飲んだ。
「Maybe……ユータ。コイツ、今までより強い……」
リアムは言い、俺は小さく頷いた。このモンスターは、今までより格が違う。
さっきのグランドスネイクの比にならないくらい強いことは、その雰囲気からして理解できた。
「さっきのはほんのお遊びよ。今から本気で叩きのめしてやるわ」
ハンドレディは、モンスター――エキドナの肩に腰かけながら、そう言った。
「本当にやってくれるなんし。魔女の子という奴は」
鷹尾太夫は呟き、深くため息をついた。
「修繕費、いくらかかるか考えただけで頭が痛いざんす」
鷹尾太夫は紫さんの背中から下り、前に立つ。紫さんは慌てて「鷹尾太夫!」と手を伸ばすが、鷹尾太夫はぴしゃりと手を払った。
「わっちもこの国の長。目の前にこんな厄介な怪物が出ても、ただ見守るだけなんて御免なんし。わっちも戦う。勇者たちや紫ほど戦えなくても、普段から護身用として攻撃術は備えているなんし」
鷹尾太夫は言って、俺を見た。
「何があっても頼むなんしよ。勇者」
俺は力強く頷いた。絶対に鷹尾太夫を――みんなを守りきると、ハンドレディを必ず倒すと、決意を胸に。




